ちっぽけな終わり

笹原はるき

終わり


『もしも明日、世界が終わるとして、最後の晩餐には何を食べたい?』


 平凡な日常の中の、友人との何気ない会話だった。

 

 何処かの国の頭のおかしな誰かが、世界の終わりに気づいたらしい。そんなニュースが繰り返し放送されていた頃。

 もしかしたらもしかするかも、なんて頭のどこかで思って、『もしも世界が終わったら』という言葉は子供たちの内のちょっとした流行りだった。

 

 少しところのある中学生だった私は、いつも通りのご飯がいいと答えた。

 特別なものを食べたところで世界の終わりは変わらないのなら、いっそ知らぬ間に終わってくれとさえ思って。


 

 訪れたXデー。結局、世界は終わらなかった。

 信じて、あるいは期待していた人間は居るようで、他所のクラスの真面目ちゃんが1人、学校に来なくなっていたらしい。

 

 心のうちは知らないけれど、大多数は平凡な日常を変わらずに過ごし、それから話題はいつしか、刺激的な新たなニュースに押し流されていった。


 

 あの日、本当に世界が終わっていたなら、変わらぬ日常を過ごしたことに後悔しただろうか。

 終わってしまえば後悔のしようも無いのだという事実は置いておいて。


『もしも明日、世界が終わるとして、最後の晩餐には何を食べたい?』


 私の小さな世界が終わろうとしている今、再び問われたならきっと、母親のカレーライスと答えるだろう。

 温かい母親の手作りの料理が1番美味しいのだと、それを食べられる日常が幸せなのだと、あの頃の私もわかっていた。




 少しばかり回転の早い頭が、カミサマに造られた優秀な細胞が、私の持つ全てが、この瞬間こそが世界の終わりなのだと叫んでいた。


 空から降ってきた、人の体。

 ばんっ、となにかがはじける音を、聞いたような気がした。

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ちっぽけな終わり 笹原はるき @iris_azami_

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