第七話:遅すぎた社交界デビュー
聖歴1999年1の月。初めてこちらの世界で年越しをした。
異世界の年越しは年越しそばとか、除夜の鐘。新年には初詣におみくじみたいな行事、習慣はなかった。
年を越すと今年社交界デビューする子たちのお披露目もあるらしい。
新年に大変ですね。
そういえばあの後レオンがどうなったかというと、さすがに命を落としたようだ。はじめての殺人花火職人となってしまった私。
メンタル的には「衝撃耐性」があるからか、元々のサイコパス部分があった自覚はないけれど特に傷は負っていない。
そのレオンは私みたいな祈りを持たない少女に敗北を喫した事を恥じたのか、団長を退任した。その後何をしているのかは、別に私が気にすることではない。
そして現在の私は自室に訪問してきた国王と話している。
「ディーネ、レオン団長・・・いや、元団長と練習試合をしたのだと聞いたが」
「ええ、しましたよ。父上」
何故か問い詰められるように国王が質問攻めしてくるので、こういう貴族絡みは面倒なのだと改めて実感した。
「まことだったのか・・・それで、打ち負かしたと聞いたが?」
「ええ、汚い花火にして差し上げました」
「きたない・・・花火・・・?」
おっと、いけない。花火という文化はここにはないようだ。
王女という身分にすっかり慣れてしまい、人前での口調もお手の物と言いたいところなんだけど。やっぱり本物ではないからボロが所々出る。
「ううむ、成長が目覚ましい。これもローザモンド伯爵令嬢との日々の訓練の成果か」
「ええ、とても師匠には良くして頂いております」
師匠って貴族だとは知っていたけど、伯爵家だったんだ・・・。
そんな事も知らずに毎日共に過ごしていたのだが。
師匠との日々は確かに私を強くしてきた、師匠のお陰2割、私の努力8割くらいだけど。
今日も私の努力の結晶、防衛機能「ウォーターシールド」に包まれている。
その中、国王は私の肩にポンと手を置いた。
害意や敵意、攻撃性がないと判断したのか発動はしない。
「最近は礼儀も作法も、実力も付いてきた。私は大変に感動したのだが、本番は来月のアレース祭だ。引き続き励めよ」
「はい、父上。素敵な場を私に与えてくださり、光栄です」
なんて思ってもいない事を私はペラペラ話せるようになった。
本音を言えば、余計なことをしてくれて有難迷惑というものだ。
アレース祭はこの国の最強を決める、毎年の行われる祭典らしい。
それの最後を飾る重荷、観客に注目されることは間違いなしだろう。
それにしても、サラマンダー兄はどういう戦い方をするのか。その手の情報を持たない私には対抗策を講じる案さえ作れずにいた。
今の私は、師匠とマジで戦った場合は決着が付かず引き分ける可能性が高い。魔力が尽きない限りの話、なぜか私の魔力は無尽蔵に出てくるから引き分けを想定する。
魔力が尽きれば私の四肢のどれかはもがれて戦闘続行は絶望的になるだろう。
最初は急所をよく狙われたのだが。途中からそれを躊躇するようになった。
どうしてだろう。
「ああ、ディーネよ。伝えることを忘れていた」
国王は出て行こうとする間際に、振り向き何かを思い出した様子。
こほんと、咳払いをしている姿に私は首を傾げた。
そんな重要なことだろうか。
「なんでしょう、父上」
「明日の夜会に出席しなさい。サラマンダーの帰城は少し遅れている、数日の間にでも帰ってくるだろう。ノームも未だ鉱山に籠ったままだ、シルフは体調が優れん。ディーネが代わりを務めよ」
「夜会・・・?」
「貴族の夜会だ。今年最初のな。新年の晩餐会みたいなものだ。ただ愛想笑いでもしておけばそれでいい」
なんて大雑把な助言なんだ・・・。
私の勘違いで、異世界には新年会という習慣はあったみたい。
「はい、承知しました。父上」
私はドレスの裾を摘まみ、お上品な礼式に倣う。
満足したのか国王は部屋を出て行った。
この為だけに来たのかな?王なら呼び出せばいいものを・・・。
私の手間は省けてラッキーだったけどね。
続けざまに自室の扉がノックの音が響く。
「はい、どうぞ」
「国王陛下がいらしていたの?珍しいこともあるのね」
ローザモンドは最近、少しずつ私に対しての礼節をわきまえてくるようになった。どういう風の吹き回しか分からない。
それでもまだタメ口をきいてくるけど、前はノックもなしにズカズカと侵入してきたものだ。
「ええ、明日夜会に出席するように言われました」
「随分遅い社交界デビューね」
「今更出ても仕方がないとは思いますが、父上の頼みなので」
「随分、王女として成長したものだわ。過去の王女様はどこへ行ってしまったのやら」
