うす紅の連鎖 🌼

上月くるを

うす紅の連鎖 🌼





 晴れ渡った冬青空がキラッと光ったかと思うと、小さな瑠璃色が近づいて来ます。

 ひらり、ひらり、北風に上手にのって、やわらかに舞っているのはシジミチョウ。


 春から秋にかけてよく見かけた小粒の蝶ですが、冬至過ぎのこの季節には珍しい。

 連夜の霜に打たれてすっかり色褪せた残菊たちは、眩しそうに空を見上げました。


 「やあ、こんにちわ、綺麗なくれなゐ色の菊さんたち。ぼくのこと、覚えてる?」

 近づいたシジミチョウに声をかけられて、萎れ、枯れかけた菊たちは慌てました。


 「やだわ、あたしたち、こんなに惨めなすがたになっちゃって。からかわないで」

 菊の花弁がいっせいに身をくねらせるので、瑠璃色の蝶は急いで言い直しました。


 「そういうつもりじゃ……。だって、菊の花さんたち、本当に綺麗なんですから」

 真面目なシジミチョウがお世辞を言うはずがない(笑)菊の花たちは思いました。




      🌱




「ぼくたち、これから冬ごもりなんだけど、その前にどうしてもお礼を言いたくて」

 甘い蜜をたっぷり吸わせてもらったおかげで、家族みんな元気でいられるのです。


「それから、ぼく気づいたことがあるの、その美しい紅色の連鎖のことなんだけど」

 そう言われ、色褪せた菊の花たちはもう一度恥ずかしそうに身をくねらせました。


「たしかにひところより紅が薄くなっているけど、それはね、春への準備なんだよ」

 春? そのころ菊はさみどりの新芽を出したばかりで、紅とは関係なさそう……。


「だよね。でも、ほかの植物を思ってみて。桜草や蓮華草、梅、桜、桃の花なんか」

 たしかにみんな、くれなゐの花をつけますが、わたしたち菊とどうつながるの?


「冬木の芽って知っているでしょう。裸の枝の先に、ぽちっと濃いくれなゐを灯す」

 そう言われて、菊の花たちはくれなゐのバトンタッチに気づきました。(*^▽^*)




      🌸




 ああ、そっか~、この地球上のくれなゐは、こうして受け継がれていくんだね~。

 霜に痛めつけられていた菊の花たちの芯にも、ぽっと希望の灯りがともりました。


 生命の連鎖の一翼への誇りを支えに、寒い冬を乗り越えるわね~、わたしたち~。

 キラリキラリ光りながら家族のもとへ帰って行くシジミチョウに呼びかけました。


 たしかに冬本番はこれからですけど、でもね、三か月後にはもう春なんですもの。

 冬のあいだ、枝先にぽちっとくれなゐをつけていた木の芽がいっせいに開くのよ。


 そうしたら、幹の洞で冬ごもりしていたシジミチョウさんたちが来てくれるのよ。

 気を取り直した菊の花たちは眩い冬日ざしに精いっぱいの香りをふるまいました。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

うす紅の連鎖 🌼 上月くるを @kurutan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