第八話:邪気の夜会
国王が馬車から出ると案内人が何人かいそいそとやってきた。
エアハルトが私に手を差し出し、促されるまま馬車から出た。
「国王陛下、ご足労頂いて恐縮です」
なんてやり取りをしている。
付き従う兵士も辺りを警戒している。
私は案内人と国王が行く先について行くだけの人形になりかけているが・・・。
コツコツ足音と、話し声が聞こえる。
どれくらいの人が集まっているか、なんて予想もできないけど。
「おお、国王陛下。お待ちしておりました」
「ああ、貴殿も今日は主催してもらったようでご苦労」
「この国の発展を願ってのことです」
また大人の話をやっているみたいだ。
私はそれをぼーっと眺めているだけなんだけど。
えっと愛想を振りまけばいいんだっけ。
って、誰に?
「さあ、王女殿下こちらです」
会場から更に人が出てきて、私を案内する。
国王は未だ何かの話で足止めをされているようだ。
会場の扉をくぐり、ロビーを抜けて夜会が行われている大広間にやってきた。
豪華絢爛を表現したような燦爛たる装飾の数々。
大盛りの食事に、大勢の人たちがテーブルを囲んでいたり、離れて談笑している。
そして入場すると、皆が示し合わせたかのように視線が集中する。
(うわあ・・・めっちゃ見られてる)
「王女殿下だわ・・・」
「おお、我が国の真珠」
「体調は良くなったのだろうか」
なんて様々な発言が聞こえてくる。
そのすべてが好意的な発言ではなく。
「祈りを授からなかったそうよ」
「顔が良いだけで、何の才も持たないと聞いたわ」
「我が家に迎えたい、未来が視える力は誰もが喉から手が出るほどだ」
最後危ない声が聞こえたような・・・。
大丈夫かな、この国。
よく周りを観察すると。
檀上には演台があり、その後ろには国旗が掲げられている。装飾も拘った垂れ幕。
檀上の上は更に階が続いて2階建ての様になっており、両端から階段が伸びている。
違法建築のような不思議な造りになっていた。
「えーー、今夜は御集り頂いてありがとうございます」
夜会が始まったのか、挨拶の声が会場に響く。それと同時に国王も会場へとようやく現れた。
「ウンディーネこっちだ」
国王は手招きすると、2階への階段を上っていく。
私もその後に続き2階へ向かうと・・・。
ああ、これはVIP席という訳か。
2階の席には1階のテーブルにはない料理も置かれて特別待遇が感じられる。
テーブルの造りも違うし、クロスの金が輝いて目が痛い。
私と国王はテーブルに着き、兵士たちは階段で警備している。
「本日は国王陛下も参加して頂いております」
この2階は下を見下ろすように出来ていたため、国王は柵際に近寄ると「おー」と歓声が上がる。
国王は手を挙げて挨拶をしている、それに応えるように参加者からの拍手が贈られる。拍手の中、国王は踵を返しテーブルに着く。
「そして今日は王女殿下が初めてのお目見えとなっております」
国王は私に行ってこいと目で訴えてくるため、仕方なく柵に近づいていく。同様に拍手は贈られるものの、先程と比べては少ないように聞こえる。
策際で手を振りつつ、帰り際を模索していたところ。
ピキッ。
「な、なに?」
何かが破損する音が聞こえ、私は音の出元先を探すが分からずに慌ただしく首を振るだけだった。
「ディーネ下がりなさい!」
国王の声が響くと、真上から電球から外れた魔力石が落下してくる。
私は魔力を耳に集中させると、すんでの所で姿は消え、会場内に魔力石が落下した音が響く。
私は自室に転移したため、無事だった。
その自室ではソフィーが私の寝支度を準備しているところだった。
「王女殿下・・・どうされました?」
「いや、ちょっとね。またあとで戻ります」
私は再び、夜会会場の国王の元へ転移した。
転移したあとは会場がざわついている。
「ウンディーネ!無事だったのか、ここで転移の力が役に立つとは」
「ご心配をおかけしました」
「いや、無事で居てくれたのならそれでいい。兵士よ、会場周囲を警戒せよ!誰も会場から出すな!」
「は!」
混乱しつつある会場では様々な声が聞こえてくる。
「あ、暗殺?」
「私たちも危ないんじゃないか」
「今出て行ったら怪しまれるぞ」
声が響くなか、数人の足音がこちらへ近づいてくる。
「国王陛下、ご無事ですか!」
中年貴族が2階へ上がってきた、兵士は犯人を警戒しに階段から離れたためかノーチェックで来た。
「ああ、私は無事だ。被害に遭ったのはウンディーネだ。あの電球に魔力痕跡がある。誰かが意図して落としたんだろう」
「ウンディーネ様も災難でしたな・・・怪我がないようで安心しました」
「ご心配ありがとうございます」
・・・って、誰だこの人。
ここには会ったことも見たこともない人が多い。
この人は、近づいても国王は警戒しなかったから結構偉い人なのでは?
