第61話 幼き生き神と贄 《四条灯視点》⑬
「うっ。ううっ……。うえぇっ……」
「あ、あかりっ!? どうしたぁっ?」
階段の途中に座り込んで泣き出した私に、真人は驚いて駆け寄って来た。
「だ、だって、ひぐっ。私、いっ、一生懸命、真人に、嫌われようとしてるのにっ、ち、ちっともうまくいか、ないんだもんっ……」
しゃくり上げながら私は真人に訴えた。
「何で、俺に嫌われようとしてるんだよ」
「ぐすっ。だって、私は役目があるから、真人と一緒にいられないっ。結婚もできないっ。本当は今までも会っちゃいけなかったの」
「役目……? もしかして、許嫁いらないって言ってたのって、そのせい?(結婚できないって……舞妓さんとか巫女さんみたいな仕事してるのかな?)」
「ええ……。あなたには、好きになってくれる女の子がいるんでしょ?」
「! (茜の事か?) そりゃ、何度も告白してくる奴はいるけど……」
「そ、そうなの。よかったじゃない。私の為に人生を無駄にする事はないわ。その子と許嫁になって?」
「あかり……」
「も、もう、私に手紙を渡そうとしたり、ここで私を待ったりしないで。ぐずっ……。今日はさよならを言いに来たのよ……」
「あかり、泣くなよぅっ……」
涙が止まらない私に、真人は眉間に皺を寄せ、怒ったような表情になった。
あ〜もう、何で泣いてしまうのかしら?
言いたい事を伝えられたというのに、胸が痛くてたまらない。
思うようにならない事ばかりだけど、これでよかったのかもしれない。
真人はギャアギャア泣く女の子が嫌いなんだもの。これで、望み通り嫌われたに違いないわ。
「っ……」
そう思うと同時に胸の痛みが増し、私が強く目を閉じていると……。
キュッ……。
「??」
両手を温かい手に優しく包み込まれるのを感じて、目を見開くと真剣な表情の真人の顔があった。
「大丈夫だ。あかり。俺が好きなのは、あかりだけだから。他の女とは許嫁にならない」
「でも、私っ……」
「何とか一緒にいられる方法がないか考えればいいだろ? 役目があるからって、誰とも関わらない訳じゃないだろ?」
「そりゃ、そうだけどっ……」
真人にそう言われた瞬間、母様に寄り添う贄様の事を思った。けど、贄には島の適齢期の男性の中で一番強い気を持つ人を選ばなくてはいけない。
真人は、最初に会った時一緒にいた他の男の子や屋敷の庭で会った女の子よりは気が強いようだけれど、島で一番かどうかは分からなかった。
でも……。
「大丈夫。今日は、あかりが俺の事を気にかけてくれたから、グリコじゃんけんも顔を見ながら遊べたし、今までも、本当は会えない筈なのに、何度も会えているじゃん。俺があかりをずっと好きでいて、あかりが俺を忘れないでいてくれたら、いつかずっと一緒にいられるようになるよ!」
「真人……」
何の根拠もない「大丈夫」なのに、ピカピカの笑顔で真人にそう言い切られてしまうと、今ある心配事が晴れていくようだった。
「よしっ。涙止まったな! じゃあ、俺達がずっと一緒にいられるように、生き神様にお参りしに行こーぜい!」
「えっ。わぁっ。ちょっと待って、真人〜💦」
私はそのまま真人に強引に手を引かれ、拝殿の前まで連れて行かれてしまった。
パンパンッ!
「生き神様、あかりとずっと一緒にいられますようにっ!」
「よ、ように……//」
私は真人と並んで手を合わせて、真人に合わせて語尾だけ小さく呟いた。
ああ〜、生き神様って、母様なんだけどっ……! ちなみに次代生き神は私。
次代生き神が今の生き神様に男の子と一緒にいられるようにお願い事するってどういう状況なのっ?
私は気まずくてお参りの間ずっと下を向いていた。
それから、私とはあの白い花、野菊を見に行ったり、バッタさんを手の平に乗っけたり「アルプス一万尺」をしたり、沢山遊んだ。
「あかり、じゃ、また明日」
「ええ、真人、明日ね」
夕焼け空が広がる神社の拝殿の側で、私達はバイバイした。
階段を降りて行くその後ろ姿を見守っていると、ふいにその子が振り返り、いたずらっぽい笑みを浮かべて、ぶんぶん手を振りながら、叫んだ。
「大きくなったら、ぜったい君をお嫁さんにするからな〜!」
「そんな事出来ないわよ〜! 私には役目があるもの!」
私も何度も言っている事を叫び返すと、その子は怯む事なく、親指を立てて来た。
「じゃあ、将来、俺がその役目を助けてあげる人になるよ〜!」
「えっ。でも、特別な人しかなれないの!」
「じゃあ、俺特別な人になれるように頑張る! じゃ!」
「あっ……。真人! もう……。努力でどうにかなる事じゃないのに……」
カンカンカン……!
言いたい事だけ言って、笑顔で神社の階段を駆け下りて去って行くその子の背中に小さく零したけれど、そんなあり得なさそうな未来をほんのちょっとだけ想い浮かべてみて、私の口元には、笑みが浮かんだ。
タンタンタン………!
「??」
その後、何故か真人がまた階段を駆け戻って来て、目をパチクリさせている私に屈み……。
チュッ。
「……!!///」
「へへ〜。///お別れの挨拶!」
私の頬にキスをして、真っ赤になりながら得意げな笑みを浮かべた。
「もう、真人ったら、また……!///」
カンカン……!
「じゃあな、あかりぃっ! 明日! 明日がダメならまた明日、また絶対会おうなぁっ……!」
文句を言おうとする私から逃げるように、真人は叫びながら階段を下りて行き……。
ボフッ。
「わぁっ!」
「真人っ?!」
見えない壁に阻まれたように階段の途中で尻もちをついた。
パチンッ!
「信じられないわ。まさか、こんな事になっていたなんて……!」
「「い、生き神様ぁっ……」」
「「!!」」
突然、真人の前に着物姿の女の人と宙に浮いたおかっぱ髪の二人の子供が現れ、私と真人は息を呑んだ。
「だ、誰だ? あんた? こ、子供が浮いてる……??」
「か、かあさまっ……。キーちゃんっ、ナーちゃんっ……」
双子の精霊を従えた母様が、恐ろしげな雰囲気で私達の前に佇んでいたのだった……。
*あとがき*
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今後ともどうかよろしくお願いします。
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