おばあちゃん、危難。
「最強のおばあちゃん…だと?」
愛多賛の報告に魔王は眉を顰めた。
「此度の勇者はおばあちゃんだというのか」
「ええ。でもただのおばあちゃんじゃないわ。際限ない愛で相手を無力化する能力者なの」
愛多賛は隣に跪く武多玉と知多良に視線をやった。
「おばあちゃんの愛は強力よ…でも魔王様なら…」
「あの、すみません」
魔王城最上階の扉が開き、猪戸菱が現れた。
「こちら魔王様のお部屋であってますでしょうか」
「ひぃ!」
菱の後ろで拡がる梅紋の風呂敷に、武多玉と知多良は身を寄せ合った。
「魔王様!あの領域に入ってしまうと祖母の郷愁に誘われてしまいます!」
「あんなん誰も逆らえないぜ!」
「…なるほど」
魔王は玉座からゆるりと立ち上がった。
「魔の者にも父母がおり、祖父祖母がいる。その愛の力に逆らえぬのは自明の理。闘争心を無力化されては異常な速度の侵攻もやむなしというわけか」
踵を鳴らし歩み寄る魔王に、菱は梅を背中に庇った。
「あ、あの…」
「しかし、その力もここまでだ」
魔王は拡がる梅紋の風呂敷に足を踏み入れた。
「魔王様!」
武多玉と知多良は手を伸ばしたが、魔王は緩やかに首を振った。
「我は魔の者の流した涙より産まれ出し存在。故に父母も祖父母もない」
梅の前に菱は両手を広げたが、魔王の瞳に体が動かなかった。
「祖母の愛の力など我には効かぬ。我が配下に力をふるった罪、命散らして償え勇者」
掌に黒炎を纏わせる魔王に、菱は大きく手を伸ばした。
「やめてください!」
菱の体から菱紋の風呂敷が飛び出す。
「おばあちゃんにひどいことしないで!」
魔王を包む菱紋の風呂敷に三魔官は目を丸くした。
「…あれはっ!
「おばあちゃんの愛に隠れて気づかなかったけど、あの子も愛の力が凄いんだわっ!」
「そういえば武多玉の攻撃が全く効いていませんでしたね」
「あの子の愛の力で受け流されてたのよ」
「でも、
「このおバカ!」
愛多賛は武多玉の頬を張った。
「おばあちゃんは居なくても!魔王様は沢山の部下を愛し、愛されてるでしょ!?」
「そりゃもちろん」
「そんな魔王様に
「まぁおうさまっ!」
魔王の前に桜色の頬をした菱がいた。
「なんだ、どうした」
「えへへー」
「なんだ、そんなに笑って」
「あのね、ちょっとこっち来て」
手を招く菱に付いていくと、居間の
「魔王様、いつもありがとう」
「…え?」
「忘れたの?今日は敬老の日!いつも優しい魔王様に感謝する日だよ」
菱はにっこり笑っていた。
「なるべく元気で長生きしてね。僕は魔王様が大好きだからね」
「ま、孫ちーーーーーん!!!」
「魔王様ーーー!!!」
三魔官は魔王の腕を引いた。
「はっ!私は今なにを!」
「良かった魔王様気がついたんですね」
魔王の目に首を傾げる菱の姿が映った。
「ま、孫ちん…」
「駄目だわ!領域から出しても効果が継続してる…」
「どどどどうしよう〜」
「あの…」
慌てふためく三魔官を菱はそっと見上げた。
「僕たち…魔王討伐に来たんですけど…」
「ああ。煮るなり焼くなり好きにするがいい」
魔王は玉座の前にどっかりと座った。
「魔王様!?」
「すべての魔の者の親代わりである私が、孫に手をあげるわけにいかない」
「ですが!」
「あの〜」
菱はそっと手を上げた。
「煮たりも焼いたりもしたくないです。僕たち家に帰りたいだけなので…」
「そんなこと言われても…」
愛多賛は息を吐く。
「家って異世界でしょ?どうやったら」
「帰れるぞ」
魔王は玉座を横にずらした。
虹色に渦巻く扉が現れた。
「行きたい場所を思い浮かべてこの扉を潜るだけだ」
「えええええええええ!?」
「ま、魔王討伐はしなくてもいいんですか?」
「まぁ普通なら我を倒さないと玉座の後ろには行けないわけだが…」
魔王は牙を見せてニッと笑った。
「孫の望みを叶えないじぃじはいないだろ?」
「あ、ありがとうございます!」
「ただ一つ、ここを通す条件があるがな」
「え?」
まばたきを繰り返す菱に、魔王はにっこりとほほ笑んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます