確かによくメンヘラと言われるけれども!!僕は!!あいつより全然マシだ!!
さむがり
確かにメンヘラと言われるけれども!
下校を知らせる鐘がなる。窓からは夕日が差し込む。僕はとある人に呼び出された。これから起きることは想像がつく。何度この時を待ち、何度シュミレーションをしたことか。教室のドアが開く。ドアの向こうから僕を呼び出した笹木優里が入ってきた。髪の毛は肩までの黒いミディアムで、いかにも清楚。その清楚感が、僕は大好きだった。染めたこともコテを当てたこともないであろう黒髪の間からさらさらと見える顔は赤く色づいていた。ギクシャクと僕に近づいてくる。
数秒の沈黙があった。笹木は口をぱくぱくさせる。そして、息をすった。
「あ、綾小路君、ごめんね急に呼び出して」
まずは謝罪を述べた。とても真面目だ。
「えっと、私、ずっと前から綾小路君の、ことが好きでした。こんな私で良ければ付き合ってください」
笹木さんの顔が余計真っ赤になった。目は僕と合わせてくれない。でもそれがまた良い。顔も小粒でかわいいし、身長も小ぶりだ。そして、この子は依存心が強いだろう。
「いいよ、うれしいよ笹木さん、これからよろしくね」
そうクールに言ってみせたけど、少し声が裏返ってしまったかもしれない。でもそんなのは知らない。風が僕らを祝福するように窓から乗り込んできた。
のが、二週間前の話。
お昼休みの今、笹木さんは僕の幼馴染みの如月藍斗の膝の上で藍斗とキスをしている。しかも染められたことすらなかった髪の毛は金髪に、耳にはいくらかのピアス、長かったスカートはとても短くなっていた。
「おっかしいだろ!!!」
僕はお昼のパンを力いっぱい握った。中から具が落ちてくる。
「おいおい落ち着けよ椿ちゃん」
ニヤニヤしながら金崎優大は言う。
「落ち着けるかよ!こっちは歴代の彼女全員取られてんだぞ!?そして椿ちゃんてちゃん付けやめろ!!」
そう、藍斗と僕は幼馴染み。ずっと一緒に育ってきた。だが、藍斗はいつからか僕の物を欲しがるようになっていった。それは昔は玩具やゲームだったからまだ可愛かったが、中学に入り初めて彼女ができたときにも、その彼女も欲しがった。しかもその僕から奪った彼女は一週間もしないうちに振られている。理由は俺以外を見たからだってよ!ただちょこっとイケメンなだけで調子に乗りやがってあの野郎。
「だいたい、何で僕のモンを欲しがるかねぇあいつは」
もう具の挟まっていないパンをかじりながら言った。
「あいつもあいつで独占欲がつえーのな」
優大は言うが、椿には周りの雑音で聞こえていなかった。
「なんだ優大?なんか言ったか?」
「んーん、なんでもない。俺お花摘みいってくらぁ」
なんだよお前乙女かよといいながら優大を見送る。優大が教室から出ていくとパンと皮膚を叩く音がした。驚いて振り返ると笹木さんがこちらにつかつかと歩いてくる。僕の前で止まったと思うと大きな涙の粒を落としながら言った。
「あんたよりも努力したのに」
そして僕の頬を思い切りひっぱたき、教室から出ていった。僕は訳もわからず頬をおさえながらしばらく動けなかったが、状況を理解し、藍斗に文句を言いに行くことにした。
「おい藍斗!また僕の彼女振ったろ!」
傍から聞くとよくわからない言葉だと思うが、僕らの間では伝わる。
「だってゆりちゃんがボク以外の人を見たんだよ?こんなの浮気でしょ!?」
藍斗は先ほど殴られたであろう自分の頬をさすりながら言った。
「そんなわけあるかこの阿保!何が浮気でしょ!?だよ!あなたはめんどくさいって振られた僕よりめんどくさいじゃねえか!!」
藍斗はうつむいたまま黙っているが構わず続ける。
「だいたいなんでお前は僕の彼女を毎回取るんだよ!まあそれは僕に魅力が無かったって諦めるけど!!なんで毎回すぐに別れるんだよ!!毎回毎回僕がどんな思いで…」
そこまで言ってはっとした。藍斗は涙ぐんでいる。しまった。言い過ぎた。
「椿ならわかってくれると思ってたのに。ボクは絶対にずっと一緒にいてくれる人がいいのに」
ポロポロと涙を落とす。綺麗な顔が崩れる。
