第62話 今現在の味方
天井近くに赤い石が祀られた地下牢のような薄暗く狭い部屋で……。
「ううっ……かあ様っ……やめっ……」
「あかり、悪い夢でも見てるのか?」
未だ意識の戻らないあかりは、俺の腕の中で眉根を寄せて苦しげに呻き、俺は心配で溜まらず呼び掛けた。
あかりをこんな目に遭わせた風切冬馬には腸の煮えくり返る思いだが、奴は、あかりを守ろうとする全てのメンツから報復を受け、すぐそこの床にのびていた。
奴の黒幕、上倉希は既に目的が叶わない事を悟り、絶望し意識を失った。
「君を傷付けるものは、やっつけた。もう大丈夫だからな?」
「ひと……」
綺麗な黒髪を撫でてやると、あかりは少しだけ表情が和らぎ、涙を一雫落とした。
「贄様、これからどういたしましょうか?」
保坂さんに聞かれ、俺はううむと考え込む。
「そうだな……。いつまでもあかりをこんな場所に置いておきたくない。俺達は外部と連絡のとれる和室へ移動しよう。
キー、冬馬を見張ってもらってていいか?」
「承知した!」
「それからナーは……」
「分かっておる! 上倉のところへ行って奴も監視すればよいのじゃろ?」
「おお、理解が早くて助かる!」
「「その代わり、お前は生き神様を……」」
精霊達は、敵に操られ、あかりを守れなかった不手際を取り返そうとするようにいつも以上に張り切って動いてくれ、俺にあかりの事を頼んで来た。
「ああ。分かってるよ。それと、保坂さんも俺に付いて来てくれ。あと、伝七郎もな?」
「……! 了解致しました」
「クルック〜!」
俺に指示され保坂さんは一瞬驚いた顔をして頷き、伝七郎は分かったというように俺の肩に飛び乗った。
✽
「うわぁ……。すげー惨状だな……」
「クルル……」
伝七郎と共に和室に入った途端、床に社のスタッフ全員が縄で縛られた状態で倒れているというひどい状況に顔を顰めていると、この状況を作り出した犯人である保坂さんは、涼し気な顔で告げた。
「鎮静剤の効き目はそう長くないので、皆さん、もうそろそろ目覚めるでしょう。縄は解いておきますね」
「……」
上倉希の仲間で、俺達社の仲間を裏切ったにも関わらず、今は以前と変わらず俺に従って有能な働きを見せてくれる保坂さん、そして、それを当たり前のように受け入れている自分に複雑な感情を抱きながらも俺はあかりを布団に寝かせてやった。
「贄様、裏切り者である私を連れて来てしまってよかったのですか? てっきり冬馬様と同じ場所で精霊様の監視下に置かれるものと思っておりましたが……」
縄解き作業にかかっている保坂さんにも聞かれ、俺は不愛想な顔でため息をついた。
「今は人手が足りない。裏切った保坂さんを許してるわけじゃないが、現時点で無害化されている人材を使わない手はないだろう」
「はい。仰せのままに。今の贄様は、この社の実質的な責任者になりますれば……」
「……!」
保坂さんに恭しく頭を下げられ、難しい顔をしているところへ、御屋敷の玄関チャイムがなった。
「はい。社ですが……」
『ああ、やっと連絡が取れた!』
『よかったね、トシちゃん!』
「!」
「クルック〜♡」
インターホン越しに聞き慣れた友人達の声を聞いて俺はハッとし、伝七郎は嬉しげな声を上げた。
『あの、お取り込み中すみません。ウチで飼っていた鳩がそちらに迷い込んでいませんでしょうか?
それと、俺の友人……、贄の真人と少し話せませんでしょうか? 俺、どうしても彼に謝りたくてっ……』
『(トシちゃん頑張って!)』
「!」
『少々お待ち下さいませ』
インターホン画面には思い詰めた表情のトシが渡良瀬さんに励まされている様子が映っていた。
「贄様、どう……致しましょうか?」
保坂さんに、インターホン子機を差し出され……。
俺は一瞬の逡巡の後、俺は覚悟を決め、受け取った。
『トシ、伝七郎ここにいるよ。きちんと中で話をしよう』
『クルック〜♪』
*あとがき*
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紅糸島の奇祭〜カースト底辺の俺を嫌って、イケメンに擦り寄る許嫁よ、さようなら!これから俺は、島の生き神様に贄として愛されひたすら甘々の日々を送ります〜 東音 @koba-koba
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