第5話 配信機材って色々ありすぎるから迷ったら店員に聞くのが一番だよね
「それでは、後ほど配信機材のほうをご自宅にお届けいたしますので、ご自身で購入する物だけ予めご準備をお願いいたします。また、配信日につきましては後ほどご連絡いたします。本日はありがとうございました」
「はい、ありがとうございました……」
大量の書類にうなだれる俺を横目に、藍原さんは綺麗に書類をファイルにまとめてバックに入れると、立ち上がって深々とお辞儀をして、そのまま扉から出ていった。
さっきの書類の一つに、俺の家の配信環境がどれぐらいあるかなどを答える用紙があり、藍原さんの話ではパソコンとモニター、デスクと椅子といった大きなものは持っていなければ会社で貸し出してくれるという。
なので俺はキーボードやマウス、そして一番大切なマイクとウェブカメラを揃えればいいだけ。
あぁ、大企業万歳……。
「さて、俺も必要なもの買いに行くか~」
そうして俺は扉を出て帰ろうとすると、ふと誰かと電話をしながら歩く一人の若い女性とすれ違う。
学生だろうか? インターン生とか?
この時期に就活ってなるとキャリア採用とかだろうか?
それとももしかして配信者だとか?
いやいや、さすがに配信者は別の入口とかあるか。
俺はすれ違う女性に軽く会釈(えしゃく)をしてそのまま外に出る。
外に出ると、真夏の季節は太陽が沈むのが遅いためか、もう午後の五時半だというのにも関わらず未だに暑さを残していた―――。
★☆★
「……いや~、電車が止まっちゃて~」
『そんな情報はないのわかってますからね! また寝坊ですよね!?』
「あれ~? じゃあ足骨折しちゃって~」
『だったら来れないじゃないですか! いいから早く来てくださいねっ! 陽乃(はるの)さんが来ないと始まれないんですからっ!』
「は~い……ってあれ?」
えっ!? 何あれ!?
めちゃくちゃ顔が良いんですけど!?
私(・)は本社の玄関で警備員に通行証を見せて通ったところでとんでもないイケメンに出会った。
紛れもない私の中での顔面国宝。
バーチャルの世界で暮らし続けたせいでついに私は自分の体までバーチャルの世界に迷い込んでしまったのかと錯覚するほどのイケメンの顔を、私は心の中で拝みながらも遅刻した自分に感謝した。
『なんですか……? まさかまた言い訳を―――』
「あの~……今日って本社にモデルさんとかが来る予定って入ってますか?」
『えっ、モデルですか? いえ、今日は誰も……あっそういえば面接の方は来る予定がありました……ってそんなことは良いんですよ! 早く来てくださいね!』
「ふ~ん。そうなんですね~」
面接ってことは採用……あぁ新人の子か!
えっ? 待って?
それってあのイケメンが入社するってこと!?
うっわああああいっ!!
私は心の中で拝みポーズからガッツポーズへと切り替え、スキップをする。
そうして歩いていると、ふと何度もお世話になったあの人を見つけたので私は声をかけた。
「あれっ、鈴音(すずね)さんじゃないですか~! お久しぶりです~!」
「……陽乃さん、今の時間は収録の時間では……?」
藍原 鈴音—――私の最初のマネージャーだ。
「あ~遅刻しちゃって……って、もしかしてあの高身長イケメンは鈴音さんの担当なんですかっ!?」
「ええ、そうです。あぁ、彼がちょうど出るタイミングに出くわしたのですね」
な、な、なんだってぇ~~~っ!?
あの高身長イケメンが藍原さんの担当だなんて……羨ましい~~っ!
「鈴音さん! 新人研修変わってあげましょうか? 私も手が空いてますし~!」
「……はぁ。陽乃さんはまず収録に行く用事があるでしょう? あまり時間を押すとスタッフに迷惑が掛かりますよ」
「あ~そうだった! 名残惜しいけど、それじゃ鈴音さんまたね~!」
そう言って私は収録ブースまで早歩きで向かおうとしたところで思い出した。
……あれ? でも鈴音さんって確か男性と話すとき緊張してあまり話せないって言ってなかったっけ?
う~ん、大丈夫なのかな~?
まぁ、何かあったら相談に乗ってあげるかな!
まずは~っと!
「遅れてすみませんでした~っ!!」
「遅いですよ、ミナちゃん~!」
「ホントだよ! 後で焼肉奢ってもらうからな~!」
扉を勢いよく開けると、複数人のスタッフと、マイクの前の席に二人の女性が座っている。
今日はバーチャルファンタジアの公式ラジオの収録。
遅れてしまった私はその時間を取り戻す義務がある。
さて、今日も頑張りますかねっ!
