異世界カニカマ成金物語
3ツ月 葵(ミツヅキ アオイ)
カニカマで村のヒーローになった俺の話
「まったく……ついてない」
太陽がサンサンと降り注ぐ晴天の海に向かい、僕は砂浜に座ってぼやいていた。
人生2回目、良いこと何も無し。
もう一度言う――僕の人生は今、2回目なのだ。
何の因果か僕は海で溺れ死に、気が付けば赤ん坊になっていた。
しかも異世界の……貧乏なこの村のとある夫婦の子供に。
「ロッコ~! ちょっと手伝ってくれ~!」
「は~い」
ちょっと離れた所にいた今世での父親に呼ばれ、僕はそっちに駆けていく。
さっき漁に出ていた船が帰ってきたところで荷下ろしをしている様だ。
砂浜に半分あげられた4艘の船の上には大きな網とこんもりとした魚の山があり、幾つかのトロ箱にその魚を移す作業をしている男たちが群がっていた。
「今日も雑魚ばかりですなぁ……」
「ここらの海じゃあ大きなイイ魚は獲れないからねぇ」
「そこそこの量がある割に、売ったとしても二束三文……」
「それでも金の足しにはなるからやらないわけにはいくまいて」
船に近付いていくと、ため息交じりにそんな会話をしているのが聞こえてきてこっちまで憂鬱になる。
だけども僕は十歳の子供らしく、雰囲気を明るくしようと無邪気を装って声を掛けてみたんだ。
「父さん、きたよ~。いつものように箱に入った魚をあっちの小屋に運べば良いの?」
「あぁ、頼む」
顔を見れば暗く、だいぶお疲れだなぁと見てとれた。
この国を治める王様が条件付きとはいえ、減税を許してくれているぐらい儲けのない村だった。
身を粉にして一年中、一日中働いても村の全世帯が貧乏なのが国中で有名らしい。
そりゃ疲労も溜まるだろうと僕は心の中でうなづいた。
とはいえ、このままだと僕が成人してもずっと貧乏で苦労するという未来。
何か手はないものかと近頃はよく考えるようになった。
「それにしても最大で小鯵のサイズか~。味としてはまぁまぁ美味しいのに、本当に小さい魚だな~」
箱いっぱいに盛られた魚を十歳の細腕で簡単に運べる重さを感じ、どうしたものかと悩む。
小屋では村の女衆が魚の内臓を取り除いたりして塩漬けを作る下準備をしていた。
「ロッコちゃん、あっちの端に置いてくれる?」
「うん。あそこだね」
クルクルとうねる髪を三角巾で包んだオバちゃんがニッコリと笑ってそう指示してきた。
オバちゃんやお姉さんらが忙しなく動く中、海とは逆側にある小屋の入り口から背の高いオジさんが入ってきた。
定期的にこの村に訪れる商人のアルリーゴだ。
「やぁ、こんにちは。今日はどんな調子かな?」
「こんにちは、アルリーゴさん。残念ながらというべきか、いつも通りですよ」
声を掛けられた村長夫人がお決まりの定型文を口にした。
ここ何年とこの二人は同じ会話をしているので耳にタコである。
「そうそう! 今日は面白いものを持ってきたのですが一つ、買ってみませんか?」
買える金なんてほぼ無いに等しいことは分かっていても、こうやって何かしらの役立ちそうな商品を仕入れると一応は聞いて来てくれる。
「まぁ買えるかどうかはさておき、一応見てみようかしらね~」
などと外に停めてある荷馬車へと数人が確認に行ったので僕もついていくことにした。
「どんなものがあるのかしらね~」
「ヨイショっと……。これなんですがね。最近、西の街がある方で売り出されるようになった『すり鉢』ってものなんですよ」
「これはどうやって使うものなんだい?」
「これは……この棒を使ってですね。中に食べ物を入れて、棒をこうグルグルと回して潰すことができる品物なんですよ」
「潰す? ならさ、今まで使っていた石製のあの臼があるじゃないか。なんだってそんな小さなのを……」
確かに村には年に一度、すぐそばの丘に黄色い花が一面に咲き乱れる春の時季にそんなのを使っているのを見たことがある。
あれは確か黄色の花を潰して蜜を集め、その蜜で甘い味のする酒を造っているのだとか。
