第60話 幼き生き神と贄 《四条灯視点》⑫

「あかり! あかり! 大好きだっ!」

「……!!///」


 抱き締められて、真人の顔が近付いて来た時、私はハッとして顔を背けた。


「だめっ! 真人、「ちゅー」はいけないわ!」

「あかりっ……! ごめん!」


 真人を押し戻し、その腕から逃れると彼は慌てて謝って来た。


「この間は、いきなり「ちゅー」してごめん! あかりが可愛過ぎてつい! そういうのは、相手と気持ちが通じ合って、大人になってからにしなくちゃダメだって近所のお兄さんにも怒られたんだ」


「ええっ……☠」


 近所のお兄さんって誰? 未来の生き神に「ちゅー」してしまった事を他の人に相談しないでぇっ!


 私が青褪めていると、真人は真剣な顔で迫って来た。


「でも、あかり。俺、「ちゅー」をしてしまった以上責任取るから! 将来、君をお嫁さんにする! 一生一緒にいると約束するよ!」


「ま、待ってよ! 真人、落ち着いて!」


 勢いに任せて結婚の誓いまでしてくる真人のを宥めるように私は両手を突き出した。


「(儀式には影響しなかったし)「ちゅー」くらい大した事じゃないわ。

 そんな事で軽々しく結婚なんて口にしないで。子供ね、真人は!」


「ガーン! (決死のプロポーズを流された……!)「ちゅー」くらい大した事じゃないんだ! あかりは、大人なんだな!」


 真人は膝をついてショックを受けていたけれど、しばらくすると立ち上がり、親指を立てた。


「でも、あかりの簡単には落ちない手強いところ、ますます惚れちゃったぜ!」


「ええ?//」


 何を言ってもニコニコ笑顔で好意を伝えてくる真人を前に、何だか胸が甘苦しく痛みながらも、途方に暮れてしまった。


 私は生き神で、将来この島を守る大事な役目がある。

 真人とは絶対に結婚できないのに、どうしたら、私の事を諦めてくれるの?


 真人はどうしてそんなに私を好きでいてくれるのかしら?


 彼の今までの発言を思い返してみた。


『あかりは黒髪がサラサラしていて、目が大きくて、肌も白くて、とっても綺麗で、俺とは大違いだ』


 そうね。真人は私の外見を綺麗だと褒めていたわ。日光に当たって、肌が黒くなれば、諦めてくれるのかしら?


 でも、肌を焼くのはすぐに出来ないし、お母様にそっくりな外見を変えるのはやっぱり嫌だわ。


『おまけに、あかりは男にも負けない度胸もあるし、ジャンケンも強い。

 女なんて、すぐ泣いて、ギャアギャア騒ぐだけだと思っていたけど、お前は違う。

 何か、すっげービビッと来たんだ!』


「ビビッと」っていうのは相変わらず分からないけど、ジャンケンに負けて泣いてギャアギャア騒げば、私の事を嫌いになってくれるかしら?


 よしっ。やってみるわ!


「真人、グリコじゃんけんをしましょう!」


「おうっ! もちろん、いいぜっ!」


 真人は私の誘いに快く応じてくれた。


         ✽

「「ジャンケンポン!!✊️(✌️)」」


 階段の一番下でじゃんけんをすると、真人が大きく目を見開いた。


「えっ! マジか? 初めてあかりに勝ったぁ!」

「真人、よかったわね〜じゃなくて、ううっ。く、悔しいわぁっ!」


 ぴょんぴょん飛び跳ねて喜んでいる真人をつい微笑ましく見守ろうとして、慌てて目元を拭った。


「あっ、あかり、まだ最初だから、勝負は分からないぜ? 俺、グーで勝ってるから「グリコ」の三段分しか進めないしさ……」


 真人が泣いている(真似をしている)私を気遣ってそう声をかけてくれたけれど、私はカッと目を見開いて主張した。


「じゃあ、「」じゃなく「

 」にして、6段分進めばいいじゃないの!」

「ええっ! いいのかよ、それ?」


「ええ。グーだけ三段なんて不公平だもの」


「そ、そうなのか? じゃあ、グ・リ・コ・オ・ゲ・ンっと(グリコーゲンって何だろう? 大体なんで不利になるのに、段数増やしてくれたんだ?)」


 不思議そうに首を傾げながら、階段を上がっていく真人を私はニンマリと見守った。

 ウンウン、いい感じだわ。この調子でガンガン負けるわよ!


 あんまり勝ち続けるのも不自然に思われるかもしれないので、真人との距離が遠くなって来たところで適当に負けつつ進み続け……。


「「ジャンケンポン!!✋️(✊️)」」


「パ・イ・ナ・ツ・プ・ル! っと頂上まで来たぁ!」

「うっ。負けたわっ!」

 真人が最上段まで上がり、ガッツポーズを取っているところで、私は盛大に泣く準備の為、すうっと深呼吸をした。


「うわあぁっ……」

「あかり、ありがとうな?」

「ふえ?」


 大声を出しかけたところへ被せるように真人にお礼を言われて、私は目をパチクリとさせた。


「な、何が??」


「わざと負けてくれたんだろ?」


「!! いや、あの、なんで分かったの?」


 真人に言い当てられてしまい、動揺していると、真人はニッコリ笑った。


「だって、あかり、負けたら嬉しそうな顔するし、わざとらしく泣き真似するし、今日は様子がおかしかったもん。

 俺の為ににわざと負けてくれようとするなんて、お前は優しい奴だな? 大好きだぞ!」


「!!」


 真人にまた「大好き」と言われてしまって、どうしていいか分からなくなった私は……。


「うっ。ううっ……。うえぇっ……」


 本当に涙が溢れて来て、止まらなくなってしまったのだった……。



*あとがき*


 読んで頂きまして、フォローや、応援、評価下さって本当にありがとうございますm(_ _)m


今回の話は、グリコじゃんけんのルール変更について、以前読者様に頂いたコメントを参考にさせて頂きましたが、大丈夫でしたでしょうか?


もし何かありましたら、その部分変更しますので、お知らせ下さいね。


 今後ともどうかよろしくお願いします。

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