第13話
少年の顔は青を通りこしてまっ白になっていき、早口にまくしたてた。
「やめろ!近づくな!僕は思うように動けないんだ!」
「私もそうだ…..私も長い人生の中で思うように動けなかった。 狭い狭い自分だけの世界で….死ぬまで間違っていた。 これは君のように推測で言うんじゃないが、君は極端な人間嫌いだったんだろう。そしてプライドが 高く、人に頭を下げるなんて とんでもないと考えていた。さびしい、誰か助けて、と言うなんて…とね。
心とは裏腹に、声にならない心が次第に君を練り、動けなくしたんだ。ー言ってごらん。僕はさびしい、一人じゃさびしいんだ、と。」
彼の矢のような言葉は、青白い少年の氷の面にはねかえされた。
「ふん、僕は名のある貴族の息子で君のような下品な男と話しているのは苦痛なんだ!」
「…。」
少年の目の前である変化が起こっていた。 目の錯角か彼の頭がひとまわり小さく見える。
みけんのしわも いつのまにか消えていた。
男は力強く言った。
「私は一からやり直したい。この魂があるかぎり、どんなに ひどい状態からでも立ち直ってみせる。 私はこれからは頭で考えることより、心で感じることを大事にする、そして 多くを求めすぎない。私は常に反省する、私は人をねたまない、 私はー」
一つ決意するたびに彼は頭が軽くなり、手足に力が みなぎっていくのを感じた。そして実際そのとおりなのを、彼も少年も感じていた。
「おいで…。」
すっかり普通の体になった彼は言った。
「ここから抜け出そう。今の私なら、足の動かない君を動かすことができる。あの盲目の子も言っていたじゃないか。
お互いに助けあうことが必要だって。 今わかったんだ。動けない君の存在は、私に自分の狭い心と 偏った知識を気づかせてくれた。しかも君の心がこうして手にとるようにわかる。君も私の心が見えるだろう。
そうさ、2人とも心の迷いが晴れて救われるんだ。」
少年は青白い顔をうつむかせてつぶやいた。
「僕は….行けない。行っちゃいけないんだ。君は一人で行くがいい。
僕は自分が情けない、だから一」
「何を言うんだ!2人とも…自分自身じゃないか!
私は自分の分身をおいて、ここを出ることはできない!」
「分身ー?」
少年ははっとしたように顔を上げた。その凍りついた顔がかすかに 震えている。目が大きく見開かれ、人形のような堅い顔はいまにも 壊れそうにひきつっている。
"頭の大きい子ども"だった彼はしっかりと少年の肩に手をおいて言った 。
一君ト、私ハーツナンダヨー
その瞬間 2人の目からせきを切ったように涙があふれだした。 そうして一すじ流れるたびに少しずつ心が軽くなり、光に包まれていくのを感じていった。 少年の顔は赤い生命にあふれ、その足はしっかりと大地を踏みしめていた。
そして心が一つになった瞬間、光に包まれた2人は かき消すようにして消えてしまった。
Fin
二人の子ども~天国の手前 びわ @kiwako0302
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