第3話『異世界はお金から?』

 俺はミーアと別れた後、大通りと呼ばれている道を歩いていた。この通りに入った時も思ったのだがこの世界は亜人が普通にいるようだ。自分の体感だと通り過ぎる人中で4割位が亜人かなといった印象だ。まあ、この街が特別亜人が多いという可能性もあるので今度調べてみたいな。人間と亜人の歴史なんかも興味がある。


「そんな事調べる前に先ずあれだな……金を稼がないと」


 金が無いと何もできない、これは地球でも当たり前だし、この世界でも適用できる基本的なルールだろう。先ず当分の飯を確保する為の金、寝る場所を確保する為の金、着る物を確保するための金。まあ寝る場所は最悪野宿でもいいし、今着ている学校の制服は丈夫に作られているから匂いを除けば当分は大丈夫だろう。となると最優先で食料を確保する必要があるということになる。


「なんか仕事無いかな〜」


 俺が小さく呟くとちょうど目の前を通り過ぎた柄の悪そうな筋肉ダルマAが声をかけてきた。


「そこの兄ちゃん!仕事を探しているなら俺のところに来ないか?」


 いきなり声をかけられたのでビビってしまった。話の内容を聞くに仕事をくれるらしいがこいつはどう見ても柄の悪い筋肉ダルマだ。多分893とかその関係者だろう。悪い、俺は仕事は選ぶタイプなんだ。ヤクザの元で仕事なんて御免だね。


「すみません、今用事があるので。またご縁があれば!」


「そうか、なら仕方がない!野郎ども出発するぞ!」


 筋肉ダルマはそういうと七人くらいの男を連れてどっかに行ってしまった。誘いを断っていなかったらあの中にいたのだろう。あの中にいても何をされるのかわからないのでこの選択は正解だったはずだ。


「そういえばミーアの話に盗賊ギルドって言葉があったな……、なら冒険者ギルドもあるのか?」


 異世界では冒険者という職業が有る事は半分お約束だろう。それに盗賊にギルドがあって冒険者にギルドが無いなんてことは無いだろう。冒険者というものは俺の想像どおりならば下っ端のうちは魔物退治などではなく簡単な雑用をして金を稼ぐものだ。もしこの世界の冒険者が俺の想像通りだとしたら十分俺でも金は稼げるだろう。なので俺はそこら辺にいた人の良さそうな、佐々木に似た青年に声をかけた。いや佐々木は人の良いやつでは無かったな。


「すみません、冒険者ギルドの場所って何処だか分かりますか?」


「冒険者ギルドなら、あのライオンの像が屋上に有る建物だ」


 青年が指を指した方向には金色に光るライオンの像があり、その下には大きく冒険者ギルドと書いてある看板があった。


「親切にありがとうございます」


「いいよ、困ったときはお互い様だ」


 良い青年と出会ったな。


 俺はそのまま冒険者ギルドへと向かい、ギルドの大きな押戸を両手で開ける。冒険者ギルドの中はラノベやアニメでよく有るような酒場が付いていてガタイの良いおっさんが騒いでいる……といった感じでは無く結構清潔感の有る場所だった。俺はドアを開けてそのまま受付と思われる場所まで進み、そこに立っていたお姉さんに声をかける。


「あの~仕事ってどうやって受けるんですか?」


「はい、先にお聞きしますが冒険者登録はもうなさっているでしょうか?」


 成程……冒険者として登録しないと仕事を受けれないシステムになっているのか。まあその方がギルド側も冒険者を管理しやすいのだろう。


「いや、してないです。なので登録を先にしてもらってもいいですか?」


「勿論です。では先ずお名前と年齢を教えてもらってもいいですか?」


「はい、名前は龍馬・日陰、年齢は16です」


「日陰・龍馬さん……えーと、16歳っと」


 受付のお姉さんは青白く光る水晶に手をかざしながらそう言うと、水晶の横にあった何も書かれていないカードに文字が刻まれていった。見た感じ機械類の類では無いので魔法が関係しているのだろうか?これも今度時間があったら調べてみよう。


「出来ました」


 俺は新しく出来た冒険者カードを受け取り中身を確認する。カードの中には俺の名前、冒険者ランク、依頼完了数、パーティーの紋章(今は何も書かれていない)といった情報が書かれていた。


「冒険者カードを持っている方はあちらの掲示板に貼られている依頼書を私のような受付の人間に渡すことによって依頼を受ける事が出来ます。また依頼は依頼主によって報酬金が決められており、依頼主によっては追加報酬を貰える事もあります。あなたは現在一番下のGランク冒険者ですので簡単な依頼しか受けられませんが、たくさんの依頼をこなすことでランクが上がっていき、より高難易度の依頼を受けることが出来ます。基本的に難易度が高い程、報酬金が高いのでなるべく自分が出来る中で一番難易度の高い依頼を選ぶようにしするといいですよ」


