言霊維持局

結騎 了

#365日ショートショート 353

 男はまた古代メソポタミアを訪れていた。

 森に停めたタイムマシンから出ると、現地に馴染む扮装をしてある民家に近づく。窓からこっそり覗き込むと、ひとりのシュメール人の老人が木製の円盤をしげしげと眺めていた。

 やがて老人は、はっとした顔をして床に転がっていた棒を円盤に突き立てた。やがてそのまま突き通し、両手で棒を持ってみせた。両側から棒が伸びる形になった円盤は、その中央でくるくると回る。

 にこりと微笑む老人。しかし、窓の外にいた男がポケットのスイッチを起動した。人差し指ほどの大きさの機械だ。ぎゅるるる、と、老人は壊れたオモチャのように動作した。やがて、木製の円盤をしげしげと眺めている。棒は、

 男はその場を後にし、タイムマシンに戻った。迎えたのは少女だった。

「済んだ?」

「ああ、終わったよ。次はどこに行こうか」

「もう少し後の時代に行って、健康な医者をターゲットに病原菌を撒き散らすのよ」

「なるほど、医者の不用心か」

 ふたりが同時に操作すると、タイムマシンは瞬く間に空に浮かび上がった。

「ところで、さっきのは何の言霊維持だったの」

「車輪の再発明、ってやつだよ。言霊は、定期的に実例が宿らないと消えちゃうからね。あの老人には、少なくともあと200回は再発明してもらうよ」

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言霊維持局 結騎 了 @slinky_dog_s11

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