お泊まり回 たいして変わんねぇ

 秋半ば。文化祭が終わり中間テストへ向け少しずつ勉強をしている今日この頃。授業の内容がムズくて勉強しないとヤバい⋅⋅⋅⋅⋅赤点取るわけにはいかねぇし留年なんてもっての他。


「何で勉強してるんだい?」


「誰しもお前みたいに1回で覚えられる訳じゃないんだよ」


 聖川が来ていた。


「折角家に来た彼女を放っぽって勉強するなんて酷くない?」


 暫く振りに家に来た聖川に思うことが無い訳ではない。しかしこっちもこっちでやらないわけにはいかないわけで。


「か~ま~え~」


「終ってからにしてくれ」


「なっつんは集中したら止まらないじゃんか」


 文化祭が終ってからというもの、聖川は俺を色んな渾名で呼ぶようになった。表向き“東雲”で通しているが、2人だといつもこうなる。


「なっつん言うな。違和感半端じゃない」


「なっちん」


「ヤメロ」


「なっちゃん」


「清涼飲料か」


「なつきん」


「YouTuberか⋅⋅⋅⋅⋅暇ならその辺の本でも読んでろ」


「つれない⋅⋅⋅⋅⋅」


 聖川はむくれながら本を読み始める。静かになったのでこちらも勉強に集中する。

 しばらく問題集を進め、区切りもついたのでそろそろ終ることにする。時計を見ると2時間程集中していたらしい。


「こんなもんか⋅⋅⋅⋅⋅」


 勉強道具を片付け、しばらく放って置いた聖川を構ってやろうと話しかける。


「なに読んでんの?」


「エロ漫画」


 想定外過ぎる答えが返ってきた。


「なんでかな?こう⋅⋅⋅⋅⋅大事なトコを白塗りとか黒塗りとかで隠すの邪魔なんだよね」


 思春期の男子みたいな感想をブチ込んで来た。スゲー返答に困る。


「それにさぁ、三大欲求てあるじゃん?食欲と睡眠欲は解るよ?それしないと死んじゃうし。でも性欲って別に解消しなくても死なないよね」


 今度は哲学的な話を⋅⋅⋅⋅⋅


「⋅⋅⋅⋅⋅AV観たい⋅⋅⋅⋅⋅」


「お前どうした?マジでどうしたよ?ほっときすぎて脳ミソ溶けちゃった?」


「ムードを高めようという次第にございます」


 ムードとは。なんもねぇよ。


「エロ漫画読んでたからかな?ちょっと発情してる」


「人ん家でエロ漫画読んで発情すんな」


「彼氏ん家だもん。いいじゃん?」


 まだ恋のABCのAにも至ってないのにいきなりCに跳ぶのは順序間違ってんのよ。


「まあ冗談はともかく」


「質悪ぃ⋅⋅⋅⋅⋅」


「大丈夫。半分は本気」


 それは余計に質悪いっての。そういう気持ちが無いわけでは無い。あんな感じの付き合い方だったとはいえ、俺は俺で聖川を好きになっている。けれど、なし崩しのようなナーナーの関係から肉体関係に発達するのは抵抗がある。


「だから⋅⋅⋅⋅⋅ちゅーしたい」


 そして毎度の事すっ飛んでいく聖川の話。学校などの普段はクールに振る舞っている聖川だが、江藤や俺など仲の良い人の前だとクールの皮が剥がれ、天然全開の不思議ちゃんへと変貌する。どこかスイッチが切り替わったように。


「思考どうなってんの?」


「発情⋅⋅⋅⋅⋅とまではいかないけど、ちょっとコーフンしてる。ちゅーしたくない?」


 したい。けれどこれはなんか違うんじゃ?ムードがどうこうとさっき言っていたけど、そんなもの何処にあるのか。


「⋅⋅⋅⋅⋅私のこと好きになってない?」


「好きに決まってんじゃん。じゃなきゃ家に上げねぇよ」


「証拠は?本気でそう思ってる?証明出来る?」


「面倒くせぇ⋅⋅⋅⋅⋅」


「女の子は面倒くさい生き物なのだよ。ちゃんと彼女を甘やかしてくれないと不安なのだよ」


 思えば聖川と恋仲になっても関わり方に変化は無かった。いつものようにあしらってばかりだった。


「メンドイとかウザイとか頭イカれてるとか。普通は女の子だったら嫌になるし嫌われてるとか思っちゃうよ?私は自分の思ってることちゃんと言う東雲のそんなとこが好き。だけど同時に不安にもなるよ」


 散々言った言葉だ。俺はただ聖川とのそんなことを言い合える関係が好きで居心地が良かっただけ。それが聖川を不安にさせていたとも知らずに。


「じゃあ⋅⋅⋅⋅⋅」


 俺はあぐらで喋っていた聖川を抱き寄せた。しっかりと腕を背に回し力を込める。


「今はこれが限界。キスはまだ恥ずい」


「あらら⋅⋅⋅⋅⋅まあいいでしょう」


 聖川も俺の背に腕を回した。とりあえずこれで良い。不安とか何だとか正直面倒くさい。けれど、中途半端じゃいられない。

 しばらくして聖川を引き離し頭をガシャガシャと撫でる。


「付き合い始めて3ヶ月そこらだろ?今んとここれで勘弁してくれ」


「思ったのと違うけど許す」


 聖川は満足げな顔をして笑った。


「代わりにって訳じゃないけど、今日は好きなだけ家に居ていいから」


「まじか!じゃあ泊まる」


 おっと。どうやら失言だったようだぞ?


「いやー東雲がそんな事言ってくれるなんてねぇ。言質取ったしこれて大っぴらにお泊まり出来るねぇ」


「⋅⋅⋅⋅⋅強制送還だ。無理矢理帰す」


「あーあ⋅⋅⋅⋅⋅そんな事言われたら不安になっちゃうなぁ」


 コイツ。まさかある程度考えての行動だったんじゃ?


「はぁ⋅⋅⋅⋅⋅」


 結局押し敗けて泊めることになった。最近⋅⋅⋅⋅⋅というか毎度の事俺は聖川の我が儘を通してしまう。十分甘やかしているんじゃなかろうか。これでは何時もと⋅⋅⋅⋅⋅⋅


「大して変わんねぇ」


「ちゃんと甘やかしてね」


「⋅⋅⋅⋅⋅晩飯は好きなもの作ってあげますよ」


「じゃあ“こずゆ”で」


 なんで東北会津の郷土料理知ってんだよ。


「お母さんの故郷の料理なんだぁ」


 現在午後3時。今から作らないと厳しいじゃん。そして毎度の通り俺は聖川に振り回される。


「やぁ今日は良い日だ」


 俺にとっては何時もと大して変わんねぇけどな。


 イチャイチャしたようなしてないような。まあ、ともかく変わり無い日常は悪くない。




◇◇◇



あとがき


 これで書きたかった話は終わりです。そのうちまたこの2人の日常を書きたくなったら書くかも知れませんが。ひとまずこれをもって完結とさせて頂きます。お付き合い頂きありがとうございました。相変わらずのクソ短いわけわからん話ではありますが、前に記した通り長くしても書ききれない病気なので。重ねてになりますがここまでありがとうございました。

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敗けヒロインの戦後処理 シンドローム @katsuki1318

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