「っ。こ、高校生にもなって泣くなよな。泣いたくらいじゃ僕は許さねえからな。あぁもう!泣くなって!!」
藍斗の頬を両手で挟み顔を上げさせた。
「良いか!?藍斗!僕はお前のことは許してねえけど!この学校の誰よりもお前を知ってる!だから!これからも何回も彼女を取られると思うけどお前と友達でいるつもりでいるからな!勝手に一人になってんじゃねえ!!だから!泣くなって!!」
周りはヒューヒューと囃し立てる。藍斗は僕に抱きついてくる。何て言う地獄絵図だ。そこに優大が帰ってきた。
「…何やってんだよお前ら」
優大はニヤニヤしながら言った。ペッと藍斗の腕を叩き、腰から手を離してもらう。藍斗は少し不満そうだったが、手を話してくれた。
「優大お前お花摘み遅かったじゃねえか」
「ごめんごめん。途中で優里ちゃんが泣きながらぶつかってきたから話聞いてたんだ。優里ちゃんもかわいそうに」
まあ俺にはお前らのどこが良かったのかわからないけどと付け足した優大はまあ、次は頑張れよと僕のせっかく毎朝セットしている髪の毛をぐしゃぐしゃにした。少々満更でもなかったがさすがに恥ずかしかったのでやめろよと手で払った。
藍斗はニコニコしながらこちらを見ていた。
椿が藍斗から背を向けたときニコニコしていた藍斗の顔から笑顔が消えた。そして呟いた。
「…うざったいなぁ」
その声は誰にも届くことはなく藍斗の心を侵食していった。
花畑でかわいい女の子と椿は手を繋いでいる。名前もわからない女の子はにこりと笑いコスモス色のワンピースをふわりと揺らし椿を引っ張る。当の椿はというとこれまたニヤニヤしている。すると椿に重いなにかが押しかかった。見るとそれは大好きという言葉だった。
不快感で寝汗をかき目を覚ました椿のうえにはいつものように優大が乗っていた。だか、いつもと違うところがひとつある。それは優大の上から藍斗も乗っかっているのだ。潰れそうだった。
「まってまってまってタンマ!!重い降りろ!」
つい叫んだ。優大と藍斗はにっかりと笑い椿の上から降りた。
「おはよう椿ちゃん。遅刻するぞ」
「そーだよ椿。昔から変わんないねぇ。ボクがいないと起きれないの?」
二人はニヤニヤしながら言った。時間も時間だったから適当に支度をし、二人と一緒に家を出た。母は朝ごはんをすすめてきたが、手はつけなかった。僕の家の周りの道路はとても狭いので、二列になって歩く。今日は僕と優大が前で、後ろは藍斗だ。このときは藍斗はなぜかほとんど話さなくなる。
大きな路地に差し掛かった。信号は赤。僕らは無意識に立ち止まり話をした。
「てか今日小テストだったりする?俺全然勉強してねぇんだけど」
「え、それほんと?僕もやってねえわ。まあ、何とかなるっしょ。てか、腹へったぁ」
「食ってくれば良かったじゃん」
そんなときだった。前を走っていたトラックが横転した。横転したトラックが僕らの方へ突っ込んできた。後ろに僕の制服がグンと引かれた。僕はバランスを崩して後ろにしりもちをついた。大破したトラックの破片が飛び散る。キャーキャーと悲鳴が聞こえる。僕と藍斗驚いて肩で息をする。ふと周りを見ると優大が見当たらない。藍斗は真っ青な顔をしている。嫌な予感がしたが優大のことだ。きっと抜群の運動神経でトラックを避けたのだろう。そんな小さな希望を持って叫んだ。
「優大!!」
返事がない。そうだ。きっと周りの悲鳴で優大の返事がかき消されているんだ。だが、どんなに周りを見てもいない。悪い予感があたってしまった。よく見るとトラックのしたに赤い染みができている。吐き気を覚えた。
「優大!!!!」
トラックに駆け寄った。返事はないがまだ生きているはず。まだ痛いはず。吐きそうになっている場合じゃない。早く助けたいけれど僕と藍斗だけではどうにもならない。
「ねぇ!!誰か!!手伝ってください!!人がしたに巻き込まれてます!!」
叫んだが、他の人はトラックのしたの赤い染みには目もくれずにトラックの運転手の救出に一生懸命だ。どうしようもなく涙が溢れる。
「くっそ」
藍斗は携帯電話を取り出し電話を掛けた。
「事故です。人がトラックの下敷きになっています。場所は…」
