第六話:初めての練習試合
「いやあ、王女殿下がカカシを爆散させる程の力を有していらしたとは思いませんでした。でもカカシがきっと不調だったのでしょう」
遠くからパチパチパチ、と拍手が近づいてくる。私は振り向くと、一人の男が拍手をしていた。
・・・誰?
「申し遅れました、私はレオン・テン・エルベン。王国兵の剣士団長をしております」
「本日はよろしくお願いします」
うわあ、何だか辛気臭い貴族だ・・・。最低限挨拶しておけばどっか行ってくれないかな。
そんな淡い期待も虚しく、あまり離れてくれないレオン。
「王女殿下と共に訓練できるなど、兵士にしたら嬉しい限りでしょう。しかし、それまでとは味気ない。どうです?うちの剣士と練習試合でも」
そんな提案に割って入ってきたローレ。
「今日は視察で来られているのです、王女殿下に刃を向ける気ですか?」
「それは失敬、兵士たちの士気も上がると思ったので。王族が一般兵に負けるなんてあってはならないものですから、避けて通るのも手ですね。で・ん・か」
これは完全に挑発してきている。
王族が兵士に負けたと言われれば、「王族は力を持たない」と証明しているようなもの。ただの練習試合の提案を拒絶することも、負けを恐れていると思われても仕方がない。
対峙しているとローレは私に耳打ちしてくる。なんて最高な日だ、と思うも目前の男の存在が現実を突きつける。
「彼は、サラマンダー殿下派です。なので、蹴落とそうと思っているのでしょう」
なんだその派閥、と思ったけど何となく察する。
王位継承権絡みか・・・、などと王族らしい考えが出来るようになった。
サラマンダー派は、きっとサラマンダーに王位を継いで欲しい派閥なのだろう。
「何を耳打ちされているのでしょうか?逃げる理由の落ち合わせですか?」
このレオンという男は、ネチネチした男だなあ。これが王位継承権の争いの一端か、面倒だ・・・こんな事がこれからも続くのかなあ。
私はレオンの目を見て、睨みつけた。
「王女殿下は私みたいな者を睨みつけてしまう程度の度量しか持ち合わせていないのですね」
「あなたが無礼を働くからでしょう?」
ローレは私のことを庇ってくれる。でも口喧嘩は向こうの方が強いみたいだ。
「私は練習試合のことを提案しただけです」
ローレちゃんはメンタル的には強くないのか、すっかりしぼんでしまった。
こんな可愛い子をいじめるなんて、許せないよねえ?
「練習試合を受けましょう」
私がそう発言するとローレは心配な表情を向け、レオンは釣り針に魚が掛かったかのような気味の悪い笑顔を見せた。
「王女殿下はさすが、受けて下さると思いました。対戦相手ですが、うちの・・・」
私は発言を被せるようにレオンに挑戦状を叩きつけた。
「対戦相手はあなたです。まさか無理だとは言わないでしょう?」
私はやり返すように、レオンに言い放った。
レオンは一瞬吃驚したような表情を見せるも、気づくと今までの余裕を見せる。
「団長の私に挑むとは、王女殿下は挑戦的だ。逃げも隠れもしませんよ」
「王女殿下・・・」
ローレは私の手を握り、これから身に起こる事を案じたのか、ただの心配か、それは私に分かるはずもなく。
「大丈夫だよ、ローレちゃん」
私はローレに向かって笑顔を見せた。
その中、察知するのが激遅師匠がこちらへ近づいてくる。
おそ・・・。
「ごきげんよう、レオン卿。どうかなされましたか?」
「これから、王女殿下と練習試合をね。私が稽古をつけてあげましょう」
レオンは私との練習試合を稽古だと言い始めた、むか・・・つく・・・!
ボコボコにしてやるんだから!
「ほう・・・何だか面白いことになっているようだ。訓練は中止だ!場を整えよ!」
師匠は何かの魔法を使ったのか、拡声器のように声が大きくなり全兵士に伝えた。
王国兵士の仕事の速さを侮っていた。野球部が使うトンボみたいなものを魔法で操り地面を整地し、場をすぐに整えた。
「さあ、王女殿下こちらへ。お稽古の時間ですよ、クフフ」
きもっ。
従うのも癪だが、逃げると言われるのはもっと癪なので指定された地で待機する。
練習試合を目前にして、レオンは何かを宣言する。
「私はレオン・テン・エルベン。祈りは夢想剣。祈りに、正々堂々と戦うことを誓おう!・・・さあ、王女殿下も祈りに誓って下さい。あ、忘れていました。祈りは貰えなかったんですよね。アハ!これは失敬」
それに続いてレオンの忠実な部下たちは一緒になって笑い声をあげる。
コイツ、絶対にわざとやったでしょ。
誓わない私に向かってネチネチと続ける。
「誓える祈りを持たずして、私に練習試合を挑むとは命知らずか、氾濫王女のまま、か」
「御託はいいので、早く始めましょう」
もうこの人の話はまともに聞く機会はないだろう。
私が始めましょうと言うと、師匠は審判役を買って出た。
「死亡、戦闘不能、私が戦闘の続行が不可能だと思った場合は試合終了とする」
死亡、と聞いた瞬間にレオンは再び気味の悪い笑顔を浮かべる。
「ああ、王女殿下を殺してしまうなんて本来ならば不敬罪で捕まってしまうでしょう。でも、これは練習試合です。恨まないでくださいねえ~?」
もはや聞く耳を持たない私は、師匠に「早く始めて~」と目線で送る。
それを感じ取ったのか師匠は開始の合図をする。
「では、王女殿下とレオン卿の練習試合をはじめる!」
レオンは剣を抜き、私も魔法剣を抜き構えた。
