泣き顔フレンズ
かずぺあ
泣き顔フレンズ
友達が、泣いていた時にするべき行動。
その一、慰める。
その二、そっとしとく。
その三、一緒に泣く。
その四、そもそも友達がいない。
その四は勝手に僕が付け足した。なんとなく観ていたテレビの中でそんな話をしていた。
僕は目を閉じた。もしも友達が泣いていたら、僕はどうすれば良かったのだろう。逆に僕が泣いていたら、友達はどうしてくれたのだろう。僕が泣いているときに、僕自身はどうして欲しいのだろう。
友達がいない人が泣いているとき、誰がどうしてくれるのだろう。
テレビから綺麗事の雑音が聞こえてくる。頭では解っていても、行動するのは大変なんだ。
僕には友達なんていないし、友達を作る資格もない。そんな僕が泣いていても、誰も気に掛けてくれない。たぶん親は味方になってくれるだろうけど、それも子供のうちだけだろうし、僕自身も中学生になってまでそんな心配されるような自分に、もっと惨めになってさらに泣けてくるだろう。
ずっと押し殺してきた気持ちが、僕の身体から出ようとしていた。僕は目を開けると、自分の頬を叩いた。続けてもう一回、より強い力で頬を叩いた。叩かれた頬はじんじんと痛かった。
次の日の放課後に僕は誰に言われた訳でもなく、ある場所に向かった。そこには、一人の男子生徒が数人の男子生徒に囲まれている。
「あれ?元親友くんじゃん」
その声を聞くと僕の体が拒否反応を起こしている。
「なんかよう?俺ら忙しいから」
高圧的な言葉に、僕の足が止まってしまう。
「それともお前もこいつに小遣い貰いに来たのか?元親友だしな、はははっ」
下品な笑い声に、僕は恐怖を感じてしまっていた。僕は言葉にならない声をなんとか出そうとするが、声が出ない。
「てか、マジでなんのよう?お前がこいつを裏切ったから俺らが親友になってやったんだろ?」
僕はこいつらにいじめられていた。きっかけはほんとに些細なことで、僕には理解できないことだった。そしてこいつらの気まぐれな提案を僕は受け入れ、苦しみから逃れるために親友を元親友にしてしまった。
「そうだ、カンドーの再会ってやつでこいつを殴れよ」
「おっいいね、泣くほどカンドーしちゃうんじゃん」
僕の元親友は体も小さく気が弱くて、よく僕の後ろをくっついてくるやつだった。小学生の頃、学校の帰り道に僕は野良犬に追いかけれて公園のジャングルジムに逃げたときがあった。とても恐かった。そのときに一本の棒切れを振り回して、泣きながら野良犬を追い払ってくれたのが元親友だった。
「なんで泣いてんだよ」
元親友は笑顔で泣いていた。そう言った僕も泣いていたのを思い出す。
「早く殴れよ」
僕はゆっくりと足を動かすと、殴れ殴れとまわりから煽られる。一歩ずつ元親友へと近づいていく。僕は元親友の目の前までいくと、元親友はうつむいていた。
「さぁ、やれよ」
合図のような声と同時に、元親友は顔をあげた。あの時と同じで、笑顔で泣いていた。
僕はおもいっきり殴った。初めて人を殴った。
「はっ?」
僕は元親友のそばにいたやつを、何回も殴った。
「てめぇ、何してんだよ!」
僕は、何回殴ったがわからないけど引き剥がされるまで一人を殴り続けた。そいつは鼻血をだしながら、泣いていた。僕も殴られた。何回も殴られた。
「はぁ、もう意味わかんねぇ、こんぐらいで許してやるよ」
そんな捨て台詞を吐いてあいつらは去っていった。僕は泥だらけになり、顔や腹を殴られぼろぼろになっていた。全部が痛くてどこが痛いのかわからないぐらいだ。
「ごめんね」
「謝るのは僕だよ、ごめん」
「なんで今日来てくれたの?」
「…誰かになりたかったからさ」
「誰かって?」
「それよりも明日からどうしようか」
「大丈夫な気がしてきた」
元親友は、笑顔で答えた。話していると口の中が鉄の味がする。うまく喋れない。
「そうかな」
「うん、親友が来てくれたから」
僕は身体中痛くてどこがどうなっているのかわからなかったが、唯一痛くない場所はわかっていた。
明日のこととか、これからのことはどうでも良くなっていた。それよりも今、親友と話せていることが僕にとって価値のあるものだった。
「その五は殴るだったか…」
僕が呟くと親友は不思議そうな顔をしていた。傷の痛みか緊張感が切れたのか、僕は涙が出てきた。
「大丈夫?」
「大丈夫そうにみえる?」
「ちょっと見えないかな」
僕達は似合わない状況に、二人して笑った。久しぶりに心から笑った気がした。
これから大人になって、今日のことを笑い話にできるような日が来たとき、そのときも僕達は二人して笑いながら泣き顔を見せているのかもと思った。
泣き顔フレンズ かずぺあ @kazupea748
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