第3話 魔獣

「そういえば爺さん。あんたなんでホームレスなんかやってんだ?」


柊真は年配のホームレスの拠点。ダンボールで周りを囲んだ中、二人で唐揚げを食べながらふと疑問に思い、そう口にした。


「俺か?・・・20年前までは会社でいい所まで出世して、まあ家庭を持ちながら  

 働いていたんだがな。」


ホームレスはその時のことを懐かしみながら話す。


「だけどな、ある日、この街にA級の魔獣が現れてな、膨大な被害が出ちまったん 

 だ。その時に今の会社も徹底的に破壊されちまって、・・・その時に家にいた妻子

 も殺されちまったんだ。」


優しい目で話していたホームレスだが、その時の事を思い出したのか、目に激しい怒りを宿しながら話す。


「あいつらはクソだ。異世界から来たかどうかは知らねえが、幸せな日常を一瞬で

 壊していく。・・・破壊された家の瓦礫から妻子だとわかったのも、衣服について 

 いた肉片で分かったからだ。綺麗な遺体なんて残っちゃいなかったよ。」


激しい怒りからか、手に持っていた唐揚げを握りつぶして、当時を思い出すように話す。


「当時絶望した俺は、就職しようとも思わなくてな。自殺も考えたが、首を吊る

 度胸も無く、ズルズル20年も宿無しの生活を続けているんだ。」


落ち着いたのか、ため息を出しながら、潰した唐揚げを口の中に入れる。


「その魔獣っていうのは何なんだ?」


「・・・冗談だろ?おいお前どんだけ世間知らずなんだよ。魔獣なんて今の幼稚園児ですら知ってるんだぞ?今までどんな生活をしてきたんだよ。」


軽蔑的な目線を柊真に向ける。だが呆れたのか、ため息を吐きながらゆっくりと口を動かす。


「その様子だと、本当に何も知らねえみたいだな。」


ホームレスは立ち上がり、柊真の方に目線を向ける、


「今から100年前、この世界と異世界が混じり合う大変動が起きたんだ。

 そこで魔獣の王。『魔王』と呼ばれるヤツが率いる魔獣の大群がこの世界に来 

 て、侵略をしてきたんだよ。」


「当時の人類は、その圧倒的な力量差になすすべもなく蹂躙されちまったんだ。この 

 まま人類は魔獣に敗北すると思われた時だ。」


「異世界から来たのは、何も魔獣だけじゃなかったんだ。異世界から流れてきた

 力・・・『魔力』と呼ばれるものがこの世界に流れてきて、俺たちの中で適合

 する者達が現れたんだ。」


興奮したのか、鼻息を荒くして説明する。


「『最初の討伐者』を筆頭に、人類は第一次魔獣対戦って呼ばれる魔獣との戦争をし 

 た。当時は各地で絶大な被害が起きてしまったが、それでも人類はその戦争に勝 

 ったんだ!。」


「そして直近の10年前に、『勇者』と呼ばれる人類史上2人目のS級討伐者が現れ、

 『魔王』との決闘に相打ちという形で勝利をした。その時に魔獣の敗北は決まっ 

 たんだ!。あの時の興奮は忘れねえ、年甲斐もなく涙を流しちまったぐらいにな。」


落ち着きを取り戻したのか、ゆっくりと座り込むホームレス。


