地の妖精の愛し子と初恋の少女2

結婚式当日は天気も祝福しているかのような雲一つない青空だった。

町の礼拝堂に新郎新婦の家族や友人が集まっている。

もちろんクシャフもその中にいた。


花婿も花嫁も幸せそうな笑顔だ。

花嫁の着ているドレスの刺繍は彼女の友人たちが気持ちを込めて一針一針丁寧に刺したものだ。


クシャフの作った髪飾りが花嫁の髪を飾っている。

クシャフが作ったペアの指輪も二人の左手の薬指に光っている。


誰もが笑顔で新郎新婦の門出を祝っていた。

花びらが舞う。

参列者がまく花びらが新郎新婦に優しく降り注ぐ。

それは幸福そのものの光景だった。


クシャフは目を細めてその光景を見つめる。

ゆっくりと視線を動かしてみんなの笑顔を眺めた。


ふと視線をやった先に一人の女性が立ち止まって新郎新婦を見ていた。

微笑んで見ているその姿からは、たまたま行き合ったことが見て取れた。


クシャフは軽く首を傾げた。

どこか見覚えのある女性だ。

不躾にならない程度にさらによく見る。


記憶が脳裏をひるがえる。

綺麗な石を持って笑う女の子ーー


「クシャフ?」


名を呼ばれて記憶が遠ざかる。

不思議そうな顔をした友人に緩く首を振って何でもないことを示した。

そうか、と軽く顎を引いた友人は新郎新婦のほうに視線を戻す。


クシャフも新郎新婦のほうに視線を戻そうとして、女性の姿が意識に引っかかった。

もう一度彼女のいたほうに視線を向けると、もうそこに彼女はいなかった。




*




『いい式だったわね』

「そうだね」


本当にいい結婚式だった。

地の妖精も綺麗な笑顔だから本当にいい式だと思ったのだろう。


『クシャフの作った装身具もよく似合っていたわね』

「うん、よかったよ」


一生に一度の式を台無しにするようなことがなくて本当によかった。

その点も安堵していた。


やっぱり緊張はしていたのだ。

いつだって身につけてもらう一瞬は緊張する。

似合わなければ話にならない。

職人としても失格だ。


納得できる出来のものがその人をいろどる。

それを嬉しそうにしてくれる。

その姿を見るのがこの仕事の醍醐味だ。


地の妖精がふと何かを思い出すような顔になった。


『そういえば式の時、女性を見ていたわね』


言われて女性の姿が脳裏に浮かんだ。


年齢はたぶんクシャフと同じくらいだ。

砂色の髪は柔らかく彼女の輪郭を包んでいた。

瞳の色ははしばみ色だった。平凡だと言われる色だが綺麗だと思った。


そして何より笑顔が印象に残っている。

温かい笑顔だった。

見ず知らずの者たちの結婚を本当に祝福していた。


またちらりと誰かの面影が翻る。

可愛い笑顔の女の子。

あれは……

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サルフェイの森の小さな物語 燈華 @Daidaiiro-no-sora

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