「あの人って着物着てるけど貧乏なの?」女子の放った何気ないひと言→9999ダメージ! かつて『日本的なモノは格好悪い・ダサい・貧乏そう』という時代があった

たけや屋

タイトルの言葉は、自分が実際リアルで言われたものであります。

 タイトルの言葉は、自分が実際リアルで言われたものであります。

 あれはまだピチピチつやつやだった高校生のころ。


【回想】

 自分が高校の職員室を訪れていたときのことでございます(罰とかペナルティではありませぬ)。


 職員室では自分が担任と、そして後輩女子がその担任と話をしていました。教師生徒コンビが2組いたわけですね。


 当時の自分は着物を着て学校に通っておりました。もちろん校則に反していない服装です。誰に文句を言われる筋合いもありません。

 何で高校生風情が着物を着ていたのかって? まあ、中二病の亜種だとでも思ってくだされば。高校生でしたが。


 すると、なんか後輩女子がこちらのことをじーっと見つめているわけですよ。ちょっと距離があいてるのにもかかわらず。


『おいおいこりゃーラブコメ展開が始まっちまうのか?』


 などと思っていたら女子が例のセリフですよ。こちらに直接ではなく、その女子の担任の先生に向けて。しかしこちらを指さしながら。

「ねえ先生、あの人って着物着てるけど貧乏なの?」

 と。


 いやー衝撃でしたよ。

 クリティカルヒットで精神力MPに9999ダメージくらい。


 時が止まるような精神的動揺ってのはこういうもんなのかと学びましたわ。あれから■■年も経つというのに、今も当時の状況を鮮明に思い出せるほど。

 まさかせっかく仕立ててもらったお着物を着ていたのに貧乏人呼ばわりされるとは!


『これねえ! 着物が●万円、帯は**おりで●万円だよ! バイト代貯めて買ったんだよ! たぶんアンタのファッション一式よりお高いんだよ!』


 そう言いたいのをぐっとこらえました。その女子とは全く面識がなかったし、何となく言い返したら負けだと思っていたからです。


 さいわい、後輩女子の担任は半笑いでそれにこう答えてくれました。

「お前なあ……あの着物たぶんお前の服より高いよ?」


「ふーん、そうなんだ」

 後輩女子は何気なくそう言いました。


 そのあと自分が学校でどのように過ごしたのかは記憶にございませぬ。あまりのショックで記憶が飛んでしまったのでしょうか。

【回想終わり】


 とまあ、普通の女子が【着物=貧乏】とイメージしてしまうほど、当時は和装の社会的地位が低かったのです。

 これ、別に後輩女子が悪いってワケじゃないんですよ。ただ当時の社会的状況が何か奇妙でヒドかったってだけで。


 それくらい当時はまだまだ欧米文化礼賛らいさん社会でした(個人的な感想です)。

 日本的なモノは格好悪くてダサくて何となく貧乏そうという時代だったのです。


 学校という狭いコミュニティですらそれなのですから、着物でお外なんて歩こうものならそりゃもうスゴい目で見られるわけですよ。ただ歩くだけで、足腰だけでなく無駄に度胸まで鍛えられるという大変お得な状況でした。


 駆け出しの落語家が電車やバスの中で乗客相手に突然一席ぶって度胸試しをするってのに似てますかね。


 繁華街なんて歩くとそりゃもう視線が降りそそぐ。歌舞伎町とか特に。

『こいつコマ劇場から出てきたのか?』みたいな。


 まあ世界がスマホ社会になる前の出来事だったので、世間のさらし者にはならずに済んだのですが。今じゃもうコマ劇場もありませんしね。


 ◆ ◆ ◆


 世はまさに冷笑の世紀。テンプレから外れた奴は人間にあらずというご無体な世相。画一的な就活リ○ルートスーツってのが広まりだしたのもこの辺の世代からでしょうか?


 自分のネタを誰かに披露しようにも【Y●uTube】みたいな動画投稿サイトや【小●家になろう】みたいなウェブ小説サイトも存在しなかったネット黎明期。発表の場は紙かリアル知り合いのみ。もしくは町中の歩行者天国で大道芸(ヘブンアーティストという言葉も当時はありませんでした)。


 西洋的なものこそが格好良く、日本的なものは皆ダサい。そんな価値観カチコチ固定観念な世の中。


 多様性? 何それおいしいの? という個性否定の規格品人間大量生産時代。


 ジャ●プ漫画ではほぼ全作品でバトルトーナメントが開催されるという乱世。


 そんな時代がたしかにあったのですよ。


 まあ現代でも野郎が着物で町中を歩いてりゃそこそこ不審者を見る目で見られてしまいます。ですがそれでも当時よりゃだいぶマシですわ(当社比)。

 昔に比べりゃ今はいつでも自由にネタを発信できるし、日本的なものもそこまで奇異きいな目で見られないし。いい時代になったものです。


 1年のうちで1番和装男子と遭遇できる確率が高い年末年始に、ふとそんな苦い思い出が蘇ってきたのでした。


 別にトラウマってわけじゃありませんが、しかし確実に人生の終わりまで忘れられないであろう強烈なひと言。こういうのも含めて、やはり人生は楽しい。

 ちなみに当時の着物はまだ普通に着られます。和服って頑丈ですからね(浴衣ゆかた以外は)。

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