可愛い刺客
雨宮羽音
可愛い刺客
「わぁい! ありがとお兄さん!」
とある住宅の中庭。
大きなプレゼントを手渡された少年は、嬉しそうに声を上げて走り去る。
それを見届けた一人の配達員。
作業服に身を包んだその男は、車に戻り勢いよくアクセルをふかす。
彼は裏社会で有名な殺し屋、〝デッドプランナー〟。
今はターゲットを抹殺するため、運送業者に成り済まし中だ。
(ククク……俺の変装は完璧だ! いくつも配達を終わらせたが、誰も偽物だと気付いていない!)
不敵な笑みを浮かべる男だったが、その表情はすぐにスッと柔らかい笑顔に変化する。
ターゲットの隠れ家に到着したのだ。
あらかじめ用意しておいた荷物を手に、呼び鈴を鳴らす。
すると少し間を置いて、入り口の扉が数センチ開かれた。
「…………宅配……かしら?」
「ええ、そうでございます。こちらにサインを」
ターゲットは警戒している様子だった。
だがしばらくして、隙間からにゅっと手を伸ばしサインを書く。
そして荷物を乱暴にさらって扉が閉じられた。
男はその場を離れて一息つく。そして受け取ったサインをしげしげと眺めた。
書かれていたのは〝キャッツハンド〟という文字。
それは男と同じ、名の通る殺し屋──同業者のコードネームだ。
(コードネームで宅配にサインするとは……バカな奴め!
あとは裏から忍び込んで、仕込んだ爆弾で奴が死ぬのを見届けるとするか、ククク……)
一方その頃。
薄明かりの灯る隠れ家の中では、一人の女がラッピングの施された荷物と対峙していた。
(このキャッツハンドに普通の荷物など届くはずが無いわ……それにさっきの男が隠していた殺気。
まず間違いなく、罠ね。
これはすみやかに処分してしまいましょう……)
女がそう思った瞬間、包みの中からカリカリとこそばゆい音がした。
『ニャーン』
その鳴き声を聞いた途端、女はいてもたってもいられなくなった。
何故なら彼女は、大の愛猫家だったからだ。
その証拠に、部屋の中は猫をモチーフとした家具で埋め尽くされていた。
バリバリと音を立てて開梱し、箱の中から仔猫が飛び出すと、最初にあがった声は隠れていた男のものだった。
「どういうことだ!!」
「あら、あなた忍び込んでいたのね。
一体、何のつもりかしら。
こんなに可愛い刺客を送り込んで来るなんて」
「馬鹿を言うな。
俺が用意したのは子猫じゃあない。
お前を吹き飛ばす爆弾だ!」
瞬間、少し遠くから爆発音が聞こえた。
男の脳裏を過ぎったのは、辺りに散乱するラッピングと同じ柄の箱を手にしていた少年の姿だった。
可愛い刺客・完
可愛い刺客 雨宮羽音 @HaotoAmamiya
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