科学的にはタイム・トラベルで歴史改変は出来ません。ただし……

@HasumiChouji

科学的にはタイム・トラベルで歴史改変は出来ません。ただし……

 記憶に有るのに……見知っている光景とは何かが違った。

 道行く人達の服に違和感が有る。

 それに、夏の筈なのに……誰もが長袖の服……いや……涼し過ぎる。

 まるで……春か秋……いや、馬鹿な……。

 街路樹の桜に、ほんの少しだが、花が残っている。

「お……おい、ここは……?」

 私は、選挙アドバイザーにそう訊いた。

「貴方の地元ですよ。ただし、貴方の対立候補が生まれる少し前の時代の」

「はぁ?」

 無茶苦茶だ……しかし……。

 ここは……私の地元の町の……私の子供の頃の風景に似ていた。

 ふと、辺りを見ると……何十年も前に潰れた筈の個人営業の商店が有った。

 通行人の服装も……今のモノではなく……私が子供の頃のモノだ。

 もっとも、今のこの状況で「今」と云う言葉をどんな意味で使えばいいのか不明だが……。

「あ……もうすぐ、対立候補の両親が、ここに来る筈です。今日が初デートの日だった筈です」

「何?」

「その少なくとも片方を殺せば……貴方の対立候補は消滅して、貴方が当選します」

「こ……殺す?」

「殺して下さい。貴方の手でやる必要が有りますが……この時代の貴方は、まだ、子供です。この時代の貴方に嫌疑はかかりません」

 そう言って選挙アドバイザーは、どこからともなく取り出した拳銃を私に渡した。

「む……無茶苦茶だ……」

「貴方なら……比例復活も可能でしょうが、比例復活で当選しても、党の幹部や閣僚になるのは難しくなりますよ」

 実家が地元の地方紙とTV局のオーナーだったせいで、ずっと、さしたる苦労もなしに「2位以下に大差を付けた1位」で国会議員の選挙に当選し続けてきた。

 しかし、落ち目の筈の野党から立候補した若造が私を追い上げ……悪夢だった。

 親が社長をやっている地元紙の調査も、弟が社長をやっている地元TVの調査でも、選挙アドバイザー達の調査でも……私の初選は、ほぼ確実だった。

「あ、来ましたよ。撃って下さい」

「ま……待て……」

 選挙アドバイザーが指し示す方向から……古臭さを感じさせる学生服の眼鏡のさえない少年と、これまた今風じゃない……って、この場合の今風って何だ?……セーラー服の……平均よりは上だが「クラスでベスト3の美少女」に入るのは難しい程度の顔立ちの少女が楽しそうに話しながら歩いてきた。


 この齢で、SEXの初体験を思い出す事は、ほとんど無い。

 しかし……この殺人の初体験は、死ぬまで夢に見る事になるだろう。

 わ……私にとっては、死んでも構わない相手だ……。

 どれだけ自分自身に、そう言い聞かせても、自分自身をわからせる事が出来ない。

 元の時代に戻って、1時間以上……震えが止まらない……。

「な……何て真似をさせやがった……」

「でも……見て下さい」

 そう言って選挙アドバイザーは弟が社長をやってる新聞社の朝刊を渡した。

 世論調査には……ヤツの名前は無く、私が圧倒的1位だった。

「れ……歴史は変ったのか?」

「ええ……ですが……報酬として

 ……。

 …………。

 ……………………。

 何だと?

 そう言えば……私は、こいつを選挙アドバイザーだと思っていたが……こんな選挙アドバイザーを雇った記憶が無かった。

「……ま……待て……お前は……誰だ?」

「判り易く言えば……そうですね……悪魔ですが」

「な……?」

「将来、この国の首相となって、この国を良い方向に変える筈だった貴方の対立候補の存在そのものが消滅した事で、この国の歴史は本来のモノから大きく歪みました。これから、この国の情勢は、更に私達の商売に有利なモノになります。まぁ、そもそも、貴方は死んだら地獄行きが確定するような人生を送っていたので、魂をもらう意味は無いんですがね」

「お……おい……それが本当なら……何で、自分達で奴の親を殺さずに、俺にらせた?」

「いえ、魔法の儀式と云うモノは、人間がやらないと魔法が発動しないので。何故、そうなのかの説明は……貴方の頭の出来では理解困難なので『そう云うモノだ』と思っていただくしか有りませんが」

「何だと? 何の事だ?」

「いえ、最近、人間の科学者が発表したでしょう。もし、、って」

「おい、待て、現に歴史は変ってるじゃないか?」

「変りました。ただし、科学的には有り得ない事ですが」

「どうなってるんだ、一体? わけがわからん」

「ですから、貴方が過去でこの現実では誕生する事が無かった対立候補の親を殺したのは、科学的には意味が有りません……。ただし、としては意味が有りましたが」

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