第2話『異世界転移』

「画面の向こうの諸君、おはよう!俺の名前は日陰龍馬、学校では陰キャをしているが中身は普通の人間のはず……だ。俺の一日は当たり前だが起きる事から始まる。起きた後は鏡を確認し今日もイケメンである事を再確認する。まあ高校生活で彼女は出来ていないが……。その後は朝食を食べ、学校に行き、帰ったら勉強とゲームをすればいつもどうりの一日のはずだった」


 今日は登校前から嫌な予感がしたんだ。その嫌な予感は放課後に現実となる。普段の俺は超一流の陰キャが集まっている通称陰キャ部の仲間と下校している。その陰キャ部ではリーダー的存在である遠藤景雄が時々罰ゲーム付きのじゃんけん大会を行っているんだ。陰キャという人種は基本的に性格が悪いので罰ゲームの内容は到底やりたいものではなかった、なので持ち前の動体視力を活かしてじゃんけんでは相手が出す手を予測し、じゃんけんは全戦全勝を保っていた。ここまでは「どうだ~?すごいだろぉ?」といった感じだが今日は違った。今日のじゃんけんは俺の予想が見事にすべて外れて、俺の人生では初めての罰ゲーム被害者となってしまった。


 俺は皆に「明日に備えて準備をしてくるよ」と言い、一旦集団から離れると小学校時代からの親友である佐々木の家へと向かった。俺が明日嘘の告白する相手は学校一番の美人でもあり、高校生ながらモデル活動も行っている橋本さん。彼女の事を好きな人はうちの学校だけでも星の数ほどおり、俺もその中の一人だったりする。しかし告白してもOKを貰えることもないし、遠藤が宣言どうり俺の爆破具合をツイッターに晒したとしたら一生モノのデジタルタトゥーになりかねない。よって俺の結論は「逃げる」これに尽きる。


 佐々木の家に着くと、ベルを鳴らす。この時間ならもう家にいるはずだ。


「龍馬か、どうした?」


 案の定佐々木がドアを少し開けて顔を出してくれた。


「一生に一度のお願いがある!明後日までこの家で俺を匿ってくれ」


 何故佐々木の家に行ったかと言うと俺の家は陰キャ部の奴らに特定されている為、逃げるには不向きだと判断したからだ。


「なんだ、なんだ。急にどうした?」


「理由は言えないが、兎に角お願いなんだ!」


「う~ん、流石に理由なしだとなぁ」


「しょうがない……。罰ゲームで橋本さんに告白する事になったんだ。これを回避する為にとりあえず明日は学校に行かない事にしたんだ」


「な~るほど、小学の頃に金色のドラゴンとか呼ばれてたお前がそんなこと言うのか」


「金色のドラゴンの件は俺は何も関与してないぞ」


 誰がそんなザ・厨二病みたいな二つ名を付けたのか分からないが、古傷が痛む。


「それと返事はNOだ。理由は単純にそっちの方が面白そうだから、以上!」


 佐々木はそう言うと、まるで雷の様に素早く家の中に入っていった。


「クソ野郎ぉぉぉぉ!!!!」


 俺は佐々木の家の庭に生えていた雑草を力いっぱいに引き抜き、その場を後にした。





 △▼△▼△▼△▼△▼△▼


 結局翌日も俺は学校に行ってしまった。そして罰ゲームの時間である放課後、俺は橋本さんを屋上へと呼び出し、徹夜で完成させた告白のセリフを言おうとした瞬間……上空から俺に向かって一本の稲妻が降りそそいだ。


 次の瞬間俺はにいたんだ。





 △▼△▼△▼△▼△▼△▼


「好きです!!!!」


 あれ返事が返ってこないぞ?俺は現実を見るのが怖くて閉じていた目をそっと開ける。俺の目に最初に飛び込んできたのは石畳の道、明らかに学校ではない。そしてその道の上、俺から見ると目の前には顔が真っ赤になっている14、5歳くらいのピンク髪の少女がいた。


「「「「「Юу дуртайгаа хэлээд байгаа юм бэ????」」」」


 は?これは何語なんだ?てかここ何処だよぉぉぉ???