かなり重くてデカく、重労働だったな~。
「いやいやいや。あれはデカいし重いしで使い勝手が悪いでしょ~? しかもかなり力がいるでしょう? でもこれは陶器製なので軽くて力を入れなくても潰せるんですよ。ほらここ、ギザギザでしょ?」
その商品説明を聞き、僕はオバちゃんらをかき分けて一番前に出た。
そこにあったのは――。
「あっ!!」
前世で見覚えのあるあの茶色い『すり鉢』の姿であった。
そこで僕はひらめく。
そうだ、これがあればあれが作れる……。
あれが作れれば貧乏脱出も夢ではないかもしれない。
「アルリーゴさん! それ、僕に売ってくれない?」
「えっ!? 坊主にか? しかし……金がないだろう?」
「それを使って一儲けする方法を思い付いたんだ! その儲けで払うから……。絶対に儲かる方法なんだ!」
何としてでも手に入れたい僕は大げさに吹っ掛けてみた。
「……本当に儲かるのか?」
「うん! 市場に出せるまでになったらアルリーゴさんに独占販売をお願いしてもいい! だから……ねっ?」
こんな田舎の村では十二歳にもなれば一応の成人を迎えるということもあり、目立って大人びていた僕に対してアルリーゴさんはけっこうちゃんと対応をしてくれた。
「う~ん……。まぁそれほど高い物じゃないしな。いいだろう! 坊主のその真剣な目に賭けて売ってやろうじゃないか!」
アルリーゴさんはニッと笑って僕の頭をワシワシと大きな手で撫でまくる。
「だが万が一儲からない場合でも、成人するまでには頑張って返せよ? 忘れるな」
「――分かった!」
後ろにいたオバちゃんたちは誰もがアルリーゴさんと僕のやり取りをみて小首をかしげていた。
その後、魚の塩漬けが入った壺を何個も荷馬車に積むとアルリーゴさんは小銭を村長夫人に渡して帰って行った。
「そんなもの、どうするってんだい?」
「僕、良いことを思い付いたんだ……。売れない雑魚で高く売れる物――蒲鉾に作りかえようと思うんだ!」
「カマ……ボコ? なんだいそりゃ??」
誰もが顔を見合わせてハテナと困惑する。
「この村、おもな産業は漁業だけど小さな雑魚しか取れないじゃん?」
「まぁ……ねぇ……」
「その魚をすりつぶして大きな魚に作りかえるんだ! 大きいとちゃんとした値段がついて売れるんでしょ?」
「そりゃあそうだけど……」
「その作りかえた大きな魚が蒲鉾っていう名前のものなんだ」
「はぁ……。なんだってまぁ、そんな変わったことを知っているんだい? どこで……」
「あっ! えっと……どうにかお金を稼げないかなって僕が考えたんだ! 『蒲鉾』って名前も……なんとなくだよ! なんとなく」
焦った僕は必死に取り繕う。
学校もないこの村で、大人も知らないような変わった事を知っているだなんて奇妙この上ないことだろう。
危ない、危ない……。
中身が実はそれなりのオッサンって事は誰も知らないのだからな。
「で、どうやろうってんだい?」
万年貧乏な状態を抜け出したいと誰もが思っているので細かい事はどうでもいいのか、気にする様子はない。
それよりはと好奇心旺盛にワラワラと女衆が僕のもとへと集まってきだし、それに気付いた男らも集まってきた。
「なにやってるんだ?」
「それがね――」
アルリーゴさんとのやり取りと僕の話をサラッと女らがこっちに集まってきた男たちに説明してくれた。
父さんはちょっと渋い顔をしていたが……見なかったことにしよう。
「ほぅ……。それが本当にできるならすごいことだな。確かに大きな魚ならちゃんとした値段で売れるから金にはなるしな」
割と好感触。
若者だけでみれば賛成多数といった感じで、僕がやろうとしていることを手伝ってくれると言ってもくれた。
しなければならない仕事の量というのがあまりなく、今日は殆どやることがないからってのもあったが。
「じゃあまず……材料とかいる道具を説明するよ」
蒲鉾を作る為にいるものと言えば――魚に、卵に、味醂、砂糖に塩……そんな所か。
