第5話 あとがき
寿美子の姪である私は今、フランス人の夫と家庭を築き、世界中を転々としながら暮らしている。仕事人間で自由気ままに暮らしていた私が、夫と結婚して彼の駐在先に同行するか迷っていたときに叔母がかけてくれた言葉は、今でも私を支えてくれている。
「心のままに生きなさい。愛する人がいて、相手も貴方を求めてくれているのなら、思い切って飛び込んでみればいい。ついて行ってみて、どうしてもダメだと思ったら、その時また考えればいいの。死んだ時、あちらの世界に持っていけるのは、貴方が積んだ経験だけなのよ。だから、たとえ別れが訪れたとしても失ったなんて思う必要はないの。きっと、得たものがあるはずだから。それでも、どうしようもなく辛くなったら、その時はわたしのことを思い出してちょうだい」
叔母は44歳で翻訳家として第二の人生を歩み始めた。
芸術と紫陽花と海をこよなく愛する、エレガントで愛らしい女性だった。
花冷えする桜の季節、穏やかにあちらの世界へ旅だった。
享年64歳だった。
※この物語はフィクションです
春の海に貴方を想う~横浜・フランス恋物語 花雨 宮琵 @elegance
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