YuriAdventSS2022

日溜。

第1話

姉の性癖は歪んでいると思う。いや、性的嗜好ではなく。


「この人、この前引退したよね。今更ハマったの?」

「引退したから観てるの」

「ふーん……?」


一度なら「そういうこともあるか」程度のこと。しかし毎回そうなのだから、これはそういうものなのだろうと認むるに至った。


姉と私の部屋は共同だ。年頃になっても仕切りのカーテンが導入された程度で、生活空間の殆どが共通している。居間に鎮座するTVは先を取ったものに譲る制度だったから、これも姉の性癖が投射されていることが多かった。


私が中学生となり、新たなコミュニティでの試行錯誤を重ねる、そんな春の或る日。少し大人びた気持ちの放課後を消費して帰宅すると、居間のTVはやはり姉が使っていた。


「お姉」

「んー? お帰りー」

「ただいま。……あのさ」

「うん?」

「お姉ってさ。昔の映画とか、音楽とかが好きなの?」

「時代には拘りはないなー。なして?」

「学校で普段観てるものの話しててさ、『お母さんが昔ハマッてたやつ流すから自分もハマった』って言ってた子が言ったのが、お姉がこの前観てたやつで。他にお姉と観たことのあるやつ言ったら皆知らなくて調べてみたら凄い古いのだったりして」

「あー。まあでも、親の世代の作品とかそれより昔みたいのは比較的少ないと思うよ。年代分、量があるからねぇ」

「まあそれだけなんだけれど」

「んー。……一応アドバイスだけれど。教室でのコミュニケーションとかでは、ある程度通じる話をしないとダメだよ。新しい情報には飢えていても、咀嚼できなけりゃマズいだけだから」


急に真顔でこちらを向いてそんなことを言うから一寸吃驚した。学校で何かあったんだろうか。



中学三年生ともなると、趣味や教室のグループやらの複雑化した住み分けも小康状態だ。高校という新環境に向けての調整期間とも言う。

私はというと、悪い友人サブカル趣味のオタの影響で順調に拗らせていた。


「おい、妹」

「なに、姉」

「棚は私のって決着着いたじゃん。引き払って」

「私が小学生のときの話じゃん。半分は譲って」

「この辺の漫画は電子で出てるんだからそれで可くない?」

「友達に貸したりとかもあるし、スマホだと読むのには小さいし、ていうか自分が電子書籍にすれば良いじゃん」

「ハマるやつは結局自分で揃えるんだから自分のだけあれば良いんだよ。……はぁ、喜べ、タブレット端末をやろう。画面問題は解決だ。今棚に入ってるやつは電子版も買ってあげる」

「え、そこまで? んー。うー。うぅー。……まあそれならヨシ」

「いそいそと今棚に入ってない本を押し込むのは止めて。……私のは電子版出てないやつと電子撤退が危ぶまれるやつだから」


「でもタブレットって、買ってくれるの? いやお下がりでも可いけれど。それも結構高いのじゃなかったっけ」

「microSDが差さるヤツが新しく出たからそっちを買う。あ、電子ペーパーだから動画は厳しいと思う」

「知ってる。結構そういうの買ってるのに服とかも(ギリギリ)ちゃんとしてるの、割と凄いよね」

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