第1章 空を飛ぶ人たち 第7話
なかなか追いつかなかった。
それだけ、彼らが空を飛ぶスピードが速かったということだろう。
エアがさすがに疲れてきたころ、男たちは遠くで地上に降り立った。
地面に着地するわずかな音を、3キロほど離れたところからエアは聞くことができた。
(ここ、どこなんだ…?)
すでに瓦礫の山はなくなっていて、あたりには森が広っていた。あれから10キロは走っただろうか。…これでは帰るのも一苦労だ。
でも今は、そんなことにかまっていられなかった。
男たちが降り立っただろう場所には、シンプルな作りだが頑丈そうな大きな建物が立っていた。
(これがやつらの工房のアジトなんだろうか?)
エアは思わず木の陰に隠れた。
これが別の組織のアジトなら、エアは盗賊に間違われて殺されるかもしれない。
エアは盗みをしたことはなかった。同じ組織で働く少年の数人が盗みをしているのは知っているが、興味がなかった。盗むくらいなら、自分で探すほうがエアには早い。 でもエアはそのとき迷わなかった。あとから思い返すと、エアはこのときの行動が不思議なほど体が自動的に動いたことを思い出す。
まるでこれが運命だというように。
エアは窓から中をのぞいてみる。何人かの男が見えた。大きな釜のなかに大量のガラクタが詰め込まれている部屋や、カンカンとトンカチの音も聞こえる。
(売るだけじゃなく資源の加工もしているのか)
それに、煙突からはもくもくと煙が出ていて、どこからか食べ物の美味しそうなにおいもしてきた。
少し待つと、さきほどの男たちが建物のなかから出てきた。そして…驚くべきことに、彼らはポケットから出した小さな小瓶の蓋を開けると、頭の上から液状のものを撒いた。
ぴちゃ、という小さな音とともに、光は男たちの全身に拡散した。あっと言う間に全身が青色の光に包まれている。
(人間が光ってる!…一体、何をしてるんだ?)
だが、光をまとった二人の男は、あっという間にどこかに消えてしまった。エアは二人の行方を追いたかったが、だが次の瞬間、工房の男二人が、例の光る物体を運んできた。
(あれだ…!)
それは、あのときに見た光の色と全く同じだった。
少し橙がかった鈍い青色。夕焼けの色。
エアは深呼吸した。エアは能力を使おうとしていた。
自分が持つ能力のなかでも最も役に立つ能力。それは、素早く動く能力だ。体の調子がよければ、人に気づかれずに素早く動くことができる。
(たのむ、いうこと聞いてくれ…)
エアはそう自分に話しかけると、あっという間に建物のなかに忍び込み、ガラクタがたくさん入ったかごから、その空色の金属板だけをとって、あっという間に外に出ていった。幸い、中でなにかしらの作業をしていた人々が、こちらに気付いた様子はない。
エアはほっとして、そのまま建物を離れた。念のため、建物が全く見えなくなるまで、最速で走った。すでにくたくたに疲れていたが、なんとか我慢した。
もうここまで来たら大丈夫だろうか。森のはずれの、少し開けたところに出た。エアは一息ついて、地面に座り込んだ。空を見上げる。胸はまだドキドキしている。
しかし、どうやって帰ろう…そんなことを考えていたときだった。
「そこまでですよ」
いつの間にか、眼の前にエアを見下ろしている男がいた。
キャタリスト ユキノハネ @yukinohane
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