な、何だか、偶然だろうけど核心をついて来るような言ってきた。怖いなあ。
「こ、心を入れ替えたんです」
「ふうん・・・まあ、何でもいいけど今日も稽古をするわよ」
「はい、師匠」
私は今日も師匠と剣を交え、汗を流した。
兄との対決は目前だ、そろそろ危機感を覚えてきた。
もう少し、シールドに改良でも加えよう。
準備は万全にしておこう、と珍しくもやる気で満ちている私は熱でもあるのだろうか。
* * *
翌日になった。
夜会を目前に、私はいつも通りソフィーとメイドさんたちに囲まれてドレスに着替えている。あまり目立ちたくはないのだが、今年成人を迎える王族だからとギラギラと輝く装飾品まで着けられた。
「ウンディーネ様、失礼ながらも胸が大きくなったように感じます」
「ほ、本当!?全然失礼じゃないよ・・・ではありません」
嬉しさのあまり、いつもの口調に戻ってしまった。
いけないいけない。
メイドさんはくすくす笑っている。ソフィーはだんまり。
私が胸が大きくなったことを素直に喜んでいるのが面白かったのかな。
椅子に着席すると、ソフィーが一礼して髪を梳かし始める。
「王女殿下もやはり女の子なんですね。私はてっきり見た目に拘らない大らかな人かと思っていました」
ソフィーは私の髪を結いながら淡々と話す。
本当に堂々と物を言う人だ・・・その余裕、私も欲しいなあ。
と、ないものねだりをしているうちに準備は整ってしまった。
私が椅子から起立するとソフィーが話す。
「どの服も新調する必要がありますね、アレース祭前に採寸してもらいましょう」
「そうしましょう。父上に掛け合ってみます」
「いえ、新しい服の目途は私に任せてくれませんか?」
うん・・・?ソフィーが珍しいお願いをしてくるものだ。
まあ、私はこだわりがないから何でも良いのだけど。
「では、ソフィー。よろしくお願いね」
「はい、王女殿下。殿下が納得するものを準備致します」
私はドレスの裾を摘まみ、自室を出る。
王城の廊下は長く感じるも、日々の鍛錬のお陰か少しのことでは疲れなくなった。
毎日歩いているも、ここは本当の私の家ではないのだから未だ少し違和感が残る。
こんな所を歩いているなんて、私の人生はおかしなことになったなあ、と。
城の前には馬車が止まっている、そしていつも操縦してくれるエアハルトが待っている。
「王女殿下、今日もお美しい。ではこちらへ」
エアハルトはどのくらいこの仕事をしているのだろうか、そんな些細な疑問を聞いている時間もなく私は馬車へ乗り込んだ。
先に国王が座っており、国王の服装も外向きの派手目なものとなっている。
「ディーネ時間通り来たか。あの王女が今や、この様に育ってくれて私は嬉しい」
なぜか第一声に褒められた。これは素直に喜ぶべきか悩みどころだ。
国王はエアハルトに夜会へ向かうよう指示すると、馬車は動き出す。
護衛の騎士たちも周囲を並走する。
「これは父上の教育の結果でございます。父上の背中を見て学びました」
いつもの王女っぽく振舞う言葉をつらつらと並べると、大変喜んだ。
「おお、そうか・・・それは共に過ごした時間が無駄ではなかったと、ディーネの口から聞けて良かった」
娘の成長を喜ぶ父、それは国王であっても変わらないのだろう。
きっと、たった一人の娘だからかな。
・・・でも、本当のウンディーネではないんだ。
「サラマンダーとの対決、勝算はあるのか?」
私は少しセンチメンタルな気持ちになった時、国王が話題を変えてきた。
馬車の足音、車輪の音が響き、時折車内も揺れる。
「い、いえ・・・手の内も知りませんし」
「確かに、兄の力を見たことはなかったな」
今まで共に稽古をしたこともない上、私に変わってからは会ったことすらないからなあ・・・。
ぶっつけ本番で戦うしかない。噂だと魔族や悪魔と現役で戦う学生で最強ときたものだ。そしてアレース祭は殿堂入りしていると聞く。
王都内で行われる夜会のお陰か、揺られお尻が痛い思いをすることもなく目的地が近づいたのか馬車の速度は徐々に落ちていく。
目的地に着いたことを察した国王は私に助言をする。
「兄、サラマンダーの祈りは火の蛇を扱う。一回一回の攻撃は重く、威力は凄まじいが対大勢だと威力は分散する。いや~うっかり、口が裂けてしまった。誰にも聞かれていないと良いのだが」
国王はわざとらしく口を押えた。
こんな情報を渡していいのかな、対戦相手に。向こうも私は弱いままだと思っていっるだろうに。
「本当に、誰にも聞こえていないことを願いますね」
「はは。さあ、夜会へ参ろう」
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