でも私は一歩も動く気はないよ。
「王女殿下、試合は始まってますよ」
「知っています、あなたが来ればいいじゃないですか?」
私は既に話を聞きたくないくらいにプッツン切れちゃってるんだよね。
レオンは、顎で使われたような感覚に眉間にシワを寄せる。
「そのような事を言い続けていられるのは、あと何秒ですかね?」
レオンは早速祈りを発動したのか、何かをブツブツ言っている。
「我の声を聞き給え、剣よ、かの者を切り裂く力を我に!」
祈りって毎回こんな事を言わなきゃならないの?いやだねえ・・・。
レオンは瞬間移動したかのように、私の背後に立った。
「王女殿下、もう諦めたのですかあ?」
その声が聞こえた瞬間、レオンが剣を振り被っているが私は動かずに「空に鳥が飛んでる~」くらいにしか思っていなかった。
剣が私に迫る、その剣は首を正確に狙い切り落としたと誰しもが思っただろう。
その瞬間にもローレの声が響く。
「王女殿下!」
その剣は首を飛ばす前、金属音だけが響き何かに妨害されレオンは目を疑った。
私が何もしていないのにも関わらず、剣が打ちかえって来たのを不思議がっている。
「な、何なのだコレは!」
レオンは何度も何度も、私の首を狙って剣を打ち込む。どれも全て弾かれ、レオンは剣技を見せる。
「これでも喰らえ、インフィニット・マーダー!」
うわ・・・何か痛い技名が聞こえたような・・・。
私には分からないけど、何連撃かをしてたのかな。私には傷ひとつ付けることはできなかったみたいだけど。
傷を付けられない正体は、全身を水の殻で覆っているから。殻だけにね。
私はそれを「ウォーターシールド」って勝手に呼んでる。安直でしょ?
水の殻といっても水属性で一応魔力を練って纏っただけ。あとは魔力がある限り永続でついてる。殻は魔力を更に注いだら強固になる。魔法剣の魔法増幅もあってか、それはカチコチなことになってる。
一応毎日これを纏って過ごしてる。パッシブ型の、私への敵意や害意に反応するように設定した。創作魔法って楽しいね!
何も設定せずにいた朝は、身支度のときメイドさんを弾いたことは内緒だよ。
「いったい何を!?」
「ただの魔法ですよ」
後ろからずっと気持ちの悪い声が聞こえてくるから、何だか寒気が。暖を取ろうか。
「もう終わりですか?そろそろ終わらせてもよろしいですか?」
「防ぐことが出来ても、私を倒せる同義ではない!」
レオンは酷く取り乱し、私の殻に向けて剣を何度も斬りつける。ただ体力を使うだけなのに。彼の表情は「破壊しないと死ぬ部屋」に閉じ込められたような人、そんな放送できない顔をしている。
ガキンガキン。
金属音だけが虚しく響き続ける。
私は呑気にどんな魔法にするか悩んでいた。
「暖を取ると言ったからには火魔法でしょ、でも城を火事にする訳にもいかないしなあ」
暖を取るといったら、ストーブ、エアコン、コタツ、うーん。外で無理だ。火・・・火・・・火・・・あ!これだ!と手を叩いた。
よし、まずはレオンを浮かせよう。
魔法剣の柄を握り締め、魔法を行使する。
レオンの足元からは高圧洗浄機のように、水が噴射しレオンを上空に飛ばす。
「な、な、なんだああああああ!?」
レオンは情けなく声をあげながら飛んでいった。その声はこだまするように訓練場に響く。うーん、キモい。
私はカッコつけるように上空に指を鳴らすと真っ赤に光る火を上げた。
レオンにそれが直撃すると、大輪の花を成し綺麗な花火の光は空を染め上げた。
「花火は夜に見るのが普通だけど、まあ今回はこれで我慢しようか」
ふと元の世界で線香花火をした事を思い出したのだが。
「一緒にした人って、誰だっけ」
記憶の中で共に線香花火をした光景は思い出せるが、その人の顔はモザイクが掛かっている。どうしても思い出さなければいけないような気がするも、記憶が抜け落ちている。
必死に思い出そうとしている所に声が響く。
「レオン卿は戦闘不可能だと判断し、王女殿下の勝ち!」
気付けば周りは物凄くざわついていた。
レオンの部下たちはバツが悪そうな顔をし、一緒に訓練していた魔法士の人たちは拍手を贈っている。
「王女殿下!」
私のことを呼ぶ声の方へ振り向くとローレが走ってくる、いやあ、走る姿も可愛いなあ・・・。
ローレは私のことをきつく抱きしめた。
え、なにこの夢展開。
「良かった、殿下に怪我ひとつなくて。でも火魔法も扱えるとは・・・」
「あ、ありがとうございます。あは、はは・・・実はね」
私はゆるく抱きしめ返す、な、何だか緊張するね。このシチュエーション。
「王女殿下、見事でした。私との稽古の賜物でしょう」
師匠はこの百合展開を邪魔するように入ってきたため、ローレはすかさず離れてしまった。空気よめ!
それと何だか自分のお陰だと言わんばかりのことを言っていたような。
「ええ、本当にお見事でした」
ローレは続いて褒めてくれた。いや~嬉しいなあ。
続いて師匠は変な言葉を発する。
「これでアレース祭は大丈夫そうですね、殿下」
なにそれ。
今、ナントカ祭って言わなかった?
「・・・え?」
「おや、知らなかったんですか。ウンディーネ様とサラマンダー様はアレース祭の最後、エキシビジョンマッチで戦います」
その言葉の瞬間、国王の笑顔が脳裏でちらついた。
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