第24話 また君と、一緒に
「お兄ちゃん、楽しかったですの~! また一緒にぎゅー遊びましょう、大好きなゆずお兄ちゃん! えへへ、次もぜひお姉ちゃんと一緒に、祐希がいる時に来てください! ゆずお兄ちゃん大好きなので、また一緒に遊びたいです!」
「うぐぐ……またね、ゆず君! 私の料理美味しかったら私一人だけの時に来ていいからね、来て欲しいからね! 祐希が居なくても、私に会いに来てくれていいんだよ!!! ていうか私に会いに来て! 七瀬ちゃんに会うために、私の家来て!」
「あはは、ありがと、二人とも。またお邪魔するね」
少し秋風の冷たい夕暮れ時、七瀬姉妹に送り出された俺はそう言って笑顔を返す。
あの後、「大好きです!」って甘えてくる祐希ちゃんをたっぷり甘やかして、頑張ったご褒美をあげた。頭撫でてあげたり、ほっぺもにゅもにゅしてあげたり、ぎゅーって抱きしめてあげたり……とにかく、祐希ちゃんがして欲しいことは全部してあげた。
こんなのでご褒美になるかはわかんないけど、祐希ちゃんがいっぱい喜んでくれたので良かったです、俺嬉しい! 祐希ちゃんが喜んでくれて嬉しい!
そしてその後に、むすーっとどこか怒ったような雰囲気の七瀬ちゃんから、七瀬ちゃんポイントのご褒美をいただいて。
今回のご褒美はガトーショコラだった。甘くて美味しくて、それで……ふふふっ、今回のご褒美も最高だったよ、七瀬ちゃん!
本当に美味しかったよ、ありがと……姉ちゃんが残業で遅くなるって言わなければ、夜ご飯も一緒に食べたかったな。まだ一緒に色々したかったな。
「う~、祐希も一緒が良かったですわ……祐希もゆずお兄ちゃんと夜ご飯まで一緒に居たかったですわ……だって大好きなお兄ちゃんに甘えるの、祐希大好きですから! お兄ちゃんにああやってしてもらうの、大好きですから! だから絶対、また会いたいのです、またお家来てくださいなのです!」
「えへへ、ゆず君……ふひひ、またご飯作ってあげるね! いっぱい作ってあげるから、絶対家来てよ、絶対だよ!!! 絶対私のご飯食べに、お家また来てね!!!」
「うんうん、了解! それじゃ、俺も料理しなきゃだから! じゃあね、二人とも! バイバイ!!!」
『バーイバーイ!!!』
俺に諸手をあげて、幸せそうな笑顔で手を振ってくれる七瀬姉妹に、今度も大きく両手で手を振り、帰路につく。
「ふー、さむっ……はよ帰ろ、姉ちゃんが腹空かせて帰ってくる」
早く帰って姉ちゃんに料理を作ってあげよう、今日は美味しい混ぜご飯でも……ふふふっ、姉ちゃん喜んでくれるといいな!!!
~~~
「お姉ちゃんがもどったど~!!!」
「お帰り、姉ちゃん。なんか遅かったね、思ったより。ご飯できてるよ……ってお酒飲んできてる、もしかして? 車で行ったよね、今日!? 飲酒運転?」
「んにゃ、電車で帰ってきた、今日は! なんか仕事中に~、山ちゃん先生から誘われたから仕方なく! 仕方なく飲んじゃったから、今日は電車で帰ったよ!!!」
「教師の風上にも置けねえな……ていうか明日どうやって通勤するんだよ」
「う~ん、頑張る! お姉ちゃんは最強だからね! ふんすふんす! だからちゅーしよ、ゆず! ゆず、お姉ちゃんといっぱいちゅーしよ、ちゅー!!!」
「ふんすふんすじゃないよ、もう……ハァ」
ホントこの姉ちゃんはマジでダメダメだなぁ。
お酒さえ飲まなければ、普通に良い人見つかりそうなのに……でも姉ちゃんがいなくなるの、それはそれで寂しいかも。
……あ、寂しいと言えば、一昨日昨日と、この時間に送られてきていた美鈴からの自撮り、今日は来てないな。
エロ垢とか作ってしまいそうで怖いから、って言われて送る約束になったちょっぴり過激な自撮り……それが来ないのちょっと寂しいし、少し心配。
あの時、美鈴も一気に委員長モードに戻っちゃってたから心配、美鈴が美鈴を失ってるんじゃないかって、心配になる。
美鈴が自分の事……美鈴がやっぱり……
「う~、ゆじゅ! ちゅ~! ちゅ~するのら、ゆじゅ!!! お姉ちゃんはちゅーがしたいの、いっぱいいっぱいちゅーしたいの! ゆず、ちゅ~! お姉ちゃんに黙ってちゅ~されなさい! ゆ~ず!!!」
「美鈴、やっぱり……って、姉ちゃん! しっかりしろ、教師だろ!!! 姉だろ! そんなんじゃダメでしょ、姉ちゃん!!!」
「う~、ケチ! ゆずのケチ、お姉ちゃんが甘えたらいけない法律なんてないもん! だからちゅーするもん、ゆずに! ゆずとちゅーするもん!!!」
……前言撤回!
やっぱり姉ちゃんが居なくなっても寂しくないかも……寂しいけど、めんどくさくなくなるの感情の方が勝つ気がする!
それと、その……美鈴は心配です! 委員長じゃなくて、元気でえっちな美鈴も見せてよね、俺に! 見せるのは俺だけにして欲しいけど!!!
☆
「……ハァ」
お昼休みのざわざわした教室の中で、俺は小さくため息をつく。
「ん~? どうしたの、ゆず? なんか食べられないものでも入ってたの? ボクが食べてあげようか?」
そんな俺を、前に座ってもくもくとご飯を食べていた朱里が心配そうに見つめてくる。今日も相変わらず顔が整っておきれいな事。
「いや、大丈夫、俺が作ってるんだから食べられないものなんて入れないよ」
強いて言えば、今朝姉ちゃんが二日酔いでせっかく作った朝ごはんほとんど手をつけずにお仕事に言ったのは少し腹が立ったけど。
そんなのは日常茶飯事だし、別にそれには怒ってない。
「それじゃ何? なんか悩み事でもあるの、ゆず? 大丈夫ですか、ゆず? どれどれ、親友の朱里君と、まーちゃんが悩みに乗ってあげましょうか?」
「ほえ~、ゆず君を心配する朱里きゅん尊い、しゅき……ってえぇ!? わ、私も!? 私もその尊い空間にご一緒して良いのですか!?」
「え、尊いとかわかんないけど……まあ、まーちゃんとゆず付き合い長いし? だから何かわかるかな~、って」
「にゃ、にゃるほど……それならご一緒いたします! ゆず君、何か悩み事があるのでしょうか? どんな悩み事があるのでしょうか、ゆず君!!!」
「ちょっと近いって、距離感ヤバいよまーちゃん……別に悩んでるわけじゃない、ちょっと溜息出ただけ。たまにあるでしょ、そういう時? なんか自然にため息が洩れる事、二人にもあるでしょ?」
なんかゆーみんの歌詞みたいになったけど、自然にため息が洩れる事ってあるよね……まあ、さっきのため息は、自然のものじゃないんだけど。
全然自然じゃなくて、普通に悩んでることあります、二人には言えないことだけど。二人に言っても、信じて貰えないことだけど。
で、それはもちろん、美鈴の事だ。
美鈴が心配で、ちょっと不安で。それで、我慢できなくなりそうなことだ。
今日は金曜日、もう週末。
月曜日に美鈴が委員長モードになったけど、そろそろ復活して、可愛くてえっちな美鈴に戻る……なんてことはなくて、美鈴はずーっと、委員長のままで。
学校でも、お外でも委員長のままで、送ってくると言っていた過激自撮りも、この1週間何も送ってこず……だからやっぱり、心配になってるし、俺の我慢もきかなくなってくる。
月曜日はあんだけ話しかけてくれたんだ、学校で俺と関わる気がない、ってのは違う気がする。俺だって美鈴を我慢できないように、美鈴も俺に見られるのを我慢できない……そう言う風になっていてもおかしくないはず。
俺だって今、ちょっと美鈴欠乏症になってしんどくて……というより、月曜日の時点でそんな事を言ってたし! 我慢できないって言ってたし、俺と同じで!
「あ、あの委員長! これ体育祭の!」
「あ、ありがと。でもちょっと、遅かったんじゃない?」
「あ、その……ご、ごめんなさい!!!」
でも、今は完全に委員長だ。
月曜日のあの時からずっと委員長、何も変わらないいつもの委員長。
あの日から一度も美鈴を見ていない。美鈴のあの元気な声も、あの幸せそうな表情も、えっちな恍惚の表情も……
「……お~い、ゆず! ゆ~ず! 聞いてるの、ゆず!!!」
「ゆず君? ゆず君?」
「……うわ、顔近い……って、ごめん。何も聞いてなかった、ごめん」
そんな風に美鈴の事を考えていると、眼前数センチの位置にむー、と顔を膨らませた朱里とまーちゃんの顔。
あ、そうだこの二人と話してたんだごめんごめん!
めっちゃボー、っと美鈴の事考えてて、本当に何も話聞いてなかった、ごめんね二人とも! でも大丈夫だよ、その……二人に言える範囲では、俺もすごく健康だから、大丈夫だから!
「も~、ゆずはそう言うところあるからね! でも大丈夫なら良かった、ただのため息なら! ね、まーちゃん?」
「うん、そうだね! ゆず君が何もないなら、私も嬉しいよ……主に、朱里きゅんとのカップリングが見れるからですが……うひひ、でも本心からも嬉しいよ」
「アハハ、二人ともありがと。それじゃ俺はちょっと、トイレ行ってくるね。ちょっとミートボールのソース、取ってくる」
心配してくれている二人にそう言って、俺はトイレに向かう。
まあ、本当に個人の問題だし、美鈴との話は。人に簡単に言ってはいけないことだと思うし。
そもそも美鈴とは学校では関わらないつもりだったし、それに……あいたっ!?
「な、何……か、紙飛行機?」
突然後頭部にふわっ、と柔らかい衝撃が走る。
誰かに殴られた? そう思って周りをキョロキョロすると、見つかったのは一機の紙飛行機。
丁寧におられたルーズリーフで作られたキレイな紙飛行機には、『柚希へ』とのメッセージが首についていて……
「!?」
……この学校で俺の事を柚希、と呼ぶ人間は一人しかいない。
柚希って俺の名前を呼ぶのは、俺の今一番会いたい……!!!
「……!」
急いでその紙飛行機を元のルーズリーフの状態に戻し、中身を読む。
開けると、一番最初の行にキレイな「美鈴」という文字が……!
「美鈴! 美鈴だ、美鈴からだ……って、ここ廊下。興奮ダメ、絶対!」
予想通りの名前に思わず噴出した興奮を抑えながら、その紙飛行機の手紙を読み進める。
「ふむふむ……ほうほう!!!」
手紙の内容は簡素で、投げやりな感じで……でも、それでも美鈴が俺にメッセージをくれたという事実が嬉しくて、そして……
「明日の11時、また美鈴の家……ふふっ、楽しみだよ、美鈴!」
明日もまた、家にお呼ばれしたのが嬉しすぎる!
先週に引き続き、今日も……やった、嬉しいな! 美鈴とまた会えるの、すっごく嬉しい!!! 週末、また二人きりで美鈴を感じられるの、すごく嬉しい!
また週末に俺と美鈴になれるなんて……でも、普通に言ってくれればよかったんだよ、美鈴?
~~~
「ふ~……ふ~」
―届いたかな、紙飛行機? 私の力作、柚希に届いたかな?
―普通に渡しても良かったんだけど、でも学校では関われないから。学校では「委員長」と「手塚君」で居なきゃだから……そうしないとお父さんにまた、失望されるから。失望されて、家追い出されて……あんな経験、もうしたくないから。
―だから手紙で渡すよ、柚希……美鈴はまた、柚希に見てもらいたくなったから。また柚希と一緒に、いたくなったから。
★★★
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https://kakuyomu.jp/works/16817330652455888044
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