第61話


「はぁ……はぁ……私は何をしてたのかしら」


「さあ? 俺も何をしてたのか分からないです」


 やっていたことは畳の上でごろごろと取っ組み合いの喧嘩、じゃれあい。高校生にもなって、本当に何をしているんだろう、という意味でわからないことにしておく。


「で、俺は一体何をすればいんです? 恩返しが今日の用件ですよね?」


「そうよ。早く恩返ししなさい」


「だから何すればいいんですって?」


「……そうね。手始めに私を楽しませなさい」


「貴族ですか?」


「似たようなもんじゃない?」


「まあそれはそうですけど、あまりそういうことは言わないほうがいいんじゃないですか?」


「クソガキの貴方にしか言わないわよ」


「特別扱いしないでください」


「し、してないわよ! 本当、嫌な言い方するわね! はやく私を楽しませなさい!!」


 また怒って第二ラウンドが始まりかねなかったので、俺は渋々楽しませることにする。


 ポケットからスマホを取り出し、何かちょうどいい娯楽ないかなぁ、と探してみる。


「あ、これとかどうです?」


「何よ?」


「心理テストです」


「心理テストぉ〜?」


「はい。質問に答えると、自分がどういう性格か、だったり、どういうタイプかとかがわかるんですよ」


「そんなの何が楽しいのかしら? 自分のことは自分が一番知ってるでしょうに。ま、やってはみるけど」


 やってはみるんだ。


 引っかかるところはあったが、俺は適当な記事のページに飛んで問題を出してはみる。


「夏といえば、何? 1.海 2.風鈴 3.かき氷 4.盆」


「海ね」


 即答した姫華さんに俺は答える。


「この質問は、貴方が求めるものを表しています。海を選んだ貴方は、恋人との触れ合いを求めているでしょう。海は一年を通して海であるのに、わざわざ夏の象徴として選ぶ貴方は、きっと男女のイチャイチャが目当てに違いありません。肌を見るときはまた、見られているということに注意しましょう(笑)」


「っ!? なわけ無いでしょ! 貴方、殺すわ!」


「いや俺は読んでるだけですって」


「見せなさい!」


 本当に読んでいるだけなので、姫華さんに見せる。


「本当だわ……。(笑)まで丁寧に書いてある」


「言ったじゃないですか。大体こういうものなんて、ないこと言われて恥ずかしい思いをするのが面白いものなんですよ」


「ないこと……そうよね! ないに決まってるわ! 全く、この私がイチャイチャを求めてるなんてどうかしてるわ!」


「なんか可哀想ですね」


「私を憐れまないでくれるかしら?」


 もちろん、その歳でイチャイチャした経験が少なくて満ち足りていないのは、それを必死でごまかす姿は、なんか可哀想っていうのはある。


 でも。


「違いますよ。姫華さんとイチャイチャしたい人ならたくさんいるでしょうから、その人達が可哀想だなってことです」


「ええっ!? そ、そうかしら?」


「はい。姫華さんは見た目だけでいえば、弓道部主将のような黒髪美人。イチャイチャしたい男はごまんといますよ」


「弓道部主将ってのは気に食わないけれど、ふ、ふーん。あ、貴方もそう思ってるってことかしら?」


「いえ、俺は全くなんで安心してください」


「……あっそう! 良かったわ! 貴方みたいなガキに発情されたらたまったもんじゃないもの!」


「あっそう! って、もう死語ですよ。歳を感じるんでやめたほうがいいです」


「うるさいわね! 早く、次の問題を出しなさい! 私という人間がいかに優れた内面をしてるか教えて上げるわ!」


 はいはい、と流して、別の問題を出す。


「可愛い猫が部屋にはいます、どこに? 1.こたつの中 2.ケージ 3.キッチン 4.膝の上」


「こたつの中よ」


「こたつの中を選んだ貴方は恋に臆病なようです。あれこれ言って壁を張ってその中で安寧を得ていても何にもなりません。勇気を出しましょう。さもないと、壁の中に入ってきたヤリチンに骨抜きにされてしまいますよ」


「ふざけないでくれるかしら! 次!」


「バナナを食べようとしている貴方。色は? 1,緑 2.緑がかった黄色 3.黄色 4.斑点が出てる黄色」


「黄色!」


「この質問は、好意を寄せている異性との相性をどう感じてるかがわかります。黄色を選んだ貴方は、きっとその異性と自分の相性が抜群だと感じています。貴方の運命の人かもしれませんね」


「次!!」


「貴方を動物に例えるなら、何? 1.シマウマ 2.ライオン 3.ウサギ 4.ゴリラ」


「ライオンよ、ライオン!」


「ライオンを選んだ貴方は、男に尽くすタイプ。狩りに育児に忙しい雌ライオンは、のんきに寝ているオスライオンにもしっかり尽くします。結ばれたら好き好きになって尽くし過ぎちゃうかもしれないので、要注意!」


「何なのよ一体!? 次!!」


「貴方を魚に例えると、マグロ?」


「違う!」


「貴方を魚卵に例えると、数の子?」


「そう! じゃなくてそれは何よ!? 選択肢はどこ行った!? 何の心理テストよ!?」


「解答欄がないから俺もわかりません。ただ、終わってるなぁ、って思いました」


「じゃあ出さないでくれるかしら! というか、どうして恋愛系のものばっかなのよ! 何てサイトなの!?」


「合コンで盛り上がる心理テストってやつです」


「合コンで盛り上がるやつを、同級生のお母さん相手にするんじゃないわよ!!」


 姫華さんの叫びは至極当然だった。






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ギャルゲー世界にニューゲームしたら、ヒロイン全員攻略された記憶があって修羅場です…… ひつじ @kitatu

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