中等部生徒会副会長
自業自得と言うかなんと言うか。
昼間校舎内を道に迷ったのは僕だけれど、それにしてもこれは酷い。
僕は今、中等部の生徒会の皆様に囲まれている。
年齢が近いとはいえ、身長差はある。
微妙に目線が合わない彼らに訝しげな目で見つめられているのだ。
いや、正確には蛍様と名前も知らぬ副会長君の数歩後ろで半円形に広がり、僕らを見ているのだが目立ってしょうがない。
僕としては、目立ちたくない。
「あの、御用がなければ私はここで────」
失礼します、と言おうとして止めた。
恐らくは失言。
蛍様が言葉を発する前に、先に発したからか、何か失礼をしたか。
空気が凍り付いた、気がした。
仮にも蛍様の従者である僕は彼女に強く出られない。
弱点と言っても良い。
しかしそれを悟られてはいけない身としては取り繕う必要がある。
いかに失礼であろうとも。
正面に立つ蛍様と目を合わせ、視線を隣の副会長君に向けて背後の中等部の生徒会の面々にさらりと流す。
それから
と、こんな風に。
実際僕に空気が読めるかどうかは重要じゃない。
気の弱い振りがどこまで通じるかが重要なのだ。
「雪見先輩」
声が掛かった方を見ると、蛍様。
蛍様は右斜め後ろの副会長君に左掌を向けて僕の視線を誘導する。
「実は彼が謝りたいと言っていたんです」
眼鏡越しの冷たい瞳と目が合う。
いや、これ睨んでるな。
君ぐらいだよ、先輩に向けて平然と睨み付けてくるのは。
「昼間はすみませんでした
自己紹介が遅れました
俺は
昼間は、って睨みながら言われると本当に悪いと思ってるのか分からないな。
彼の視線の冷たさに背中を冷や汗が伝う。
もしかしたら、少し対応を間違えたかもしれない。
蛍様に対して怖がるのではなく、彼の態度に怖がっていた方が良かったかもしれないのだ。
僕の微妙に噛み合わなかった態度に誰も気付いてないと良いなぁ。
「あ、いえ
自己紹介ありがとうございます、浅葱君」
それに浅葱、ね。
何処かで聞き覚えのある名字だな。
それより僕はいつまで囲まれていれば良いんだ。
吐きそう、こんな目立つ所で聞きたくなかった。
「雪見先輩、他の生徒会メンバーの自己紹介は今度しますね」
楽しげに後ろに視線を流す蛍様。
「今度?」
「伝わってませんでしたか?
雪見先輩には馴染みが無いかと思いますが
そろそろ学園祭が近いので
毎年、中等部と高等部の生徒会が合同で仕切るんです」
浅葱君が教えてくれるが多分僕は興味がなかったか、眠すぎて聞き逃していたんだろう。
「あぁ、色々忙しくて忘れていました
ありがとうございます、浅葱君」
何故忘れていたんだ。
いや確かにそれなりに忙しかった。
言い訳をするようだが、僕の時間はそれはそれは…………
睡眠時間と勉強時間が足りないのだ。
「いえ、必要な事ですから」
すんっと澄ました表情の浅葱が、やっと僕から視線を外す。
めっちゃ嫌われてるなぁ。
面倒くさぁ、僕何かした?
いや、したと言えばしたかもしれないけど、あの時彼は居なかった筈。
そして何よりあの時の事実を彼は、浅葱誠は知らない筈なんだ。
「会長、俺の用事に付き合わせてしまってすみません」
「いや、大丈夫だよ
では雪見先輩、また後日正式なご挨拶をさせて頂きますね
さようなら」
どうやら僕が考え事をしている内に用事は終わっていたらしく、まさか本当に自己紹介が目的とは思わなかったのだが。
蛍様から挨拶を送られた事で僕はやっと現実に戻ってきた。
「あ、あぁはい…………」
僕の中途半端な返答を受け取ってようやっと、中等部の生徒会の面々は僕に背を向けて歩きだした。
中等部生徒会。
高等部の生徒会とは違った意味で独特な雰囲気だった。
少しの間呆然とした後、僕は周囲から注目されていた事を思い出して慌てて自分の家に帰った。
青薔薇が枯れるまで 白猫のかぎしっぽ @leis
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