おばあちゃんと、孫。


「菱ちゃん、お好み焼きの素が出来たよ」

「はーい」

菱は炬燵の上にホットプレート置くと、梅から銀のボウルを受け取った。

おつまみを入れたカゴの横でプレートに牛脂を落とす。その煙に誘われるように仏壇が横に動いた。

「おぉ何やら準備万端じゃねぇか」

「これが…チータラでしょうか」

胸筋を張る武多玉と、物珍しそうに炬燵上を眺める知多良の後ろから愛多賛が蹴りを入れた。

「ちょっと立ち止まらないで頂戴、あとがつかえてるんだから」

仏壇の裏から出てくる男たちに、菱は笑った。

「今から豚玉焼くところだよ」

「何!?俺にヤキを入れようってのかぁ?」

「アホですね。この世界のブタタマでしょう」

「そうだぞ武多玉」

仏壇裏の虹色の空間から黒い外套を靡かせ魔王が姿を現した。

「私が作ってくれと頼んだんだ。ブタタマもチータラも」

「チータラは買ってきたんだけどね」

ほほ笑む菱に魔王も笑みを返した。

「これが本物の炬燵か」

「うん。あったかいから入ってよ」

「ああ」

魔王は菱に倣い炬燵に足をいれる。

「ほぅなるほどこれは良い。今度魔王城に取り入れよう。お前たちも経験しておけ」

「はい魔王様!」

三魔官は素早く炬燵に入った。

「あらもう来とったとね」

「お邪魔してまーす」

台所から現れた梅に魔王と三魔官は手を上げた。

「豚汁出来とるけん、先に食べよきぃ」

炬燵上に湯気の立ち上る雪平鍋が置かれる。

「うわぁうまそう!」

「ちょっと武多玉、取り分けますから待ちなさい」

「へいへい、よろしく頼みますわぁ知多良」

おたまを握る知多良の横で、菱はフライ返しを動かす。

「いっくよー」

見事ひっくり返ったお好み焼きに拍手と歓声が上がった。

照れてほほ笑む菱に、梅は穏やかに笑った。

「ありがとうねぇ、菱ちゃんのお友達になってくれて」

「え?」

「菱ちゃんは何でもおばあちゃんを優先しちゃって、お友達作るのが難しくてねぇ。おばあちゃん、菱ちゃんが友達に囲まれて幸せそうで嬉しいんよ」

「お、おばあちゃん…」

頬を赤くする菱に、梅は手を叩いた。

「あぁ麦茶ば持ってきちゃろう。炬燵に入っとったら暑うなるけん」

ぱたぱたと台所へと向う梅を愛多賛が追いかけた。

「あのさ、おばあちゃん」

「ん?なんね」

「アタシたちも嬉しいの。魔の者のことを最優先にして、ずっと国を守ってきてくれた魔王様が、あんなふうに幸せそうに笑ってるところが見られて嬉しいの」

「あらそうねぇ」

ほほ笑む梅に、愛多賛もほほ笑んだ。

「アタシね、この世にそんな都合のいい奴いるわけないって、もし万が一居たとしてもアタシたちは打ち倒されるだけだって思ってた。…だけど本当にいたのよね」

皿にお好み焼きを取り分ける菱に、愛多賛は柔らかな視線を送った。


「世界に愛と平和をもたらす、勇者様ってやつがさ」

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おばあちゃんと一緒の異世界転生 山下若菜 @sonnawakana

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