第44話 第一章エピローグ「瞳の色」

 俺は彼女の瞳の色を見て、ハッとした。

 衝撃的だった。



 今まで、そんなことはないだろうと思っていたのに。

 考えていたけど、そんなことはおこがましくて言えなかったのに。


 


 しかし、彼女は違っていた。




「え、えっと……先輩、今、なんと?」



 聞こえなかったふり。

 そんなわけはない。

 ばっちりとこの耳に聞こえていた。



「—―好きです。藤宮くん、藤宮樹あなたが」


「え?」


「……あの、ちゃんと聞いてますか?」


「きい……ては、います。え、いやでも……え?」


 理解が追いつかなかった。

 先輩が発した言葉が俺の耳を、鼓膜を、神経を、脳を揺らし、その意味だって分かってはいる。


 でも、俺の意識がそれを理解しようとしなかった。

 だってありえないじゃないか。


 先輩かのじょが、彼女がだぞ。

 俺にとってはまるで雲の上にいるような存在の人だ。


 っていうか、何よりもそれは俺が言いたいセリフだぞ。

 この話が終わって、先輩が軽くなったあと俺から言おうと思っていたんだ。


 確かに、うすうす思ってはいたんだ。

 もしかしたら、俺のことを好きなんかじゃないかって。

 おこがましくて、言えなかった。思えなかった。


 そう思っていると先輩が俺の肩を揺らしてきた。


「—―藤宮、藤宮くん?」

「え、あぁ……先輩」


 月灯りで美しく照り輝いた碧色の瞳が俺を見つめていた。


「しっかり、聞いていましたか?」


 その質問少し戸惑ったが、先輩の冷たいと言われていたあの瞳に見つめられて冷静になっていた。


「俺のことが、好きなんですか?」

「はいっ」


 元気よく、まるでさっきまでの悲しそうな顔は嘘だったかのように頷いた。


 ハッとする。

 そんな姿を見て俺は馬鹿らしくなった。


 俺が助けようとして、俺が助け出したと思って、これからもっと、もっと辛いことを襲うであろう彼女を元気づける。


 今度こそ、あの時みたいに、あの時とは違った方法で、本当の意味で先輩を追い込む人たちから救い出して見せるって思っていた。


 先輩にはいいところがたくさんある。ただの女の子。すごい人でありながら、ただのか弱い女の子なんだって思い込んでいた。


 —―でも、違った。

 むしろ、俺のほうかもしれない。

 

 先輩から告白されて動揺して、いつまでもいつまでもそうだって思い込んでいて。


 何やってんだ。俺は。

 決めたじゃねえか。助けるってさ。


「—―?」


「いや、その先輩少しいいですか」


 不思議そうな顔で顔を覗き込んでくるのを見て。俺はにやけた。

 ため息を吐き、そして立ち上がる。


「あの、藤宮くん……?」

 

 目をつぶり、両手を上げる。

 そして、思いっきり――――



 —――――—バチン!!!!!!



「ふ、藤宮くん⁉」


 俺は全力で頬をはたいた。

 直後に頬を襲う激しく鋭い痛みに、じりじりと焼け付くように痛む両手。

 脳が揺れて、視界がぐわんと回る。


 しかし、その代わりに。

 ぼんやりしていたものがするっとはがれていくのを感じた。


「っ……さ、さすがに痛いですね」


 俺が苦笑いしながらそう言うと先輩は持っていた花火を投げ捨てるように離して立ち上がった。


「—―な、なにをしてるんですか! だ、大丈夫なんですか! え、あの……えぇ」

「っ驚かせてすみません。でもいいんです。解決しましたから」

「かいけつ? な、何がなんですか……」


 目を見開いて、俺の腕を掴み心配そうに見つめてくる姿な先輩は必死だった。

 真面目な先輩だからこそ、そんな風に言ってくれる。


 そうだ。

 もう間違えてはいけないだろう。

 

「—―目を覚まされたっていうか、その、先輩」

「え、はい?」


 何を言ってんだ。なんて顔をしている先輩に向けてまっすぐ口を開いた。


「俺も先輩のことが好きです」


 数秒間、沈黙が続いた。


「—―」


 何も言わない先輩を見て、昔の俺ならば慌てただろう。いや、まず告白なんかできるわけもない。

 いや、これは俺の告白じゃないけどね。でも、それでも自分の思いを受け止めてそれを発するなんてことできなかった。今もこうやって先を越されてるけど、いびつでも少しずつ進んでいる。


 俺も、そうだ。

 先輩だって、そうだ。


 過去に見切りをつけよう。

 

「—―先輩」

「あっ……いや、その……っ」


 みるみると赤くなっていく頬。

 さっきまで凛と咲く花のように堂々としていたのに、今やプルプル。まるで生まれたての小鹿のように震えていた。


 俺と同じだ。

 先輩のことを余計に上にして見ていたけど、彼女はそこまでできた人ではない。

 

 だから、一緒に乗り越えていくんだ。

 一緒に、未来に進む。


「いいんですよ、俺だってさっき驚いて心臓バクバクでしたから」

「……わ、私っ。び、びっくりして……な、何なら振られると思っていて」

「振るって、俺がですか?」

「は、はい……」

「そんなわけないじゃないですか、むしろびっくりしたくらいなんですから」

「な、なんだか……さっきからすれ違ってばっかりですね」

「ん、確かにっ」


 お互いに見つめ合ってなんだかおかしくなる。


「先輩。でも、俺やりたいことがあるんです」

「はい、やりたいことですか?」


「先輩をこんな目に合わせる人は誰ですか?」


「そ、それは……どうして藤宮くんが」


「先輩の家庭の話は聞いてませんし、もちろんよく分かってはいません。それに俺なんか部外者がかかわっていいことじゃないことも分かっています」


 助ける。

 いいんだ、だめだとか、首を突っ込むなだとか。

 

「—―でも、俺は助けたい。辛い思いをしているあなたを助けたいんです。だから、付き合うのならそのあと。決着がついた後でいいですか?」


 そこまで言うと先輩は戸惑いを隠すように目を反らした。

 そして、呟く。


「……いいんですか?」


「はい」


「お願いしても……いいんですか?」


「もちろん……それにきっと、だからあの時俺は先輩を助けたんだと思います」


「……っ……胸、貸してください」


 そう言った先輩は心配そうに掴んでいた手をもう一度ぎゅっと握りしめて、身を寄せる。


「はい……」


 胸の中で涙を流し始めた彼女を俺は優しく抱きしめた。

 









<あとがき>


 遅くなってすみません。

 ひとまず、本作の第一章はこれにて終了となります。二章については書こうとは思っていますが12月にはカクコンがあるのでそれに向けて新作を書いていくつもりなのでおそらく、後になるかと思いますがお待ちいただけると嬉しいです。今まで読んでくださりありがとうございました。これからもよろしくお願いします!


 というわけでよければ☆評価、レビューなどなどしていただけると嬉しいです!

 また、僕のフォローなどもよろしくお願いします!





新作です!!


「声すら聞いた事がない隣の席の地味子ちゃんが誰もいない教室でサキュバスのコスプレで配信してたんだけど、なんて声を掛ければいい?」


https://kakuyomu.jp/works/16817330662874697854


 



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いつも冷たい瞳をしている孤高のクール美少女を救ったら、なぜか懐つくようになって俺にだけデレてくる。 藍坂イツキ @fanao44131406

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