道具はさっき買ったすり鉢、大きなボウル、布、板、それに蒸し器ってところかな。
手伝うと言ってくれた大人らに説明をすると該当するもの、同じ物が無ければ近しいものを持ってきてくれた。
味醂なんてこの世界にはないから黄色い花の蜜から作る花蜜酒を使うことにしたが……飲んだことはないがかなり甘いらしいので砂糖はいらないだろう。
砂糖も貴重品でこの村に在庫も無ければ買うことなんてほぼできないっていうし一石二鳥だ。
「これでいいかい?」
「ん――うん! これでたぶんイケる! ――はず」
ザックリとしか作り方を知らず、前世でも一度も作ったこともないのでここから先は試行錯誤だった。
僕が直接作業をするにはまだ危ないからと陣頭指揮をとるにとどまったが……。
大人たちにはまだ塩漬けにしていなかった魚をこちらに分けてもらって切り刻み、骨やら内臓やらを取り除いて魚の身だけをより分けてもらう。
「その魚をこの大きな器に入れて水で良く洗ってほしいんだ。皮とか、余計なものを極力取り除きたいからね」
「オッケー!」
ボウルが無かったので祭りの時に使う用の木製のどデカい深皿を使うことにした。
細かく叩いた魚の身を入れた後に水をなみなみと注いでかき混ぜて暫し待つ。
すると……取り残したウロコやら小骨が面白い様にプカプカと浮いてくるのでお玉ですくい取る。
「なんか面白い」
次に平らなザルの上に目の細かいキレイな布を敷き、底にザバッとさっきの魚の入った器を水ごとあける。
布でくるんでしっかりと水気を絞るのだが……。
「なんか布の目からちょっと出てくるんだが……これでいいのか?」
漁師しかいない村なんて男も女も力自慢の人だらけ。
なのでちょっと力を入れ過ぎて布が破れかかってしまったようだった。
「ま、まぁ……水気を切れてたら問題ないと思うし。どうせ潰すから大丈夫」
やり過ぎは御愛嬌ということで。
それからすり鉢に魚の身を移し、秤なんてないからだいたいの目算で3%ぐらいの塩を入れる。
足らなければ足せばいいし、少し少な目からスタート。
「それでね、このスリコギって棒でよーっく混ぜて潰すの」
「おうっ! じゃあ俺がやってやるよ!」
そう言って力こぶを見せて名乗りを上げたのは村一番の力自慢。
「おっ! ……おぉ! 確かにこりゃ……あの臼でやるよりかは全然楽だな。力がいらねぇ」
こんないかにも漁師って体格のムキムキマッチョからしてみれば力なんていらないだろうね。
僕がするならそれなりに力を入れなきゃできないと思うが……。
それはさておき、いい感じに粘りが出てきたので塩を更に少々加えてこねていく。
「何かめっちゃ粘ってるんだが……大丈夫か? これ……」
「大丈夫、大丈夫! じゃあいい感じになってきたから卵の白身と花蜜酒を入れて。混ぜながら少しずつね」
「あいよっ!」
非常食の意味合いも込め、この村では一家に最低二羽のニワトリを飼っているので遠慮なしに卵が使えたことはありがたい事だった。
「ちょっとドロドロ……っ! いや、さっきよりなんかツヤッとしてるというか、ほどよく柔らかい弾力がある感じにまとまってきた」
「そんな感じで良いと思う。あとは蒸すだけなんだけど……」
「『ムス』って?」
「えーっとね、お湯を沸かした時に出る湯気で火を通すんだけど……」
この国には『蒸す』という調理法が存在せず、今日は緊急で始めたお試しなので手ごろな道具がない。
「このザルと……深くて大きな鍋でやってみるか……」
なければないでどうにかなるもので――。
浅く水を入れた鍋の中に小さな器を置いて台座にし、その上にザルを乗せて蒸し器とすることにした。
「これでね、直接水が食べ物に当たらない様にして火を通す方法なんだ。栄養は流れないし焼いたり茹でたりすると形の崩れるようなのとかにも便利――だと思うよ」
ちょいちょい今思い付いた事ですみたいに言い換えるのもちょっと大変だ。
「でね、板が必要なんだけど……」
「これかい?」