「だがな、魔王が討伐したが、その配下の残党は今もその世界に無数にいるんだ。

 やつらを率いるヤツはいなくなったが、それでも人類の脅威はまだ去っていないん

 だ。」


話疲れたのか、置いてあったペットボトルの水を掴み、半分くらい飲む干すと、

お前も飲めと言わんばがりに、柊真の方に投げる。


「そういえば柊坊、おめえ両親はどうしたんだ。」


「・・・両親は殺されたんだ。」


柊真は投げられたペットボトルを掴み、飲みながら答える。


「だとしたらお前の両親も、魔獣に殺されちまったんだな。・・・可哀そうにな、こんな小さいガキが宿無しの生活なんてよ、つぐつぐあのクソ共は非情な獣だよ。」


「・・・まあ。多分魔獣だったんだな。」


本当は魔獣では無く『転移者』に殺されたのだが、そんな事馬鹿正直に答える方がおかしいと思った柊真は、誤魔化しながら答える。


「唐揚げおいしかったな。じゃあなじいさん。またおいしいものがあったら持ってく 

 よ。」


「んなことしなくて良いよ。本当はこんな所じゃなくて魔獣被害保護センターにで  

 も行けって最初は言いたかったんだがな。」


ホームレスは右手で顎鬚をなぞりながら答える。


「じゃあな柊坊、おめえしっかりしてんだからちゃんとした所に保護してもらえ 

 よ。」


去っていく柊真に手を振りながら、ホームレスは別れの言葉告げる。その目は孫を見るような優しい目だった、何か懐かしい記憶でも思い出しているんだろう。






ホームレスと別れてから柊真は一人路地裏で歩いていた。


「(じいさんの話から、此処は本当に俺たちがいた世界とは別なんだな。転移者って

  いうクソ野郎どもはいたが、魔獣なんて聞いたことない。)」


「(・・・あの人も、俺と同じ奪われた側の人間か。)」



柊真は歩きながら、先ほどまで話していたホームレスを思い出す。


「(あんだけどん底に堕ちたのに、まだ俺に対して優しく出来るなんて、20年前とは 

  いってたけど、メンタルがとんでもなく強くないとそんな事出来ない)」


両親を殺され、同じくどん底を経験している柊真は、当時の暮らしを思い出す。

周りのすべてが敵に見えた柊真は、荒れに荒れた。

今でこそ落ち着いた対応をしているが、最初期にあのような事をしてきたら、半殺しにしていただろうなと当時を振り返る。


「よし!あの人とは仲良くやれそうだ!またうまいもんでも見つけて、大先輩に

 献上しないとな!」


もう夕方になりそうな空を見上げながら、柊真は自分の寝床まで向かうのだった。



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次の日



柊真は小走りで、年配のホームレスの拠点に向かう。



「(やばいぞ!今日は一番豪華な食事だ!)」


紙パックを手に持ちながら、柊真はその中身を見る。


「(まさかあの中からサーロイステーキが丸々捨てられているなんて・・・!

