第3話
これまでの人類の歴史で、多数のものを纏めるために生まれた新たな存在は、その他の存在を包括することなく、多数の中の新たな個として存在するだけになることが多かった。だが、ディクソンの言う「世界最大の恐怖」は、その恐怖を味わった者たちさえも抱え込んだ。
「この変化が進化なのか、後退、荒廃、失敗であるかは、後の時代が決めること。でも、今の私たちには、過去の全ての失敗を地球上全ての人間で共有し、教訓にできるという、これまでになかった力があります。公正に発言できる土壌があります。今から私が蒔く種が、恐怖の種となるか、希望の種となるか、それは、私たち自身がどう育てるかにかかっています」
エンドロールのあと、ディクソンの原作にはなかった言葉が映し出され、モニターは黒板の上に納まった。
再び黒板に書かれた文字たちが顔を出すと、教師が「国際社会」という言葉を丸で囲んだ。
「旧時代の『国際社会』は、本当の意味での『国際社会』だっただろうか?」
生徒たちに問いかける。
「しつこいようだが、『社会』というのは人の集団であって、その社会に属する人は互いに影響し作用しあう。この時に現れた超進歩主義のリーダーは、姿と名前を何度か変え、今でも存在している。彼女……彼、だった時期もあるが、彼女は人間じゃない。その思想、良心の集合体だが、彼女も我々に影響し、作用している。そんな現代の『国際社会』は、本当の意味での『国際社会』と呼べるだろうか」
答えを求めるための質問ではない。教師の意図は生徒たちに少しの間違いもなく伝わっていた。
「『国際』や『国』という言葉自体が曖昧になった今、これが国際社会の進化なのかどうかは、きみたちや、きみたちの子供の世代が決めることだな。大変なことだとは思うが、世界がひとつになる所を、先生は見てみたい」
教師が言葉を結ぶのを聞いていたかのように、チャイムが鳴る。
「きりーつ! れーい!」
日直が号令をかけ、全員がその号令に従って動くと、生徒のひとりが「先生も早く社会復帰してくださいよー!」と明るい声で教師に向かって言った。
その生徒の言葉に、片手を挙げ、笑顔を見せただけで気遣いに対する感謝の意思を返し、公正な意識の集合体である教師のCGは姿を消した。
この現代が、進歩と呼べるのか。それを決めるのは、きみや、きみの子供たちだ。
崩壊の種 西野ゆう @ukizm
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