「これは――本当に食べ物を乗せても大丈夫?」
「熱に強くて、匂いの殆どしない板っ切れだろ?」
目の前に差し出されたのはシマウマの様な模様をした、毒でもあるんじゃないかとなんとも心配になってくる見た目の木切れだった。
まぁ大丈夫というからには大丈夫なのだろう。
「これ、半分にできる? 鍋に幾つか並べれるぐらいの大きさが良いんだ」
「よっと! これでいいかい?」
まるで板チョコでも割る様に手でパキッと簡単に割ってみせたそれにはギョッとした。
「すごっ!」
「いやいや、この木は簡単に割れる木なんだよ。でも繊維に逆らって力を入れた場合にはビクともしないから、かなり丈夫でけっこう使えるんだ」
「へ~ぇ」
ちょっと驚きつつも僕はその板の上に魚のすり身を乗せ、あのいわゆる『蒲鉾』って形を作っていく。
「こういう、感じでね。作ってみてくれる? 手を濡らしてやるとやり易いから」
まるで粘土細工でもしているかのごとく、数人の大人がコネコネと蒲鉾を形作る。
自分がやったのも含め、初めてにしてはいい感じだ。
「それでこの板に塗りたくったやつをザルの上に乗せてフタをし……しばし待つ」
僕がここまで蒲鉾作りを進めている間にカマドでは、火起こしから湯が沸かせるまで整えてもらえていた。
「どれぐらい?」
「どれぐらいだろう。火が通ればいいだけだし……ゆで卵を作るぐらいの時間かな?」
「分かった」
出来上がりを待ってる間に片付けと冷たい水を用意。
なぜだか知らないが蒸しあがった後に冷水にさらすのが必要らしい。
ここには氷はないので村民がいつも飲み水につかっている湧水で。
春夏秋冬、いつでもけっこう冷たいし。
「そろそろ……かな?」
「だねっ。フタ、開けるよ」
開けるとムワンっと湯気が立ち上り、その中からうやうやしくも現れる蒲鉾ちゃん。
直接触ると火傷しそうな熱さなので、ザルの上に敷いておいた布ごと包むようにして鍋の外へと出して冷水へイン。
三分ぐらい経った頃合いをみて――。
「もういいかな?」
すっかりと冷めた蒲鉾を取り出して横にいたお姉さんに一口大に切ってもらう。
それを制作メンバー全員が手に持ち――。
「せーのっ!」
と、パクリ。
誰も何も喋ろうとしないが、キラキラとした目が口ほどにものをいっていた。
しばし味わってから呑み込んだ後、まるで雛鳥のように一斉に口が開く。
「なにこれ、なにこれ?」
「うまい!」
「今まで食べたことのない食感……不思議~」
といったイイ感じの反応ではあったが僕はがっくりと肩を落とす。
「まぁ……こんなもんか。食べ慣れていた蒲鉾とは風味もちょっと違うけど材料も違うし、及第点ってところかな。悪くはないし」
蒲鉾に感動していた若者らは否定的だった年寄り連中へ試食用に切った蒲鉾を持って回っていた。
「ねっ? 美味しいでしょ?」
出来上がったものを試食して「こういうものなのか」と理解を示してくれるが「でもな~」とそれほど乗り気になってはくれない。
この世界で初めての蒲鉾だし仕方ないだろうなと思うしかない。
味もなんとなく分かり、作り方も分かったところで村の中で唯一ノリノリである若者らが週末に隣町で開かれる市にでてみないかと話を進めていた。
「これはイケると思うんだよ!」
「私も! これは売れに売れると思うわ!」
そんな感じで僕のことを置いておいてさっさと進んでいくものだから困る。
「僕が言い出してやり始めた事なんだから市にも僕、参加するよ!」
「親父さんが良いって言ったらいいぞ」
「それぐらい分かってるよ。了解ぐらいちゃんと取ってから行くさ」
こうして週末までの三日間、幾度も材料の配分を変えたりと試行錯誤を繰り返して更にいいものを作り上げて仕上げた。
「今日獲れた雑魚、なんとか全部カマボコ用に譲ってもらって大量生産できた! いくぞ!」
「オー!」
――と、朝に意気揚々と僕と若者たちの集団が村から出たはいいものの……。
「なんでだ……」
「あのオバさんなんて怪訝な顔をして通り過ぎていったわよね」
