幕間(仮終)
付与魔術師シリダスと神速令嬢デスーワのあれこれとは、違う時間、違う場所でのこと。
魔力満ちるダンジョンでは、地下でもそうとは思えない不思議な空間が現れたりする。
ここはそんなダンジョンの一画。森林地帯状の構造をした空間。
「各自散開! 誰か一人はモンスターの死角に回り込むように立ち回れ!」
「「へい兄貴!」」
ギルドマスター、剣士のケンシデスがギルドの仲間に指示を出し、モンスターと対峙する。
戦っている相手はC級ギルド案件相応の強さの、熊型モンスター。
「よっし今だ、やれ! 斧使いオーノー! 弓使いアチャー!」
「「へい兄貴!」」
ギルドの団員、斧使いオーノーと弓使いアチャーが指示を受けて的確に攻める。
安定した戦いぶりで、モンスターの撃破に成功した。
ケンシデスは噛みしめるように泣きながら、こぶしを握った。
「くぅーっ、このほどほどの緊張感……! 身の丈に合ったモンスターと戦ってる実感……!
これだよこれ、俺が本当にやりたかった冒険者稼業ってのは、こういうヤツだったんだよ……!
あと尻を出さなくていいっていいな!! 尻を出さなくていいっていいな!!」
「兄貴、楽しそうでオノねえ」
「S級ギルド相応のお仕事してたときは、口から心臓が飛び出るんじゃないかってくらいブルブルだったでアチャからねえ」
ケンシデスはオーバーリアクションぎみにしみじみとした。
「そうさ、これが俺の理想の冒険者生活……
そしてもうひとつ、ギルド再編の恩恵が……!」
そのケンシデスに、声がかかった。
「ケンシデスさーん! おケガはありませんか?
もしケガしてたら回復魔法をかけますので、見せてくださーい!」
「おうよーイヤシンスちゃーん! バッチリ無傷で健康だぜー!
でもせっかくイヤシンスちゃんがいるんだから、見てもらおーかなーアハハー!」
ケンシデスはうっきうきで振り向いて、かけられた声に返事をした。
声の主は、ゆるふわな雰囲気の女の子。
最近ギルドに加入した、癒し手のイヤシンスであった。
ケンシデスはうきうきの表情から一転、イヤシンスに背を向けてぐっと噛みしめるような表情になって、ぶわわっと涙を流した。
「くうーっ……! 俺のギルドに、初めての女の子の加入者が……!
そりゃそうだよ今まで女の子が入ってくれるわけなかったんだよ! だって俺ら尻を出してたからな!
戦闘中おもむろに尻を出しまくる男どもの集団で、あまつさえ入ったら自分も尻を出すのを要求されかねないギルドに入りたがる女の子なんて、いるわけないよなぁ……!」
「あのー、ケンシデスさん?」
様子が分からなくておずおずと声をかけてきたイヤシンスに、ケンシデスはまた向き直ってやたら明るく話しかけた。
「やーイヤシンスちゃんのおかげで成果は上々だし! 今日はそろそろ引き上げるとすっかなー!
イヤシンスちゃんの歓迎会を兼ねて、今日はパーっと飲み明かそうぜー!」
「いえっ、そんな悪いですよ!
今日のダンジョン攻略だって、みなさん無傷でモンスターに勝ってて、わたしほとんど何もしてなくて」
「いーんだよいーんだよ! 普段からサポーターに頼りきりの攻略じゃトラブルが起きたときに対処する余力がなくなっちまうんだから!
それに後ろに癒し手がいるって分かってるから、俺ら安心して戦えるってもんだぜ!」
ケンシデス、それに団員のオーノーやアチャーがしみじみとうなずいた。
「そう……! サポーターありきの戦いじゃ、万一サポートが切れたらと思うとゾッとして尻の穴が縮みあがっちまう……!
もうあんな怖い戦いはこりごり……! そうこれからは身の丈に合った攻略をモットーに! それが生まれ変わったこのギルドの基本方針!」
男たちはポーズを決めて、びしりと宣言した。
「それが俺たち『尻出しギルド』改め『身の程ギルド』なのだ!!」
「はあ……」
困惑する様子のイヤシンスに対して、ケンシデスたちは気さくに肩を叩いた。
「まあ要するに、イヤシンスちゃんが入ってくれて俺たちゃめちゃくちゃうれしいってことさ!
これからも頼むぜ、イヤシンスちゃん!」
「あ、はい! それはもう、こちらこそよろしくお願いします!」
わいわいと騒ぎながら、「身の程ギルド」の一行はダンジョンを後にした。
実に平和であった。
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(長編化保留中)最強付与魔術「尻を丸出しの間だけステータス100倍」使いの魔術師、恥ずかしいからという理由でギルドマスターからクビを言い渡される【残当】 雨蕗空何(あまぶき・くうか) @k_icker
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