私はマイクの前に座り、スタッフのカウントダウンに合わせて息を大きく吸った。
「みなさ~ん! おはようこんにちはそしてまたおはよう~っ! 陽乃(はるの)ミナです~っ! 今日は—――」
余談だが、今日の収録は終始、陽乃ミナの調子が良く、無事に時間通りに終わることができたという―――。
★☆★
あち~……。ずっと室内に居たい……。死ぬ……。
すぐにでも必要な物を買って帰ろう……。
えっと、この近くの家電屋は……っと。
携帯で近くの家電屋と検索すると、すぐ近くの家電屋がわらわらと表示された。
いや~、こういう時、都会って便利だよな~。
大抵のものは近くに何かある気がする。
普通に歩いているだけでも……おっ、それっぽい店あるじゃん!
俺はふと視線に入った家電を売ってそうな古びたお店に入店する。
まぁ、正直パソコン周りの機材の事はよくわからんけど、こういう古い店に意外といいものが売ってたりするんだよな~!
入ったと同時に、空調が効いているのか、あまりの涼しさに一生ここに居たいと思ってしまう。
えっと、店員さんは……今いないな、奥にいるのかな?
パソコン関連はっと……お、あった!
マウスとキーボードが、合わせて……五千円!?
……高いのか低いのかわからん……。
あんま詳しくないけどまぁ、使えそうではあるし、これでいいか。
後はマイクとカメラだけか―――。
「そこのお兄さん、マイクとカメラを探してるね?」
「うわぁあ!?」
なんだこの男!? 急に後ろから話しかけるなよ!?
ほんでもって当たり前のように心を読むのやめろ!
なんだ!? 今日はやけに心を読まれるが俺ってそんなに顔に出やすいかな!?
……って、あれ。この人もしかして。
「あの、店員さんですか?」
「うん、そうだよ」
見たところ俺と同じぐらいの若さだろうか?
いつの間にいたんだ……。
驚かしてきたのは気に食わないが、丁度いいからこの人に聞いてみるか。
「あの、おすすめのマイクとカメラってありますか?」
「うん、あるよ。ちょっと待ってね」
そう言って男は奥の部屋に入っていて、すぐに二つの箱を持ってきた。
「これがこの店でかなり良いやつだよ。圧倒的な音質と最高の画質(グラフィック)を体感したいならこれがおすすめかな」
体感って……まぁ、俺には関係ないけど、どうせやるなら視聴者に良いって言ってもらえる方がいいしそれにするか。
「じゃあ、それ買います」
「まいどあり~っ! お兄さんここ来るの初めてだよね?」
「……? はい、そうですけど……」
何かポイントカードでも作らされるのかと身構えていたが、特にそんなこともなく男は再び奥の部屋に行ってもう一つ箱を持ってきた。
「初めてならこのリングがおすすめだよ!」
「……リング……?」
見ると、なにやら腕につけるようなタイプの鉄製?のバンドっぽいけど、そんなの配信に使うのか?
「これを使わないと操作できないだろうから今回は無料(タダ)であげるよ!」
「あ、ありがとうございます……?」
ほえ~なるほど。
俺が知らないだけで今はこういうのもあるのか。
まぁ、無料でもらえるものならぜひもらっておこう。
「まいどありっ! 楽しんでね~!」
そうして俺は店員の声を背に、その店で買い物を終えて外に出るとき、ふと気になって店員さんの方を見ると、店員さんが笑顔でこちらに向かって手を振っていた。
なんか不思議な店だったなぁ。
……ってあれ?
俺は外に出て、ふと暗くなった空を見て驚く。
携帯の画面を見ると、時刻は午後の七時を指していた。
えぇ……?
俺こんなに選ぶのに夢中になってたのか?
やっぱ買い物は悩むと長くなるから苦手なんだよなぁ……。
まぁでもいいもの買えたし、おまけももらえたからいい買い物だったな。
そうして俺は不思議な雰囲気のお店でもらった買い物袋を手に、家に帰るのだった―――。
【あとがき】
こちらではここまでの内容を現在投稿していますが、『小説家になろう』様ではこれより先の物語がありますので、ぜひ良ければそちらの方の閲覧をよろしくお願いいたします。 作者より
有名Vtuberになろうと思って配信したら異世界に来たんだが!? 朝雨 @ASame1
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。有名Vtuberになろうと思って配信したら異世界に来たんだが!?の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます