第23話 ゆずお兄ちゃん、大好きです
「祐希、ゆずお兄ちゃんが本当のお兄ちゃんになるいい方法知ってるです。ゆずお兄ちゃんと、お姉ちゃんが結婚すれば、万事解決なのです」
「……ん!?」
放課後の七瀬ちゃん家、今日は習い事を頑張った祐希ちゃんの事を全力で褒めて甘やかしてあげよう、なんて思ってた日。
こっそり俺の膝の上に乗った祐希ちゃんが、お腹に頭をすりすりしながら、甘えた声でそう言ってきて……ん? んん?
「ん? け、結婚? な、七瀬ちゃんと俺が?」
「はい、結婚すればいいと思うです。だって、ゆずお兄ちゃんとお姉ちゃんは仲がいいですし、祐希とゆずお兄ちゃんも仲良しですから。だから、お姉ちゃんとお兄ちゃんが結婚すればみんな仲良しではっぴーになれると思うです」
「え、えっと……えぇ」
「はっぴーじゃないですか、お兄ちゃん? 祐希は、ゆずお兄ちゃんと一緒に居れて、はっぴーになれます。ゆずお兄ちゃんが、祐希のお兄ちゃんになってくれれば、祐希はすっごくはっぴーです。ゆずお兄ちゃんと一緒なら祐希もお姉ちゃんもいっぱいはっぴーです……ゆずお兄ちゃんは、はっぴーじゃないですか?」
「いや、えっと、その……あはは」
どうしよう、困ったなぁ。
祐希ちゃんの目はすごく純粋で、穢れてなくて。
ただ純粋に俺と一緒に居たい、俺に本当のお兄ちゃんなってほしい―そんな感情しか、その目からは見えてこなくて。
今もちょこんと可愛く乗った俺の膝の上で、俺の事をうるうる可愛い上目づかいで見上げてるし。
純粋で、子供らしい感覚で、ぎゅーっと腰を掴みながら見上げてるし。
「ダメですか、お兄ちゃん? ゆずお兄ちゃんは、祐希の本当のお兄ちゃんになりたくなすか、はっぴーじゃないですか?」
「いや、それはその……祐希ちゃんのお兄ちゃんなら、なりたいかもね。それは確かに、大歓迎だし、姉ちゃんも喜んでくれるかも」
「繭お姉さまも……! えへへ、それならゆずお兄ちゃんは、お姉ちゃんと結婚するですか? お姉ちゃんと結婚して、祐希のお兄ちゃんになってくれますか?」
「いや、それとこれとは話が別って言うか……七瀬ちゃんと俺はそう言う関係じゃないしね。だからそう言うのじゃないよ、祐希ちゃん」
そうだ、俺と七瀬ちゃんはそう言う関係じゃないし、多分今後もそう言う関係になることは無い。
小学校の時から一緒で、家族みたいな関係で。これまでそう言う目で見たことあんまりないし、七瀬ちゃんも多分そんな感じだと思うし。
家族みたいになっちゃった以上、それ以上の関係に発展することは望めないんだよ……それに、俺は今好きな人、というか夢中になってる人がいるし。
今は美鈴に、夢中になってるし。
美鈴の事、好きになって夢中になってるから。
だから、その……七瀬ちゃんとそう言う関係にはなれないな、俺絶対。美鈴に夢中な今、もしそう言う気持ちがあっても七瀬ちゃんとはなれないかな。
そんな事をオブラートに包みながら伝えると、祐希ちゃんは大きなくりくりした目をキョトンとさらに大きくして、ん~と首を傾けながら、
「ん~、お兄ちゃん? よくわかんないのですが、祐希の本当のお兄ちゃんにはなってくれないのですか? 祐希は、あくまでお姉ちゃんの妹で、お兄ちゃんの妹にはなれないですか?」
「どこで学んだの、そんな言い方……大丈夫だよ、祐希ちゃんの事も本当の妹だと思ってるよ。祐希ちゃんも、俺の妹だと思ってる……本物かどうかは別としてね。祐希ちゃんの事は、大好きな妹だと思ってるよ」
「ん~? んんん~? よくわかんないですの、ゆずお兄ちゃん。ゆずお兄ちゃんの言ってること、よくわかんないですの。祐希は、お姉ちゃんの妹で、お兄ちゃんの妹じゃないけど、お兄ちゃんの妹という事ですか? あれれ? やっぱり意味がわかりませんの!」
「ふふっ、わかんなくていいよ、祐希ちゃんはまだ。とにかく、俺は祐希ちゃんの事が大好きって事だよ。祐希ちゃんの事大好きだから、そんな事心配しなくて大丈夫って事! 本当の妹とかそうじゃないとか関係なく、俺は祐希ちゃんの事大好きだよ!」
そう言って、いまだに「ん~?」と不思議そうに首を捻る祐希ちゃんの小さな頭をなでなでしてあげる。
祐希ちゃんはそんな難しい事考えなくて良いよ、みんな大好きだから、祐希ちゃんの事は。祐希ちゃんは俺にとっても、七瀬ちゃんにとっても、大好きな妹だよ。
「ゆ、ゆずお兄ちゃん……!!! ゆずお兄ちゃん、私も大好きですの、お兄ちゃんの事大好きですの!!! えへへ、私も大好きです……えへへ、大好きですよ、お兄ちゃん♪」
感激で目をぱーっと輝かせた祐希ちゃんが俺の胸に再び飛び込んで、腰をぎゅーっと掴んで頭をぐりぐり可愛く甘えてくる。
うん、そうだよ。俺も大好きだよ、祐希ちゃん……だから、七瀬ちゃんと結婚とか、そう言う心臓に悪い話はしないでよね。
祐希ちゃんは甘えん坊の、可愛い祐希ちゃんでいてね。
「えへへ、お兄ちゃん大好きですの……ふへへ、匂い、落ち着きます、本当に好きです……ふへへ、えへへ……ん~、お兄ちゃん、もっとぎゅーしてください。もっとぎゅーして、もっとゆずお兄ちゃんの……ふへへ、お兄ちゃん♪」
「はいはい、ぎゅー……ふふっ、そんなに喜んでもらえるなら良かったよ。祐希ちゃんがそんなに喜んでくれるなら俺も嬉しいよ」
「えへへ、だってぇ、祐希お兄ちゃん大好きですもの……えへへ、大好きですの、ゆずお兄ちゃんの事……だから祐希は、将来……」
「ちょっとゆず君、なんかさわがし……って祐希!? 祐希、何しとんの、祐希! ゆず君にそんな引っ付いて、だいす……ダメダメ、ゆず君から離れなさい!!! そんなに密着ダメです!!! ゆず君も注意して、祐希に! ダメでしょ、こんなに引っ付いて、大好きとか言ったら! だ、ダメだよ祐希! お部屋戻ってなさいって言ったでしょ、祐希!!!」
そんな風に甘えてくる祐希ちゃんの事を、俺も全力で甘やかしていると、可愛いエプロンをつけた七瀬ちゃんが乱入、ぷくーっと声を荒げて俺たちに応戦。
だから大丈夫だよ、七瀬ちゃん。
祐希ちゃん可愛いし、本物の妹みたいに思ってるから全然迷惑してないし。それに、ロリコンでもないから安心して大丈夫だって。
「ロリコン? えへへ、わかんないですけど、祐希はお兄ちゃんの事大好きですの!大好きだから、こうやってしてますの、ずっと!」
「あはは、ありがと祐希ちゃん。という事だから、本当に大丈夫だよ、七瀬ちゃん。注意とかは良いって、まだ甘えたい盛りじゃん、祐希ちゃんも」
「うわっ、また……そ、そう言う事じゃなくて!!! そ、その、えっと、ゆず君はその、えっと……離れなさい! とにかく離れなさい、祐希! ゆず君にそんなにべったりしちゃダメ、大好きとかいっぱい言っちゃダメ!!!」
「嫌です、ゆずお兄ちゃんの事大好きですし、こうやって甘えるのも大好きですから。祐希はお兄ちゃんの事、大好きですから……お姉ちゃんは妹に嫉妬とはみっともないのです」
「むきー!!! 祐希! 祐希!!! もー、ゆず君も!!! もう、ゆず君は、私が……むきー!!! むきむき! むきー!!!」
「お姉ちゃんみっともないですの……ふふふっ、お兄ちゃん大好きですよ」
「あはは、俺もだよ……大丈夫かな、七瀬ちゃん?」
そんな風に地団太を踏んで、むきむき言う七瀬ちゃんをちょっと心配しながら。
俺は大好きと言ってぎゅーっと抱き着いてくる祐希ちゃんの事を、また同じように抱きしめるのであった。
~~~
「……大丈夫、バレてない、バレてない……体調不良で通ってる、大丈夫……お父さんには絶対怒られない、大丈夫、大丈夫……うん、大丈夫」
―良かった、変な誤解されなくて。学校であんなことして、それで……良かった、お父さんに、連絡行って、また勘当とか言われなくて。前回は泣いて謝り続けたら許してくれたけど、今回は……ないかも、知れなかったから。
「ふ~……ごめん、柚希」
―柚希といると、ああなっちゃうんだよね。柚希の事、美鈴が好きだから、美鈴は柚希だけの美鈴だから……だから柚希に見てもらいたくて、ああなっちゃう。
―学校では柚希に話しかけない方が……でも、美鈴は、柚希の……柚希は美鈴の、美鈴は柚希だけの、柚希のだから……だから美鈴は、美鈴は……
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