 その瞬間俺の意識が現世から切り離される。正確には違うのかもしれないがそうとしか感じられない経験をした。数秒の暗黒を挟み,見えたのは一面色の無い世界。自分の体があるという感覚はあるが下を見ても自分の体は無い。相当不思議な空間の様だ。


「おっと、失態だね。言語を渡すのを忘れてた」


 自分から見て前方に存在が現れる。何故このような表現をしたかと言うと声は目の前から感じるが自分の目では声の主を認識できていない。しかし体の第六感的な物で目の前に人型の何かがいるという事は認識できている。


「私の事が見えないのに声が聞こえるからビビらせちゃったかな?まあいい私の名は……いやここはあえて名乗らないでおくか、とりあえず私の事はXと呼んでくれ」


 掴み所のない人物だ。それに聞こえてくる声も耳で聞いているというよりは脳に直接語りかけられているような感覚だ。


「ピンポーン!大正解!私は君の脳内に直接語りかけてるんですよ?すごいでしょ?」


「まさか心が読まれてるなんて思いもしなかったぜ。お前は神なのか?」


「まさか、神な訳ないですよ」


「じゃあ俺をここまで連れてきたのはお前じゃないのか?」


「それは私だね、ごめんね!いきなり異世界に召喚しちゃって」


「異世界……?待て、ここは地球じゃないのか?」


「残念、異世界です!」


 いきなり異世界へと転移だと!?それはマンガやラノベだけの話じゃないのか?といった疑問が頭の中を走り抜ける。


「ちょっと時間が無いから、これあげるね」


 Xがそういうと俺の体に軽い電流が流れる感覚があった。


「成功だね。それにミーアちゃんは能力スキルによって日本語も分かるから!タイミングが悪かった、残念!」


 Xはそれだけ言うと俺の視界は元に戻っていく。


「「「「あ、あ、あ、あなたす、好きってどういう事よ!?」」」」


「すまん間違ってな」


「間違ってそんな事普通言うかしら?」


「そこは目を瞑ってくれ」


「まあいいわ、それに顔が赤いのはあなたがいきなり空間魔法で現れたからだからね……!」


 目の前の少女は顔が赤い事を俺が言った事のせいにしたくないそうだ。


「それは分かった。だが一つ気になることがあってな。空間魔法ってなんだ?」


 俺のゲーム知識からするとテレポートが出来たりするような魔法の事だが、この世界の魔法が俺の認識と同じとは限らない。


「空間を司る魔法の事よ。でもなんであなたがそんな事を言うの?」


「実は俺は空間魔法なんか使ってないんだ。気づいたらいきなりここに飛ばされていたんだ」


「転移災害ね、それは災難だったわね」


 しかし異世界転移など何度夢に見た事か、俺は今異世界の大地の上を立っているこの事実にワクワクがとまらない。


「自己紹介はまだだったわね。私の名前はミーア、家名は無いわ」


「俺の名前は龍馬・日陰だ、よろしくな」


「龍馬……珍しい名前ね。どうやらかなり遠方から飛ばされてしまったのね」


「ああ、ほんとに災難だよ。ちなみにここは何処だか分かる?」


 地球では無いのは確定しているが一応地名を訊いてみる。まあ訊いたところで何処だかは分からないだろうが。


「分かったわ、ここは剣の国ノトア帝国の第五都市、通称要塞都市のアラルよ。西部にある他国との国境が近いからここら辺一体は要塞が多くて、その要塞群の中心がここアラルよ」


「丁寧な説明助かる」


「常識を話したまでよ」


 何個か興味深い単語が出て来たな。先ず剣の国と言う単語、国名はノトア帝国との事だが剣の国という言葉から剣に関係のある国という事が分かる。それにここは国中では西部であるという事が分かったので常識はずれな行動をしたときは極東の礼儀と言えば誤魔化せそうだ。


「他にこの町について教えてくれないか?」


「そうね~、この町は私の感覚だと首都の次にご飯が美味しいわね。それとこの最近は盗賊ギルドの人が増えている印象ね」


 ご飯が美味しいのは日本人の俺からするととても良い情報だ。盗賊ギルドの人が増えているのはあまり良くない事だという事が分かるな。道中ではスリなどに気を付けよう。


「いきなり現れてごめんな!いろいろ教えてくれてありがとう」


「いえいえ、これくら何とも思わないわ。あ、後私に会いたくなったり、生活に困ったらここにおいで。後一週間はこの町にいると思うわ」


 ミーアはそう言うと俺に小さな紙切れを手渡してくれた。紙切れには宿の名前と宿泊している部屋の番号が書かれていた。


「何から何までありがとう!ではこれで!」


「またご縁があればその時はよろしくね」


 俺が異世界に召喚された場所は路地裏だったので、俺は一旦大きな道に出る。そこには恐竜のような見た目の大きなトカゲが馬車、この場合はトカゲ車か?を引いていたり頭に猫耳や犬耳を生やした人、そもそも頭の形そのものが人間じゃない人、全身を鎧で覆った人や、ボディビルダーも驚愕の筋肉ダルマなど、多種多様な人がいた。俺の頭の中にはまだここは異世界じゃないんじゃないかと言う考えが残っていたがこれを見てその考えは一瞬で吹っ飛んだ。


「よろしくセカイ!」




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20221218 誤字を修正

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