「今回の夜会は何だか、きな臭くなってきました。城にお戻りになられた方がいいのでは?」
「犯人がまだ捕まっておらん。王族に敵意を向けた者を捕らえなければならん」
「ウンディーネ様もおられる、危険が及ぶ場合もあります。・・・その役割、私に任せてもらえませんか」
中年の貴族は何だか手柄が欲しい、その様な雰囲気を出していた。
「ほう、犯人探しをしてくれると?」
「左様でございます」
中年貴族は国王に跪いて頭を下げている。
私には何だか裏がありそうに見えるけどなあ。
「では、その役目を貴殿に与えよう」
「は、光栄な役目でございます」
「ウルリヒ・フォーティーン・シュプレーティ=ヴァイルバッハよ、この場を任せよう」
役目を与えられたアルリヒは第一に我々の身の安全を考えたのか彼の側近たちを呼び寄せ周りを取り囲むように警備しはじめた。
そして私たちは階段を下りていく。
1階会場は、貴族たちが襲撃に怯えているのか、犯人だと間違われるのが嫌なのか縮こまっている。
我々のボディガードの様になった人たちと会場を抜け、外に出たが馬車が見当たらない。
「国王陛下の馬車はどこだ!」
一人の男が声を上げるも、蹄の音も車輪の音も聞こえはしない。
辺りは静かに、身体に寒気を覚えさせるような風の音しか聞こえない。
「馬車は来ませんよ」
暗闇から聞こえる声はどこか、かつて聞いたことのあるような声だった。
「国王陛下、お久しぶりです」
「だ、誰だ」
「もう忘れてしまいましたか、たかが小娘の一声で辺境に追いやったじゃないですか」
「アルコ、お前か。この騒ぎを起こしたのは」
「ええ、とてもとてもその王女が憎いのです」
暗闇からは赤い目が光り、その声音には憎悪が込められているソレに聞こえる。
「お前が横領をしたのが悪い、自業自得だ」
「辺境に飛ばされるのなら、蜜を啜れる晒し首の方がマシだった!」
アルコは過去に王族裁判をしたとき、私が「地位を退け」という刑罰の結果、辺境に飛ばされたクヌート・ワン・アルコ伯爵・・・元伯爵家の当主。今は長男が家督を継いだのだっけ。
・・・て、晒し首の方がマシってどんな生活送っているんだろう。
「辺境は魔族が侵入してきたり、日々悪魔に怯える生活だった」
辺境ってそんなヤバイところなの・・・。
「でも、もう怯える必要はない!」
ビリビリッ!
暗闇に怪しく赤い発光を放つとクヌートは深紅の軍服を身に纏い、その足は赤い毛並み。そして胴体は赤い馬の、赤いケンタウルスと化していた。
「ボクがぁ、この女にぃ天罰を与えたら平和な生活に戻れるゥ」
話し方キモっ!
あのおっさんから見た目は子供のような姿になっている。
「あ、悪魔になりおった・・・!」
国王は驚き一人のボディガードに対し「人を呼んでこい」と指示する。
「ボクは偽王国72柱が一人、公爵級悪魔ベリト。誰が来ても一緒だから覚えなくていいよ、皆ぁここで死ぬんだから」
べリトの前足が地面に蹄の音を響かせると金色の光が地面から、ドスドスと音を立てた衝撃波が我々を襲う。
「くっ・・・!」
我々のボディガードは一撃で死亡し、国王は左腕を失った。
私は自動防御が付いているので無傷。
残されたのは国王と私だけだった。
「悪魔に魂を売ったな!アルコ!」
「ボクの名前はベリトだってぇ、あ、覚えなくていいって言ったんだっけ」
「人に戻れなくなるぞ!」
対峙する我々とベリト。ベリトは至って余裕を見せているが、国王は失った左腕からポタポタ血を流している。
「そんなこと当たり前に知ってるよぉ、でも、この王国を滅ぼせば人に戻れなくても住めちゃうんだよねぇ」
NPC王女と異世界殲滅計画 恋・山乗 @ren_yamajo
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