  これ爺さんに見せたら大はしゃぎして喜ぶぞ!。)」


いつもの様に柊真はゴミを漁っていると、中から食べかけでもなければ腐ってもいないサーロインステーキを見つけたのだ。紙パックに入っていたので、余計なゴミも

付着しておらず、傷んですらいなかった。

一人で食べようかと考えたが、あの爺さんには色々な話を聞かせてくれたお礼として、サーロインを一緒に食べないかと向かっていくのだった。


「おーい!じいさーーん!」


年配のホームレスの拠点に着いた柊真は、大きな声で呼びかけ、ホームレスを見つける。
































そこの周りは、大量の血が周りに付着しており、その血の池の中心に




     瀕死のホームレスが倒れていた。










「!!ッ。爺さん!!!」


紙パックを落とし、すぐさま柊真は、ホームレスの傍に駆け寄る。


外傷を見ていると、周りには無数の噛み跡があり、両足は噛み切られたのか、

太ももから下は無く、腹を食われたのだろう、中のものが飛び散っている。


「・・・あぁ、柊坊か、・・・元気そうだな。」


「何があった!!」


柊真は瀕死のホームレスがなぜここまでの重傷を負う羽目になったのかを聞く。


「・・・魔獣だ、魔獣の群れがこっちに来てな、・・・に、逃げようとしたがあい 

 つ・・・ら、早くて、な。捕まっちまってこの様だ・・・。」


ホームレスはかすれ声でそう答える。そして血まみれの腕で柊真の腕を掴んだ。



「お前さん、はやく・・・逃げろ。また・・・こっちに向かってくるぞ・・・。」


「何いってんだ!今すぐ病院に行くぞ!俺が抱えるから!。」


柊真は額に汗をかきながらそう答える。


「バカ・・・言うな。これ見ればわかる・・・だろう?もう生きてるのが不思議な 

 んだ・・・。やっと・・死ぬんだな・・・俺は。」


柊真の掴んだ腕を離し、右腕を空に上げる。


「やっと・・・妻子に会えるのか・・・。長かった・・・。」


「爺さん・・・。」


ホームレスはゆっくりと柊真の方に目線を向ける。


「俺に・・・孫がいたら・・お前さんくらいの年・・・だったのかな。」


「柊坊・・・お前は、生き・・・ろ・・よ。」


それを最後に、空に掲げた右腕は、ゆっくと地に伏せる。


「っ!爺さん・・・。」


柊真は、爺さんの顔を見る。

もう目には光が無く、呼吸もしていない。

今まで何度も仲間の死を見てきた柊真は悟る。

名前もまだ知らない年配のホームレスは、死んだのだと。


「(また・・・・。)」


柊真は歯ぎしりした後。


「また俺だけが!生き残っちまった!!」



柊真は空に顔を見上げ、吠えるように叫ぶ。


突如として周りから、無数の影が浮かぶ。


奥から出てきたのは、無数のハイエナと思わしき獣がこちらに歩み寄せた。


近くでみると、目は赤く光っており、牙は特に発達しており、その牙には血の跡が付着している。


「(こいつらが・・・爺さんを殺した魔獣って呼ばれるヤツか。)」


その奥から、群れを成しているハイエナ達よりも、一回り程大きなハイエナが姿を

現す。おそらく、あれがこの群れの主なのだろう。


「・・・」クンクン


群れが周囲の匂いをかぎ、先ほど落とした紙パックまで足を運ぶ。


そして、サーロインが入った事を認識したのか、高らかに吠え、肉を豪快に食らう。


「(こいつら、あれ目当てでまたここまできたのか・・・。」


柊真は、ステーキの匂いを辿ってまたここに戻ってきたことを悟る。


ふと周りを見渡し、群れの一匹の歯に、唐揚げの欠片が付着しているのを見つける。


「・・・そうか。」


柊真は、なぜホームレスの拠点に魔獣が押し寄せたのかがわかった。

ホームレスは、唐揚げを取って置いたのだろう、それはなぜかは知らないが、

別れた後も食わないでいたのだろう。

その匂いを嗅ぎつけた魔獣たちが、ホームレスの拠点に攻めたのだろう。


つまり


「俺のせいってことか。」


柊真は最悪の答えに辿り着いた。もしあの時唐揚げを渡さなかったら、仲良くならなかったら、あの爺さんは死ななくて済んだんじゃないか。そう自責の念が頭に浮かぶ。



        『柊真、あなたは!あなただけは生きて!』


突如として、昔の記憶がフラッシュバックする。


「・・・おれはな。てめえらみてえな集団で尊厳もクソもねえ殺しをするやつに

 反吐が出るんだよ」


柊真は異空間から『剣』を取り出す。


「ちょうどいい、爺さんの仇ついでだ。てめえらでこの身体の肩慣らしをさせてくれ 

 よ。嫌とは言わせねえぞ?」



柊真から向けられる強烈な殺気を肌で感じた魔獣は、群れの主を含めて恐怖で怯む。

それでも負けん気と、主はがむしゃらに吠え。群れと共に柊真に襲い掛かった。


「獣風情が・・・覚悟しろよ!!」


柊真が魔獣の群れに向かっていった。







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「・・・それで?ここ一帯に魔獣が現れたのは本当ですか?」


