第1章 空を飛ぶ人たち 第6話

 だが実は、エアの様子を伺う二人の男がいた。エアはそれに気づかなかった。さすがのエアにも、彼らの気配を感じ取ることはできなかった。彼らもまた、「能力」をもった男たちだったから。男たちは、様々な能力が使えた。そのなかには、能力を隠す能力があった…!


 エアは眠る前に、遠くのほうでランタンをつける音がした。夜回りの荘園の警備のランタンだろう、エアはそう思った。盗賊はランタンなど持たない。あいつらは暗闇のなかで目がきくから。


光はいつも貴族や王族のものだった。闇は盗賊のもの。

どちらも、私には関係ない。


 そうしてエアは眠りについた。


 その頃、洞窟から2キロばかり離れた小さなテントのなかで、二人の男がエアのことを話していた。二人は盗賊ではなかったから、エアのなけなしのいざというときのための食券や銀貨が奪われることはない。だが、二人はある意味で盗賊よりも厄介な存在だった。

 一人はモーレ。35歳くらいの男性で痩せ型、優しげな顔に金色の髪で、マントを羽織っている。もうひとりはアンガス。背が低めで体格はがっしり、ふさふさのひげの下で話す。モーレの部下らしい。

アンガス「あれかい?例の小娘ってのは」

モーレ「そうですよ」

アンガス「あんたがいうような強い戦士になるようには見えないがなあ」

モーレ「では質問。この世界では、女性はひとりでは生きていけない。なぜでしょう」

アンガス「そらあ、女が外にいたら、捕まえられて、側女か奴隷にされる。それかなぶり殺される」

モーレ「あの少女はどうして外で生きているのでしょう?」

アンガスは黙った。

モーレ「その問いの答えが、彼女を引き入れる理由です」

アンガス「だけんど、生きてるだけじゃあ、小娘がキャタリストだとは限らん。それは生まれの問題でっしゃろ」

モーレ「その生まれの問題を、クリアしているとしたら?」

アンガス「ま、まさかぁ」

モーレ「彼女が生きているのは…持っているからですよ」

アンガス「持っている?何を?」

モーレはそれには答えず、顎を触った。それは彼が自分の考えにふけるときの癖だった。


 翌朝、 エアがいつもどおり廃墟を歩き回っていると、突然変な感覚がした。視界にもやがかかったような、見えるはずのものが目隠しされているような感覚。気の所為かとも思ったが、心の奥底で、そうじゃない、と叫ぶ声がした。

 事件は親方の工房に着く直前に起きた。エアの眼の前に突然、今まで見たことのない大きな光が見えた。

(工房の近くにこんなに大きな光を発するものがあったなんて…!)


 それは明らかに昨日までにはなかった。気づかなかったのだろうか、とエアは疑問に思ったが、新しく発掘されたものかもしれないと思い始めた。

 最近になって、地上だけでなく地下にも瓦礫が埋まっていることがわかり、「穴掘り」が登場して次々に新たな瓦礫を発掘するようになった。発掘した段階でめぼしい宝石や貴金属を取り除いた後、ここにガラクタが放置される。瓦礫の山はこの一帯にどんどん広がっているらしい。とはいえ、さすがにこんなに大きな資源を置き去りにするなんて考えづらいが、何か事情があったのか、誰かが見逃したのかもしれないが…。

(宝石はともかく、ほかの資源もぼんやり光って見えるのは私だけだからな…)


 質のいい資源を見つければ、いつもの引換券だけじゃなく、銅貨がもらえる。銅貨は様々なものを買うことができた。

 そろそろ冬にさしかかるので、エアは新しいコートがほしかった。コートがあれば、部屋で眠るときも、凍えずにすむ。一昨年、コートを盗まれてしまい、去年は信じられないような寒さだった。よく生き延びたものだ。今年も同じ寒さのなかで生き延びられるかはわからない。

 エアは、ドキドキしながら光に近づいていく。あるいは、これは何かの罠かもしれない。色々なものが積み上がった廃墟のなかで、慣れた遊具で遊ぶ子供のようにすばしっこく動いた。

 これでコートが買える!

 でもそれだけではなかった。その光には、エアを引きつけずにはいられない何かがあった。ところが、あと少しで全貌が見えるようになる、という距離まで近づいた際、何者かが上からおりてきて、光をさらっていった。目にも留まらぬ速さで。

(何事だ?!)


 エアはもう、コートなどどうでもよかった。

 我知らず、エアは男のあとを追いかけていた。

 エアは走りながら、深呼吸して、目を閉じて、遠くの音を聞いた。集中すると、ずっと遠くの音も、近くにいるように鮮明に聞こえる。かすかにだが、彼らの動く音がした。本当に小さな音だった。しかも彼らはしゃべらない。エアは音がする方向に走り始めた。

(…今の、空を飛んでた…よな?)

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