「丁寧な説明感謝する」


「あ、後言い忘れてましたが今日はもう夕方なので、貴方が受けれる依頼はもうありません。すみませんが明日の早朝に来ていただく事をお勧めします」


 なんと……今日はもう依頼は売り切れだったのか。仕方ない今日の晩飯は抜きか……。


「色々と助かった、また明日来ることにするよ」


「お待ちしております」


 俺はそう言うと冒険者ギルドから出て行った。冒険者登録をする事は出来たが、冒険者ギルドに行った目的である仕事の確保は無理だったな。


「さ~て今夜はどうやって乗り切ろうか」


 この町に来て数時間の俺は野宿にちょうどいい場所を知らないし、そもそも手ぶらで夜の街にいる事が危険かもしれない。それに野宿でもいいかと思ってたがよく考えたら野宿なんてしていると盗賊ギルドの連中に身包みを剝がされて奴隷として売られてしまうかもしれない。


「そう言えばミーアに貰ったこの紙……」


 そこにはミーアが泊まっている宿の名前と部屋の番号が書いてある。


「取り敢えず言ってみるか」





 △▼△▼△▼△▼△▼△▼


 通りすがりの人に場所を聞いたりしながら宿を探していると、一時間程度で見つける事が出来た。宿は町の郊外の方にあるらしく、辺りでは針葉樹が乱雑に生えている。町の中のオアシスと言うと変だが、ここだけ町の中に木が生えているので分かりやすかった。木製で出来た宿の玄関の前には『ギャレット亭』と書かれており、宿は三階建てだった。


 俺は恐る恐る宿のドアを開けてみると、エントランスにはミーアがいた。


「少し遅かったわね」


「いや、待ち合わせしてた訳では無いんですけど……」


「それもそうね」


 何故このピンク色の髪をした少女は俺がこの位の時間にここに来ることが分かったのだろうか?


「何でここに来るのが分かったの?って顔してるわね。答えは簡単よ、私はこう見えても200年以上生きてるの、だから10代の若造が考える事なんて手に取るようにわかるわ」


「ん?待て。200年も生きているのか?ミーアはエルフだったりするのか?」


「耳を見れば分るでしょう。それにあんな森の奥に引き籠っているだけの種族と同じにしないでよね」


 言われて確認するとミーアの耳は尖っている訳では無く、普通の人間の耳だった。


「取り敢えず私の部屋に案内してあげるわ。龍馬君のベットは無いからカーペットの上で寝る事になるけど大丈夫?」


「部屋があるだけで十分だ」


「ならいいわ」


 ミーアが優しいお陰で異世界初日は何とか乗り切れそうだな。


「たぶん冒険者ギルドに行ってた思うけど冒険者登録はしたの?」


 部屋に入ると一番にミーアがそれを訊いてきた。


「ああ、だが依頼は一つも残っていなかったな」


「当たり前ね。この町は冒険者が多いから朝一に行かないといい依頼は取れないわ」


「へ~そうなのか。勉強になったよ」


「この位お安い御用だわ」


 その後俺らはミーアが用意した夜ご飯を食べる。ミーアが作ったご飯は「簡単なものよ」っと言っていたがとても美味しかった。200年の知恵があるのだろう。


「ご馳走様。とても美味しかったよ、何から何まで本当にありがとう」


「美味しく食べてくれたのなら私も嬉しいわ」


 その夜俺はミーアを質問攻めにしてこの世界についての知識をたくさん得ることが出来た。先ずこの宿の事だが一泊アラル銀貨8枚らしい、この世界の宿の相場は分からないが日本人の俺からしてもこの宿はまあまあなので割と高い金額なのかもしれない。


 冒険者についても訊いてみるとミーアは元々Sランクパーティーに入っていたため冒険者としてのランクはSランクらしい。何故今一人でいるのかを訊くと、「メンバーが殆ど死んだからよ」と帰ってきた。幸いミーアはもう何とも思っていないそうだが、死が身近にある世界という事は覚えておこうと思った。


 冒険者の仕事の内容について訊いてみると簡単な物だと迷子の猫探し、引っ越しの手伝い、商店での手伝いがあるらしい。自分の想像と割と近いものだったな。ついでに魔物について訊いてみると、魔物の討伐はCランクまでいかないと出来ないらしい。実際のところは武器さえあればゴブリンくらいなら誰でも勝てるらしいが集団戦だと厳しいらしい。


「おやすみなさい」


「ああ、おやすみ」


 その後俺は異世界初めての夜を過ごした。カーペットの上とはいえ、ベットで寝ていないので背中が痛かった。

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セカイの端であなたに花束を添えて 深夜 真昼 @YAdesu

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