『ええ、本当です。観測所からここの地区にB級魔獣『ハイエナ』が現れた事がわか 

 りました。」


都会の車道を走っている車の中で、二人の男女がいた。

一人は運転をしている黒のサングラスを掛けた、スーツ越しでもわかる程の     屈強な男性。


その後部座席には、水色の長髪を靡かせ、黒スーツを身に纏い、その絶世の容姿からか、男女関係無く惚れてしまいそうな美女が座っていた。


「『ハイエナ』が・・・わかりました。近くに討伐者が居ますか?」


『今の所その付近に誰もいません』


「わかりました。私が向かいます。」


女性は運転手に命令する。若干戸惑いつつも運転手は了承をし、『ハイエナ』が居るであろう場所まで車を走らせてく。


『あなたが直々に・・・?B級の魔獣なら近くの討伐者が集まって戦えば済むと思い

 ますが・・・。』


「バカ言わないで下さい。もしそれで人の群衆まで来てしまったら手遅れです。

 タイムロスがあってはだめなのです。『ハイエナ』如きに後れを取る私では

 ありません。わかりましたね?」


『わかりました・・・。支部長にはそう伝えて置きます。それでは。」


電話での会話を終えた女性は、ため息を吐きながら座席に寄り掛かる。


「本当に本部の人たちは頭が硬い。被害が出る前に対処するのが普通じゃないの?。」


「姉さんは支部長のお気に入りですからね、余程の事が無い限り出動させたくない

 んでしょうよ。」


「本当にあの人は・・・。」


運転手は着きましたと言い、目的地である路地裏の入り口に着いた。


「いい?『ハイエナ』は群れを成す魔獣。それに知能も高い。常に死角に注意しな

 がら行動すること。」


「わかりました。・・・姉さんが戦うのが久々に見れますね?。

 あの時を思い出して俺、感動しそうです!。」


「無駄口を叩かないの」








ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!





その瞬間。無数の獣鳴き声が、路地裏から響き渡った。



「!!。いくわよ!!」


「はい!」





もしかしたら、もう襲われている人がいるかもしれないと思った二人は、すぐさま

叫び声がする方へ向かったのだった。







「注意して、血の匂いが濃くなってる。かなり近いわ。」


「わかりました。・・・これは正直、最悪の状況を想定しないといけないですね。」


「縁起でもないけど、その通りね。B級魔獣ともなってくると、経験を積んだ討伐者

 でも倒すのが難しい。群れで襲ってくる『ハイエナ』は特にね」


二人は走りながら今の状況を分析する。周囲に人の血の匂いも混ざっていることから

それに死傷者がいると想定した女性は、間に合わなかったと思いつつも、血の濃くなる方へ向かうのだった。



「いた!!ハイエナの・・・・死体?」


「姉さん!気を付けて!。」


そこには、無数のハイエナの死体が転がっており、中には真っ二つにされた死体や、

中から内蔵が飛び散っている死体など無数にあった。

その中心に、群れの主と思わしき死体に剣を持った血まみれの少年がいた。




「・・・・あぁ?」



少年がこちらを認識する。

あまりにも殺気立った目をしていたため、男性が守るように女性の前に立つ。


「邦男。大丈夫です。彼と話しをさせて。」


「姉さん!危険です!」


「いいから!何かあっても私が対処する。」



女性に鋭い視線を送られた邦男と呼ばれた男は、ダジダジになりながらも、言うことを聞いた。


女性は、少年に歩み寄り、同じ目線になって質問した。




「この魔獣の群れは、あなたがやったの?」


「ああ、俺の仲良かった人を殺したからな。・・・正直俺のせいでもあるけど。」



少年は後悔の目をしながら下に目線を向けた。


その目線の先には、魔獣の群れに襲われたのだろう年配の方の死体が転がっていた。


「その人とは仲が良かったの?」


「会ったのは昨日だけど、色々教えてくれたんだ。これから仲良くなりたかったんだけどな・・・。」


少年はため息を吐きながらその場に座り込む。


「・・・それはお悔やみ申し上げるわ。あなたの名前は?」


「俺?風間、風間柊真っていうんだ。あんたは?」


柊真は、女性に本名を答え、同じ質問をする。


「私の名前は水城小陽(みずしろ こはる)っていうの。聞いたことない?」


「いや知らね。」










これが、『3人目のS級討伐者』魔獣討伐者養成高校現理事長 水城小陽と、

復讐の為に神殺しをした男 風間柊真の最初の会話だった。















 



















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復讐を成し遂げた男、現代ファンタジーに転生し惰性の日々を送る @ival

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