夢日記:海に浮かぶ高速道路
高黄森哉
海に浮かぶ高速道路
◇
海に浮かぶ高速道路は建設中で、道路を支えるためにある I 字の柱が、海にカーブしながら等間隔で並んでいる。コンクリート製で灰色の柱だ。青い海と空と柱。この景色は、堤防からの眺めだろうか。
私の夢の中では、自分でない視点が挿入されることがある。この眺望もその一つだ。誰かの視界とかではなく、ただの視点。状況説明としての場面挿入。あるいは誰かの視界かもしれないが、とにかく今の私が分かるのは、あれは海でない場所からのもの、というのみだ。
その柱の、一つを上から見下ろす。高速道路の途中まで、柱と柱を渡す道路が敷かれているのだが、この柱は、まだ渡されていない。道路はすぐそこまで来ている。具体的に、この柱の一個手前まで。なんにせよ、この柱にはまだ道路が渡されていない。
だから、柱は孤立していた。鳥瞰することで、柱が孤立していることが、ありありと分かった。海は風に撫でられ、細かい波を、サメ肌のように立てている。深い青の嫌に現実的な海だ。思い出すだけで、海特有の、どぽんぐぽん、とかいう音が、聞こえてくる。
柱の太さは教室くらいで、高さは五階建てくらいである。柱の側面に建物があり、それは柱を四として、三くらいの高さにある。管制塔のような外観だが、それよりかは小さい。人が住むように出来ている。例えば、火事の監視塔みたいに。
そして、その中に住んでいるのが、何を隠そう、この私だったのだ。私は、アルバイトで、柱の警備を担当しているらしい。壁には東西南北、枠付きのガラス窓が、胸くらいのところに絶え間なく並んでいて、私は仕事で、窓に備え付けられた双眼鏡(百円入れると一定時間利用できるあれ)を覗いたりする。その設備に、そういう雰囲気があっただけで、私がその夢で、双眼鏡を覗くことはなかったが。
私は柱の黄色い梯子を下りて、船に乗り込んだ。小さな船で、自分しか載っていない。見回りでもするのだろうか。私は、自身のことを高いところから、見物している。柱の頂上よりも、やや低い位置で。
◇
ここで、場面転換が起きる。それにともない、先ほどの三人称的視点から、一人称へ移行する。私は住宅街にいた。住宅街は、海へ続くゆるやかな傾斜の途中にある。この町は欠けたすり鉢状に、海へ傾斜しているのだ。
海には、例の柱が並んでいた。私がアルバイトをしている柱だ。では、この一人称の視点は誰なのか、となるのだが、これが、これまた自分なのだ。じゃあ、私が二人いる、と考えるのが真っすぐなのだろうが、それは違う。
この世界には、私が二人いる。
一つの私は、柱でアルバイトをする自分で、もう一方はこの町で、学校に通う自分だ。二つは完全に独立した存在であり、後者が成長した姿が前者、ということはない。奇妙なことに、私と私は、この世界では別々だった。
私は住宅街の曲がり角に現れた下りの階段、少なくともあの時の私にはそう見えた、を降りようと、足を踏み出す。すると、ストン、と落っこちた。そう、住宅街と大通りは、唐突に三メートル下がっていたのである。
女生徒二人組が、その様子を横目で見て、薄ら笑いを浮かべた。片方は、現実世界にいる、高校時代の同級生で、もう片方は顔が良く見えなかった。夢の世界では彼女は同級生ではなかった。彼女は、海に良く似合う、知らない学校のセーラー服を海風にそよがせていた。
私が、彼女のそういう態度に傷つかなかったのは、そもそも現実で、その人とは、親しい関係ではないからだ。話したこともない。キリンみたいに背が高いことしか、印象にない。
◇
場面転換があり、私は駅の近くにいる。場所は変わったものの、視点(一人称)や、人物(学生である私)は、変化していない。
私は、かつての、これまた余り親しくなかった男子生徒に、学校までの道のりを尋ねている。なんと、私は、この街の転校生なのだ。と書きたいところなのだが、私は幼稚園から高校まで引っ越しているので、なんの驚きもない。
そして、目が覚めた。このまま目が覚めなければ、アルバイトの私、学生の私がどのような、事態に遭遇していたのか、興味は尽きないが、それを調べる方法はない。しかし、考えるに、あの二人の今後は、余り幸せではないと思う。そうであることは、夢の不思議な理論が、肯定しているのである。
夢日記:海に浮かぶ高速道路 高黄森哉 @kamikawa2001
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