第3話

そして彼女と私。未だ喋っていない。

 今、高校生活で1番気になるのは茅野ちゃんのことである。


 だけど、私は茅野ちゃんと喋ることが出来ない。

 茅野ちゃんは鉄道が好き。だから鉄道の話をすれば盛り上がるのだが、私は少し鉄道苦手。

 鉄道の何がいいのかしら。だなんて思ってしまう。

 と、言っても私に好きなものなんて何もない。


 無趣味だ。

 みんな授業中とかでスマホとかいじっているけど、私はその必要がない。見るサイトというものがない。SNSだってやっていない。だから学校にいる間はずっとスマホの電源を切っている。


 だから茅野ちゃんが羨ましいと思う。好きなもののためには先生に怒られたって構わない。その覚悟。私には到底、そんな覚悟なんて出来ないだろうね。悲しいね。


 そうやっている間に昼休み。

 私、1人。教室で弁当を開く。便所飯なんてしない。あんなのみっともない。汚い。ボッチは堂々と飯を食べていればいいじゃないか。

 なんて、思う。


 別に私は1人で食事をする寂しいやつだとか、そんなこと思われてもいい。

 だけれども、それをすると問題が発生する。


 私が弁当を広げると、高身長の女性が私の元へ来る。韮崎立花。私たちのクラスの委員長。


「長坂さん。どう。あっちで一緒に食事でも」


 だなんて、毎日誘ってくる。実にいい迷惑である。

 そのクラスの集団。4人で、全て私なんかよりも遥かに大人っぽい。そんな場所で私食べるなんて、職員室で先生と一緒に食べるのと同じくらい気まずい。

 それにその4人を楽しませる話題なんて、私には一つも持っていない。面白い話なんて何も持っていない。だって私、家に帰って、寝て、そして学校に行く。そんな生活の繰り返しだもの。


 テレビを見ないから最近流行りの芸能人とかも一才知らないし。

 私はもしその4人の集団に入ってしまったら、会話に相槌をするしか仕様がないのだ。それを見た他の人たちが、誰、あの子をこっちに入れてきたのはと、犯人探すするに違いない。


 私はいるだけでみんなの場を壊す。だから


「大丈夫だよ。1人でご飯食べるから」


 と言う。

 それが正しい選択なのだ。それ以上の選択なんてない。


「そう」


 韮崎さんは悲しそうな目をする。

 ふん。そんな目をしても。彼女は、このクラスを一つにまとめた。内申点のためにそのような実績が欲しいだけだろう。つまりこれはエゴなのさ。そんな個人的なエゴに私は巻き込まれるわけにはいかない。危ない、危ない。


 彼女はそのまま去っていった。

 私はずっと1人でご飯を食べていた。だけれども、何故か妙に私の机の周り、寂しいようなそんな感じがした。

 寂しいだって。いや、そんなはずはない。

 私は生まれたときから1人で生きれるような人間だ。そんな私が寂しいだなんてそんなこと思うはずがない。だからこの感情。違う。寂しいのではない。


 チラリ。4人の集団の方を見る。

 みんなワイワイ。楽しそうである。少し、いいなと思ってしまう。

 だけれども、私はあそこに入れない。それを知っている。だから諦めるのさ。

 ほんの少しだけ、私にも勇気があれば、何か違った結果になったのかもしれない。もっと、こうお化粧とか覚えたのかもしれない。いや、それはないな。だってお化粧苦手だし。


 ともあれ、私にもっと素晴らしい高校生活が待っていたのかもしれない。

 だけれども、私にそんな素敵な高校生活なんてくる事ないんだ。知っている。それは私に似合わないものだもの。

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走れ! 〜臆病な青柳梓の鉄道旅行記〜 実話空音 @komoronagano

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