祈り

とどんがどん

第1話  朝のお勤め

高野茉莉子は毎日朝から憂鬱だった。


目覚まし時計のアラーム音で目が覚めた。

遮光カーテンの隙間からは眩しい朝日が部屋の中を照らしている。


「あー……」

朝を迎えてしまったことの憂鬱さに情けない声が出る。

また今日も1日が始まってしまうのだ。

とりあえず朝食を食べようと茉莉子は目を擦りながらキッチンに向かった。


少し散らかった生活感のあるテーブルの上には出来立ての朝食が用意してある。

今日の朝食は、こんがりと茶色に染め上がった食パンに半熟玉子の目玉焼きだった。

憂鬱には変わりないが、好物の目玉焼きがあったことに茉莉子は内心少し嬉しくなった。



「……て………にょ……りーるー……」


そんな嬉しさを打ち消すように隣の部屋からボソボソと声が聞こえる。

母親がお経を読んでる声だった。

毎朝聞こえてくるが、何を言っているか意味が分からない。そもそも聞き取ろうとも思わないし聞きたくもなかった。


茉莉子の母親は信じる神様がいた。

茉莉子は神様が嫌いだった。


あの神様さえいなければ皆んなで一緒に暮らせたのに。お父さんと一緒に暮らせたのに。

人間が勝手に作り上げ祭り上げた神様になんの価値があるというのだろうか。

いろいろ大切なモノを捨ててまで、母親はあの神様を信じることを選んだ。

茉莉子にはその心情は理解出来ないし、理解も歩み寄りも何もしたくなかった。


パンを齧りながら憂鬱な気持ちを潰すように、目玉焼きの黄身を意味もなく潰した。

半熟のそれは丸い形を崩し、ぐちゃりと液体が溢れ出てきていた。


「マリちゃんおはよう!!」


気がつくと後ろに母親が立っており溢れんばかりの笑顔で茉莉子に声をかけてきた。


「今日はねマリちゃんの好きな半熟にしてみたの。なんでもね、柔らかいものが最近はいいって支部の皆さんが言ってたの!」


「おはようママ!そーなんだね!マリも半熟の方が好きだし嬉しいな!」


なんとなくチグハグした答えになっているのは気付いている。

母親のことは嫌いではない。それに向き合ってる時の母親が悲しく苦手なだけだ。

うまく愛想笑いが出来ているか、顔が引き攣ってないか。茉莉子はそれが少し心配だった。

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