「画期的すぎて、まだ早かったんだ」
「時代がね。時代が早かったんだよ」
何て口々に言いながら帰り道をトボトボと帰っていく。
うん、さすがにここまでとは思っても見なかった。
皆で一生懸命にピーアールしてみたが商品を見て眉を顰める人の多いこと、多いこと……。
はては「これ、石鹸?」って尋ねてくる人も。
「美味いのになぁ……これ」
「見慣れないと魚とは思えない見た目だし、難しいのかな?」
しかし失敗は成功の母ともいう。
僕は諦めない――諦めるわけにはいかないのだ、すり鉢代の借金があるし。
ということで市も終わりに近付いてきたころ、僕は今回は売ることを諦めて市場マーケティングにのりだしていたのだった。
滅多と来れない街で開かれる市ということで、お姉さんたちが見て回るのについて行った。
まだ子供の僕には一人行動は許されず、いきなり話しかけても警戒されるだけなので市で買い物をする客や商人の話に耳をそばだてるぐらいしかないのだが……。
「貴族の間ではカニが大流行りらしいなぁ」
「オレもいっぺんでいいから食べてみたいものだ」
「あそこの大店の商人さん、カニを食べたらしいですよ」
「あんな高い物を買うお金があるだなんて……羨ましいことねぇ」
「カニなんて貴族と大金持ちの一部の商人ぐらいしか食べられない、憧れの食べ物」
――と。
なるほど……今カニがブームなのか。
「つまりは需要がある、と……ならばっ!!」
僕はそこでひらめき、路線を少し変えてカニカマを作ろうと決意した。
だがあれは結構難しいと聞いたことがある……できるだろうか。
不安を覚えつつもレッツトライ。
村に帰りつけば年寄りたちは荷車をこぞってのぞきにくる。
そして「ほれ見たことか」と言って去って行くのだった。
「ねぇ、そんなに暗い顔をしないで」
「でも……」
どうにか元気付けようとしたがダメそうなのでここで
「僕ね、街を歩いている時に色々と聞いちゃったんだ……」
「――なにを?」
「今、偉い人の間ではカニがブームなんだってね」
「それが……どうした?」
「だからね、えっと……蒲鉾でカニを再現して売ってみたらどうかと思うんだ。偽物だけどカニって事で売れないかな? 絶対に需要はあると思うんだ!」
「カマボコでカニ……だって?」
「そう! 題して『カニカマ大作戦』!」
目をパチクリとさせて僕を見つめ、笑いだす。
「いや、カニって見たことないが無理だろ? カマボコでカニだぜ? どうやれっていうんだよ」
「できる! できるよ!!」
僕は何とかさせたいと思って必死に説得をする。
もう一度チャンスをくれと……。
「まぁ……もう一度だけなら」
「うん。いい……かな」
少しやる気を取り戻した若者らにちょっと涙ぐんだ。
それでもやる気が戻らなかった数人は離脱したが仕方がない。
ってことで今度は二週間後に開かれる大市に向けて試行錯誤の開始だ。
限られた道具を使って作るしかないので取れる手段は少ない。
だから薄く板状な蒲鉾を作り、一度蒸したものを蕎麦のように細く切った後にそれを薄い板状の加熱前の蒲鉾に乗せて巻き、再度蒸すという方法をとることになった。
手間はかかるが作ってみる回数が増えていくと何とか形になってくるものだ。
「あとはカニっぽい風味とカニっぽい色合いがほしいところだね」
「それは……難しくないか?」
う~んと頭をひねり、出てきた答えはこれだ。
「身が食べれるほどの大きさではないけど味が良いからって、よく汁物に入れるやたらと赤い小さなエビが獲れるじゃん。あれ、使おうよ!」
満場一致で即決。
早速そのエビを使って再度のレッツトライ。
「おっ! いいんじゃないか? ……食べたことないけど」
「うん、いいと思う! ……カニなんて知らないけど」
僕もいい感じにカニカマ再現できてると思ったのでそれで決まった。
決戦は二日後、まってろよ。
ってことでついに来た大市です。
泣いても笑ってもこれが最後のチャンス。
