予定外の再会

 どうしてこうなったっ!


 僕はただ、この無駄にだだっ広い校舎を把握しようとしていたはずじゃ……

 まさか、同じ敷地内に構造の変わらない校舎が併設されていたなんてっ!!

 そうして僕は、入学して半年も経つと言うのに道に迷っていた。

 そんな僕を拾ったのが、蛍様だったというだけの話だ。

 それも一度、部外者と間違われて生徒会室に案内されるという形で。



 生徒会室に着くと、室内には蛍様と奥のデスクに座っている少年以外は僕しか居なかった。

 蛍様は僕に初めましてと言い、名前を告げた。


「初めまして、赤井 蛍あかい けいです」


 拍子抜けしたとは、このことだろうか。

 僕は蛍様の顔を知っていた。

 名前も随分前から知っていた。

 それでも、蛍様は僕のことを知らなかった。

 きっと、10年も前では顔も覚えていないのだろう。

 どうやら僕は、どうでも良いと言っておきながら一方的に知っていると言う関係である事に……

 蛍様に初めまして、と言われた事にショックを受けたらしい。


雪見 時雨ゆきみ しぐれと言います」


 呆然としつつも、僕は応えていた。

 今の僕はどんな顔をしているだろう。

 複雑な気持ちだ。

 高校生になってから敬語を久しぶりに使うようになった。

 多少拙いところはあるが、蛍様が僕を覚えていないというのなら、こういう部分は好都合、なんだろう。

 僕は蛍様に案内された生徒会室を軽く見回す。

 すると「副生徒会長」の銀板プレートが置かれていたらしいデスクに座っていた眼鏡の少年と目が合う。

 蛍様が僕を生徒会室に案内したのは、彼に僕を高等部まで案内させるためだったらしい。

 蛍様は直接案内をしてくれはしないんだなぁ、なんてまた複雑な気持ちになったけれど忙しいみたいなので慎む。


 しかし、蛍様に紹介された少年は中々に愛想が無かった。

 歳上に対する緊張か、元々無愛想なのか睨み付ける様に僕を見て言った。


「高等部まで案内します」


 それから数分で高等部の校舎は見えた。

 僕は少年に「ここまでで大丈夫です」と愛想良く微笑んで背を向ける。


「雪見先輩」

「はい、どうしました?」


 掛けられた声に振り返ると、中等部の副生徒会長は意を決した様に言った。


「中等部にはどの様な用だったんですか?」

「あれ、迷っただけだと言ったのですけれど

それは信じて貰えないのですか?」


 怪しいのだろうけれど、疑われてるよね。

 何で疑われてるのかは全然知らないけど。


「外部生でもそろそろ覚えますから」

「あ、そう言えば一人で校舎内を出歩かない様にと言われていました」

「え?」


 中等部の副生徒会長がキョトンと、しているとタイミングを測っていたかの様に声を掛けられた。


「あぁ、良かった

 そこに居たのですね

 雪見さん、生徒会長が呼んでいますよ

 急いで高等部に戻った方が良いと思います」


 高等部の校舎から迎えに来ていたらしい、長い前髪に眼鏡をした目立たない外見の生徒会の腕章を着けた青年。

 見覚えは無いが一応生徒会の1人、なのだろう。

 正直助かった。

 

 青年は僕に声をかけた後、僕の後ろにいた中等部の副生徒会長を見付けたのか、苦笑いして数歩前に進み出た。

 丁度、僕を背にする様に。


「すみません、雪見さんをここまで連れてきてくれたのですよね?」

「い、いえ」


 その言葉は嫌味では無いのか。

 言われた側である中等部の副生徒会長は、無愛想ながらも顔を引き攣らせている。

「さっさと校舎に戻れ」と圧をかけている様にでも見えたのか、驚きと戸惑いをない混ぜにした様な返答を返し、それじゃあ戻りますと告げて中等部の校舎に戻って行った。

 僕はそれを見送り、青年の案内高等部の校舎に戻る。

 高等部の生徒会室に戻れば当然、生徒会長と副会長が僕を仕方ない、と言った目で見る。

 他の役員には怒られもした。

 勿論、僕は慌てて彼らに謝る。

 まぁ、その後気まずいながらも書類作業やら整理を手伝った。

 帰る時間になると、僕は早めに挨拶をして生徒会室を出る。


 そういえば、あの後僕を呼びに来たらしき眼鏡の青年を見掛けていない。

 生徒会の一員だったと思っていたのだが。

 彼は誰で、何者なのだろうか。



 考え事をしつつ下駄箱から革靴ローファーに履き替えて校門に行くまでに何故か熱心な視線を感じ、手鏡で背後を確認しようとして止めた。

 わかりやすい程に熱心な視線を向けていた相手が目の前に居たから。

 従者だろうか、数人に囲まれて蛍様と一緒に帰ろうとしていたらしい。

 蛍様の隣で歩いていた少年。

 名前も聞いていない、中等部の副会長だ。

 一々「副生徒会長」と呼ぶのは疲れた。

 僕は通り過ぎようとした。

 けれど、蛍様が立ち止まった彼に気付き、僕にも気付いてしまった。

 あーあ、せっかくそのまま気付かない振りして帰ろうとしていたのに。


「数時間ぶりですね」


 蛍様と目が合ってしまった僕は仕方ない、と苦笑するのだ。

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