6話-(7)
9/30 19:40 織絵個人探偵事務所(の、テレビ映像)
――では、ケルベロスの憑依者が執行官になったのは制度施行とほぼ同時だったと?
『ええ。最初期、DPⅠにてに悪魔憑きとして政府側の協力者になったのはケルベロス、ベルフェゴール、タリヒマル、その他20を数えるわけですが、タリヒマルの憑依者はご存知の通り殉死、ほか大なり小なり被害を受けました。ケルベロスとベルフェゴールが無事だったのは単純に、相手の相性や宗教組織に対してのスタンスで生き延びただけですよ。組織を壊滅させただけでは事態は終わらないと分かっていましたので、外部執行官の制度を制定し、第一期執行官として彼等を取り込んだということです』
――ですが、ベルフェゴール、河浜氏の証言からすると当時のケルベロス憑依者の推定年齢は高めに見積もっても学生です。子供を武装集団との抗争に投入する是非については、問題にならなかったのですか?
『当然問題になりました。私は閑職で冷や飯食いだったので、「いなくなってもいい席」である対策室の室長に据えられただけの女ですので政治はわかりません。ただ……そうですね。喩えるなら、国家機密の暗号文書をそらで解読できるギフテッドの子供がいたとしましょう。他国の諜報組織や自国に明らかに害となる連中に掻っ攫われるくらいなら、大事に国で管理すべきと思いませんか?』
インタビュアーの質問に、全く動じることなく切り返すのは我らが袴田課長である。インタビューというか、検証映像というか。今テレビで流れているのは『大流入から23年 ケルベロスと政府、魔界王との関わりを問う』といういささか以上にアレな内容。その主題のひとつに
袴田課長とインタビュアーのヒリ付くやり取りがしばし流れたかと思うと、舞台は変わって……『聖徒』の本拠地か。となるとアイツがインタビューを受ける側か?
『ケルベロスは、我々にとって縁浅からぬ対象です。因縁、という縁ではありますが……少なくとも、我々聖徒の側にあっては悪魔憑きという存在は、悪魔となんら変わりありません。そんなものと手を組む日本政府も、悪魔憑き達も、実績を別として未だ監視対象にあることは貴方も、この映像をご覧になる皆様も忘れないでいただきたく』
「うわでた」
「おじさん、うるさい」
画面に大写しになり、挨拶代わりの嫌味節を放ってくるジェルトルデの姿に私は思わず声を上げた。麗が抗議の声をあげるが、正直そりゃ声だって上げたくなるだろう。というか、こんな爆弾発言をよく地上波で流せたもんだな。
――ええと……ジェルトルデ様は、ケルベロスの憑依者と交戦経験があると政府公式にも記録があると聞きました。DPⅠの頃であると考えると、お互いかなり若かったかと思いますが。年端も行かない相手を痛めつけることに罪悪感などはなかったのでしょうか?
『まったく。少なくとも、当時、我々「聖徒」の「銃士」ハロルドを始めとして、「
――ありがとうございます、十分理解致しました!
『いえ、あの男の社会的地位は公にならない分、不当に高く見積もられ』
(暗転)
「……で、おじさんは当時のジェルトルデさんに手加減しなかったの?」
「殺す気で殴ったよ」
「最低」
「
「責任転嫁とかもっと最低だよ」
ジェルトルデの恨み節がカットされたことで、彼女の恨みの深さが公共の電波に乗ってしまった感はある。それはそれとして極聖体の肉体相手に手加減したらこっちが死んでいてもおかしくなかったのだがそれは無視か。しかし、聖火隊とかよく覚えてたなあいつ。『共徒』は比較的早い段階で「正しい意味で」白旗を上げてきたから私もすっかり忘れていた。そして、私達の喧嘩をはらはらした顔で見つめていた悠さんは、画面に映った新たな人物に目を丸くした。
「あ、あれ。河浜さんじゃないですか? 地上波には出たがらないって聞いてたのに」
「政府管理下の特別撮影だからだろ。税金を更に巻き上げやがったな」
「おじさんが言っていい言葉じゃなくない?」
――河浜さんはケルベロスの方と交流関係が特に盛んな執行官だと伺っています。最近も、彼についてお話されていたようですが
『まーね、あの仏頂面と仲良くできるのは俺ぐらいのモンだからね。ヒージーって悪魔の憑依者、あいつはマジでケルベロスと相性最悪で……まあそれは置いといて、最近だったね? 先月かなあ。海の上で怪獣大決戦やってきたよ、あいつと俺とで。細かいことは俺の配信とか政府の事例報告書でも読んでね』
――I市沿岸と都市圏で、騒乱があったとは聞いていますが……あの、そちらに関わっているとは知りませんでした。公開情報なんですか?
『いっけね、いいか悪いか聞いてなかった……いい? 執行官として派遣されてたからセーフ? セーフだって、カットなしで放映していいってさ』
「……適当すぎる」
「私はこういう系の人の配信は見ないんですけど、噂以上に適当なんですね」
自由奔放なインタビューを見せられる側としては、自分の情報がぽろっと出てこないかだけ心配していた。いや、I市の一件が結構ギリギリだと思うんだけどあれゴーサイン出たんだ情報開示。悠さんは世帯持ちだけあって落ち着いた内容しか見ないのだろうし、そりゃこんなの見せられてもとは思う。
「噂のほうがなんぼかオブラートに包んでますからそりゃあ、まあ。しかしよくこれ放映できたな、とっ散らかりすぎじゃないか……?」
「むしろ個人情報とか大丈夫なのか心配になってきますね」
「大丈夫でしょ、そこは政府だし地上波だし……あ、電話。アタシ出てくるね。録画してるよね?」
「心底嫌だけどしてる」
こんなものを後で見ようという麗もどうかとおもうが、こんなものが流れてる時に個人的な連絡か。なんか嫌な予感がするなあ……と、私はこの時、呑気に構えていた。
その直感は正しく、そしてこの時の呑気さがまさかの事件を引き起こすなどとは全く、ちっとも、全然考えていなかったのだが……。
世界の終わりは三度も来ない 矢坂 楓 @Ayano_Fumitsuka
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