僕の背中を擦りながら藍斗は落ち着いて言葉を紡いだ。悲鳴のなかに嗚咽が混じった。
しばらくして救急車が二台きた。一台はトラックの運転手を、もう一台は優大をつれていったが、優大をつれていった方の隊員が苦い顔をしていたがきっと助かる。と思うけど体はぐちゃぐちゃ。血はドロドロ。でもきっと助かる。そう思いながらも僕は泣くことしかできなかった。
数日たって優大の葬儀が行われた。即死だったらしい。藍斗に介護されるようにお寺に着いたら優大の母や父、クラスの友達がいた。優大のお母さんはやつれていた。マスカラが涙で落ちたであろう痕が彼女の心を語っているようだった。椿と藍斗に気がついた優大の母が寄ってくる。椿の前に立ったと思うと力いっぱい椿の頬をビンタした。優大の母は有名な教育者で優大に全てを捧げてきたと言われている。
「なんでうちの子を守ってくれなかったのよ!?なんであんたらだけ生きてるのよ!?あんたらも死ねば良かったのに!!」
そこまでいったとき、藍斗が優大の母をビンタした。彼女はその場にうずくまり泣き出した。そこに優大の父が来て、頭を下げ彼女に肩を貸し去っていった。
棺の中の優大の顔には包帯が巻いてあった。せっかくだし、最後になるから顔を見たいと思って包帯に手を伸ばすと藍斗に手を捕まれた。
「藍斗?どうした?お花摘みか?今は手を離して…」
見ると藍斗は泣いていた。
「椿…。お願いだよ。正気に戻ってよ…」
涙が溢れてきた。
「ごめん。藍斗」
棺から手を引っ込める。静かに包帯越しに優大の顔を見る。
「なあ、藍斗」
優大の顔を見ながら言った。
「なに、椿」
「あんとき、引っ張ってくれてありがとな」
あんときというのはトラックが横転したときのことだ。その事故で死んでしまった優大の前でこんなのとをいうのは申し訳ないと思うがずっと言いたかった。
「うん」
嗚咽が漏れる。そんな僕の背中を藍斗は自分も泣きながら擦ってくれた。その時僕は(藍斗ならずっと僕を捨てないでいてくれるかもしれない)と思った。
それから数日の間僕たちのクラスはどこか元気の無い雰囲気だったが、一週間もしたら皆元気に戻っていた。優大の机の上には花瓶に刺さった百合が置いてある。毎朝遅刻していた僕と藍斗は事故があってから毎朝早く登校し、花の水を変えるようになった。そして、優大といた分の時間は藍斗との時間になった。一緒にいられる時間が増えたのは藍斗も嬉しい様で満足そうにしている。
「ねーぇ椿、今日さぁうち来ない?この前言ってたインクのゲームやろうよ」
「…」
「どうしたの?椿?」
なにかが物足りない。ハッと思いつき藍斗にお願いしてみる。
「あのさ、一回だけ。一回だけでいいから椿ちゃんて呼んでみてほしいんだ」
ニヤニヤしていた藍斗の顔が真顔になったが椿は気がつかなかった。
「椿ちゃん」
言葉では表せないが、体の奥底からぐわっと来るものがあった。まだ優大のことを考えている自分がいる。依存体質な藍斗にこんなことを頼んだら怒るだろうかと思ったが呼んでくれた。
「ねーぇ椿ちゃん?来るの?来ないの?」
藍斗の上に座っている状態の僕のお腹を腕で絞めてきた。
「イタイイタイ。行くって」
やったと藍斗はへらりと笑った。
放課後になり僕と藍斗は一緒に下校した。このまま直で藍斗の家へ行くつもりだ。これといった会話はなくても依存心の強めな僕からすると一緒にいられるだけで良いと思う。途中のコンビニではお菓子とジュースを買った。優里が彼女になってからは一度も藍斗の家にはいかなかったから久しぶりだ。藍斗の家は一軒家で、母親は研究者でずっと研究室に籠っているような人だから家には帰ってこない。父親はずっといないらしい。そんな広くて寂しい家に着き藍斗はドアを開けた。中に入っていく。僕もそれに続く。
「おじゃましまーす」
「コップ持っていくからさき部屋行ってて」
そう言われて暗いリビングを抜けて階段をあがる。階段をあがったら左側に藍斗の部屋がある。
電気をつけると脱ぎ捨てられた寝巻きや机の上に散らばった参考書と問題集。そして毎回来た度に確認しているのが
「ベッドの下!!だが、」
毎回なにもない。そこに藍斗が帰ってきた。