「今度こそ、完売目指すぞー!」
「オー!!」
威勢があって良いですなぁとそれを眺める。
「いらっしゃいませー! どうですか? ちょっと味をみてみてください。お試しにお金はいりませんから」
今回は前回になかった試食を取り入れてみた。
準備期間が前回よりあったのと大漁だったので量が用意できたからってこともある。
「あら、おいしいわね。これは何?」
「これ、カニカマっていうんですよ」
「カニ……カマ?」
「魚で作ったカニもどきって感じで……。本物のカニは高くて食べれないのでカニっぽいもので気分だけでも満足してみようって食べ物です」
「へ~ぇ。ちょっと面白いわね」
今回は前回とは違ってなかなかに客の食いつきが良い。
「おっ! いい感じじゃないか」
僕もワクワクとしながらカニカマ売りに精を出す。
「美味しいよ! 一度食べたらまた欲しくなる美味しさだよ! 買って買って」
ここはあざとく子供らしさ満開にする時なのだ。
「まぁかわいらしい売り子さん。ボクちゃんが勧めるなら買って行こうかしらねぇ」
まいどありっ。
こんな感じに好調に売れていくもので――大市の時間を半分残した辺りで完売。
「――うそっ……」
「マジかよ……」
一緒に売り子をしていた若者らも信じられないといった様子だ。
僕だって信じられなかった。
前回との差――ここまでも、かと……。
やっぱりマーケティングってだいじだねぇ。
こうして早々と僕らの出した店は片付けをしてしまい、グルリと大市を楽しんだ後は鼻高々に村へと帰還した。
「ただいまー!!」
前回とは違ってとても上機嫌でハリのある大きな声だったことでワラワラとむらのあちこちにいた年寄りたちが集まりだす。
「どうだったんだ?」
様子から察していたが一応確認をって感じで尋ねてみていた。
答えを聞く直前に緊張からかゴクリと唾を呑んでいた様子が見えた。
「なんと――なんとっ! 完売しました! しかもかなりの高評価!!」
「えっ! えぇぇえぇぇぇぇ!?」
「本当に?」
「まぁ、この荷車の中を見てくれよ」
そう言われてオバちゃんがのぞき込んできたが見事に中はカラ。
村長まで来たところでやっとお披露目といった雰囲気を醸し出し、神々しく膨らむ革袋を開いて見せる。
「ほらっ! これを見て!!」
集まってきた全村民に見せられたのは銀貨と銅貨がギッシリと詰められて見るからに重たそうなそれ。
「これは……」
「ほぉ……」
「わし、銀貨なんて生まれて初めて見た」
何とも眩いその光景に、目が点になって固まっている人までいたのだった。
僕はホクホクと喜び、笑顔で父さんに報告をすると突然潰さんばかりに強く抱きしめてきた。
「お前は……お前はいつか大きなことを成し遂げると思っていた……」
なんて泣きながら言いだすものだから、嬉しいやらなんやらでちょっとむずがゆくなってしまって茶化してしまう。
「えぇー? なんか不安そうな顔をしてたクセに~」
「そりゃ親だもんさ~。まだ成人してもいない子供が借金作りましたって聞けば不安にもなるさ……。でも……良かったな――うん」
なんだか照れ恥ずかしい……。
とはいえ、大成功を収めたのだから胸を張らなければ――。
その晩は喜び勇んだ村人らで大宴会を開いて大いに盛り上がった。
翌日からはこの村は心機一転。
そうしてこれ以降は村人総出でカニカマを作り、約束通りアルリーゴさんに独占的に販売を任せてウィンウィンの関係で大いに儲かるようになったのだった。
儲かり過ぎて減税ではなくなったが、税金を払っても豊かに暮らしていけるぐらいにまで儲かるようになったので何も問題は無い。
あっ、もちろん最初にカニカマを売った大市の時の儲けからすぐにすり鉢の代金を払い、借金返済はすぐに終わりましたよ。
異世界カニカマ成金物語 3ツ月 葵(ミツヅキ アオイ) @blue_rose_888
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます