ネガティブ・キャンペーン

城島まひる

本文

野菜を食べなくてもサプリで栄養摂取ができる時代になったとテレビコマーシャルでは俳優が、バラエティ番組では司会者が、ニュース番組ではニュースキャスターがそう言うえば誰もがそれを真に受け口々に呟く。


それがどういった原理で成り立っているかなど、気にもせず自分たちに害があるなど微塵も思っていないのだろう。世間という名の彼らにとって自分が被害者として、テレビに出演し報道されるというのは絵空事ファンタジーのような認識なのかもしれない。だから、私は次にこんな指示を出した。


ある炭酸飲料のコマーシャルにて俳優が次のような発言をし、不適切な発言であったとバッシングを受けた。


「大人も子供も大好きなメロンソーダ!でもそれ本当に体に害はないの?緑色だしメロンの味はするけど、果汁なんて一滴も入ってない...。つまり人工的な味、そうお薬の味だ」


もちろん俳優のこの発言はコマーシャルの台本に記されたものではなく、俳優が考えた誹謗中傷を目的としたネガティブキャンペーンのうたい文句だ。とニュースキャスターはニュース番組で、世間に伝えた。その方が責任が少なく、余計な波風を立てなくて良いからだ。私は読み上げソフトのように原稿を読み上げるだけのニュースキャスターをテレビ越しに見て薄ら笑いを浮かべると、バラエティー番組のスタッフ宛てに便りを書いた。



"親愛なるバラエティー番組制作陣諸君へ


毎週金曜、飽きもせずやらせっぽい部分もあるものの面白い番組をありがとう。君らの番組は底辺止まりの芸人の芸よりは笑えるよ、まぁ人を笑わせる熱意に関しては芸人の方がはるかに上だが。

ところで親愛なるバラエティー番組制作陣諸君、知ってるかね?

最近ある大学教授が日本での飲料水に関するアンケートを取ったらしい。そしたら驚くことにあの有名なコク・コーラよりメロンソーダの方が遥かに人気があり購入者も多いらしい。

というのも最近若者の間でメロンソーダブームが来ている様で、どこの飲料メーカーもこぞって店舗で自販機でメロンソーダを売りさばいている。どうだろう?たまにはこういった流行りを取り上げてみては?

では、君たちの番組の司会者にもよろしく言っておいてくれ。


しがないネタ提供者Aより"



「ところでさ最近若者の間でメロンソーダブームが来てるってほんとか?」


手紙を送付してから一週間後のバラエティー番組で司会者が若いゲストに話を振る。もちろんそれは世間話ではなく、番組内で次の話題に入るための導入だろう。しかし私はその光景をテレビ越しに見て、やはり薄ら笑いを浮かべるのであった。如何なる信念があったとしても人間は自己観測の欲求からは逃れられず、それは他人と同調するといった基礎から成っている。


「教授は楽しそうで良いですね」


「そういう君も楽しそうじゃないか」


テレビコマーシャルで問題発言をしクビになった俳優が私とテレビの間に立ち視界を遮った。俳優は腰をかがめ、椅子に腰かけている私と視線を合わせると声を出さず口の形だけで言った。


「お・か・ね」


私はやれやれと首を振り、スーツの胸ポケットから分厚い茶封筒を出すとクビになった俳優に渡してやった。


「実験は成功。起爆剤の役を頼んだが君で成功だったよ」


と私は俳優に握手を求めたが、彼はそんなことは気にせず茶封筒を片手に部屋を出て言った。これだから顔だけはいいやつは困る。しかし彼は用済みだ。国を丸々一つ使った情報操作という世紀の大実験の行方は、バラエティー番組の司会者とニュースキャスターの彼ら2名に掛かっていると言っていい。無論、かじ取りをするのは私自身だが。


再びバラエティー番組の続きを見ようとした私にスマートフォンが振動し、ある人物からの連絡を取りたがっているという意志を示してきた。私はスマートフォンを手に取り、バラエティー番組を見ながら電話に出た。


「もしもし」


「あっ教授でしょうか!大変です某飲料メーカーのメロンソーダに使っていた化学調味料の正体がバレました。我々は至急、身を隠すたま──」


ヘマをしやがってと悪態をつく一方、私はニュースキャスターに新しい原稿を送ってやれることにどこか満足を覚えていた。

人を導くのは美徳でも悪徳でもない。"情報"だ。


─ 完 ─

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