「何やってんのよ毎回」
藍斗は呆れたように持ってきた皿とコップを部屋の中央にあるテーブルに置いた。
「ねえ、なんで毎回ベッドの下綺麗にしてんの?こういうときはベッドの下の疚しいものの話で盛り上がるのも男子高校生の仕事なんだよぉぉ」
そう嘆きながらコップに買ってきたジュースを注ぐ。
「ほんとに椿って疲れるとおかしくなるよね」
ふぅと息を吐きながら隣に座った。ゲームを取り出して準備をする。僕はジュースを飲みながらその横顔をぼんやりと眺めていた。
ゲームを初めてどれくらい時間が経ったのだろうか。外は暗くなっている。
「どうしよう。帰ろうかな」
えぇーと藍斗は声をあげる。
「泊まっていきなよ。明日休みでしょ」
「まじ?いいの?」
「うん。電話しなよ」
「うわー。まじありがとう」
バッグを漁り携帯電話を取り出し、家へ電話を掛ける。ワンコールで母が電話に出た。
「ちょっと椿!!あんたどこで何やってんのよ。お母さんたち もうご飯食べちゃったよ!まさか、優大くんが死んじゃったからって後追いしようとしてるんじゃないだろうね!?どこにいんのよ!あんたが死んだって優大くん喜ばないよ!?」
キーンとする甲高い声で母は言う。
「違うよ!藍斗の家でゲームしてんの!もう遅くなったから藍斗の家に泊まるっていうことを言いたかったの!」
「そうなの?ならいいけど着替えはどうするのよ」
「あー、藍斗の借りるから要らない」
「そんなん言ったって藍斗君のサイズあんたに合うの?」
「んー、平気っしょ、じゃあ切るね」
「ああちょっと」
通話終了ボタンを押し、藍斗の隣に戻った。
「何て言ってた?泊まっても良いって?」
「うん、後で服貸して」
「良いよ」
「ピザでもとる?」
「うん」
窓から光が差していて目が覚めた。横では椿が眠っている。くぁっ幸せっ。でも昨日椿ちゃんて呼んでって言われたときは傷ついたな。なんだか優大の代わりにされてる感じがして。でもやっぱり椿にはボクしかいないって分かってるから少し余裕ができたかもしれない。優大君は少し可哀想だけどあれは本当に事故だったしラッキーだったかも。さて、どうやったらこの鈍感椿は気づいてくれるかな。このままずっとボクの隣にいてくれたら良いのに。そう思いながら熟睡している椿の頬にそっとキスをした。
キッチンで朝食を作っていると椿が降りてきた。ボクのサイズの合わない服をダボダボと着ている姿もいとおしい。
「おはよ」
寝起きで掠れた声で椿は目を擦りながら言う。
「おはよ、どこかいく?」
「ブハッ、なんか夫婦みたい」
と言いながら椿はテレビをつける。
夫婦かあ、良いなあ。ボクもなれたらなあ。でも椿は女の子にしか興味がないんだろうな。
「ボクも女の子に産まれてくれば良かった」
ハッとした幸い椿には聞こえていないようだったからボクもなにもなかったように接しよう。
「やっぱりかわいい子は良いよなぁ」
テレビのお天気お姉さんを見ながら椿は言った。やっぱり女の子が好きなんだ。
「ボクも女の子に産まれてくれば良かった」
確かに藍斗の声でそう聞こえた。ただ、僕に向かって言ったことだとは限らないから言葉のキャッチボールはやらなかった。こいつは好きなものになりたいのだろうか。男の僕じゃやっぱり嫌かな。
「やっぱりかわいい子は良いよなぁ」
そう僕は言った。羨ましいという意味を込めてだ。
「ねえ、椿。今日付き合ってくれない?」
「ん。良いよ」
「じゃあ買い物いこう。服を選んでよ」
付き合ってという言葉には二通りの解釈がある。恋人として付き合ってくれという意味かただの付き添いと言う意味か。僕は前者として受け取った。自分でもこんなことを考えて悲しくなるが別に僕が彼に依存し、彼も僕に依存してくれているならなんだって良い。これからの二人の時間を大切にしたいと思い、恋人としての初デートの準備をした。
確かによくメンヘラと言われるけれども!!僕は!!あいつより全然マシだ!! さむがり @atugisitemasu
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