はじまりのあと

結騎 了

#365日ショートショート 350

「もう諦めろ、逃げ場はない。お前を彼の元へ引き渡す」

 こいつに私怨がないといえば嘘だ。むしろ、憎むべき相手だ。私に嘘の情報を流し、全てを台無しにした。しかし、今の私は違う。彼からの依頼でこいつを追い詰めたのだ。

「やめろ。俺が何をしたっていうんだ」

 小柄な全身を度々びくつかせながら、そいつは震える声で懇願した。

「頼む。命だけは助けてくれ」

「嫌だね」。こういうセリフは、さらっと言い放つに限る。髭に手をやりながら、視線だけは逸らさずに。「自分で蒔いた種だろう。私を騙すだけに飽き足らず、彼を一方的に利用したんだ。彼は正直者で温和だが、馬鹿ではない。お前に担がれて、内心怒り狂っていたのさ」

 一歩、一歩、にじり寄る。私の影がそいつを覆っていく。

「しかし、大柄ゆえ動きが鈍い彼は、お前を捕まえられない。だから私に依頼が来たのだ。彼は言っていたよ。君もあいつを殺したいくらい憎んでいるのだろう、って」

「嫌だ。死にたくない。死にたくない」

 目を丸く、大きく見開き。そいつの細い四肢を睨む。

「決めるのは彼だ。まあ、大方、踏み潰されて終わりだろうがね」

 にょきりと伸ばした爪を、こいつに食い込ませるとしよう。鼠の体なんて、所詮はやわなものだ。猫に敵うはずがない。そうして、早く牛のダンナの元へ連れていかなければ。

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はじまりのあと 結騎 了 @slinky_dog_s11

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