第33話


「それにしても不思議だよね、このサイト。

必要じゃない女性にはたどりつけないっていうの」


少ししてぼそりとタクヤが呟いた。


「僕も半信半疑でしたが、友人に試してもらったら誰も見つけられませんでした」


「イチロウ君、そんなこと頼める女の子の友達が居て良いね」


何故かずれた事を話したオサムに、リュウが軽く笑っている。


「ここのスタッフもセイヤさんが見つけるし、その男達は何かしたい、そして出来る能力のある人間を見つけられるって本当に凄い事だよ。

自分が事業をしているから、『宿り木カフェ』やこの『Cafe Mistletoe』のオーナーでもあるセイヤさんの正体が気になって仕方ないけどね」


「正体?」


少し笑みを浮かべながらそう話すリュウに、首をかしげながらイチロウは言った。

『宿り木カフェ』のスタッフはセイヤ自身がスカウトをし、その時にセイヤ自身の話も聞いていたので、イチロウはリュウの言葉がいまいち理解出来なかった。


「『宿り木カフェ』は完全にセイヤさんの趣味みたいなものだろうし、この喫茶店で他をまかなえるほどの収入が得られるわけがない。

セイヤさんから会社の名刺渡されてその会社の登記確認したけど、あれが本体な訳が無いし。

他で何か大きな事、してるんですよね?」


楽しそうに話すリュウに、セイヤは静かに笑みを浮かべている。


「そうですね、私がというより、私の所属しているところに資金がある、というところでしょうか。

もちろん、不法な組織ではありませんのでご安心下さい」


「あのー、イチロウ君が二人の笑みに怯えているのでその辺にしておけば?」


タクヤが呆れたように突っ込んで、リュウとセイヤは苦笑いを浮かべ謝罪した。


「・・・・・・ありがとうございます、怖かったです」


「だろー、あの二人は笑顔だけど腹の中がわかんなくて怖いんだよ」


イチロウが隣のタクヤに小さな声でお礼を言うと、ニヤリとタクヤは返した。





「さて」


セイヤの声に、全員が視線を向ける。


「そろそろ会合の終了時間です。

何かご質問などございますか?」


セイヤはゆっくり全員と目を合わせたが、皆笑顔を浮かべ特に誰も声を出さなかった。


「本日も遅い時間にありがとうございました。

どうぞこれからも宿り木カフェのスタッフとして、運営にご助力頂ければと思います。

それでは本日の会合はこの辺でお開きに致します」


その一言で、ヒロに声をかけるもの、残りのコーヒーを飲むもの、他のメンバーと話すものなど、一気に話し声が個室に響く。


「どうぞ閉店まで時間はございますのでゆっくり皆様でお話し下さい。

コーヒーのお代わりをご所望の方は?」


セイヤの声に、全員が笑いながら手を上げた。


「では、後ほどお持ち致しますので、お待ち下さい」


そう言うとセイヤは立ち上がり、ドアを開けて出て行った。






「いやぁ、セイヤさんって本当に謎の存在ですよね」


思わず呟いたイチロウに、ヒロが頷く。


「彼はあんな見た目だけどそれなりの年齢のはずなんだけどねぇ」


「俺は実は神様だったとか言われても信じそう」


タクヤの言葉にリュウが笑う。


「まぁかなりの人には間違いないよ。ね?オサムさん」


「・・・・・・もてるんだろうなぁ」


ぼそりとセイヤが出て行ったドアを見ながら、オサムが呟き、皆顔を見合わせると笑い出した。






「今日も皆様盛り上がっていらっしゃいますね」


マスターがコーヒーを準備しながら、カウンターにもたれかかるセイヤに声をかける。


「私が居ない時間がむしろスタッフの皆様には必要ですから」


薄く微笑むセイヤにマスターはちらりと目線だけ向け、また手元に戻す。


「聖人(きよひと)様が本当に楽しそうで、じいやは嬉しゅうございます」


そう言いながらゆっくりと熱い湯を注ぎ、ドリップしていけば、店内に色が見えるかのように香ばしいかおりが充満していく。


「・・・・・・ノブレス・オブリージュは、我らが責務だからね」


セイヤこと、聖人は艶やかな唇に細い指を当て、眼を細めた。





『宿り木カフェ』


そこは本当のカフェではなく、不思議なネットサイト。

今日も素敵なスタッフ達が、疲れた女性に一時の安らぎを与えるためにお待ちしています。


貴女は、どんなスタッフと話がしてみたいですか?


                                        END

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宿り木カフェ 桜居かのん @sakurai_kanon

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