二人でなら、きっと。
「もう普通に食べませんこと⋯⋯?」
のばらがげんなりした顔で言った。
「ええ~⋯⋯面白かったのに」
「わたくしは疲れました。それに、フゥちゃんもモモタローさんも今か今かと待ち侘びておりますよ」
振り返るとテーブルの下にちょこんと行儀良くお座りして涎を垂らすモモタロー。そして、彼の頭の上にはこれまた同じくだらだらと涎を垂れ流すフゥちゃんが居た。
「そう言われちゃあ、諦めるしかないじゃん。仕方ない、普通に食べるか」
「ええ。それでは席に着きましょうか」
✳︎
「「いただきます」」
二人で食卓を囲み手を合わせる。
既にモモタローとフゥちゃんは串を取り除いた焼き熊に齧り付いていた。
「熊のお肉⋯⋯少しだけ抵抗がありますわ」
のばらは丁寧な動作で串から肉と長ネギを取り外し、その中から小さめの肉を箸で掴みながら言った。
「ま、あたしも最初は嫌だったけど意外と美味しいよ。後は、自分で取って来たものは更に美味しく感じる」
「そういうものですか⋯⋯」
捌いてしまえば、熊肉も流通している肉とそれ程変わらない。
肉は鮮やかな赤で脂身は真白で多め。食べてみると、多少筋張ってはいるものの歯応えがあり旨味が強い。そして、丁寧に処理されたものは臭みが少なく食べ易いのが特徴だ。
渋々と納得したのばらはギュッとキツく目を閉じて、恐る恐る焼き熊を口に運んだ。
顔を顰めながら静かに咀嚼していると、次第に和らぐ表情。暫くの間堪能した後、こくりと呑み込んでゆっくりと瞳を開いた。
「んっ⋯⋯! 意外と食べられますわ。なんと言うか、野性味溢れる牛肉のような味がします」
「のばらって食リポに向いてないよね。ま、美味しいなら良かった」
「⋯⋯一言余計ですけれど、今回は聞き流しましょう」
のばらから向けられる鋭い視線を避け、みゆ莉は大口を開けて串に齧り付く。
口いっぱいに頬張った焼き熊。じっくりと火を通した肉からはじゅわりと熱い脂が滲み出て、みゆ莉を幸せな気持ちにさせる。
「ん~! うっま!! なんかこう、食べると身体の内側からエネルギーが漲ってくる的なっ!?」
「⋯⋯貴女もわたくしとそう変わらないと思うのですけど」
「まぁまぁ、肉の前で争いは不毛だよ」
みゆ莉たちは一悶着ありながらも久方ぶりの新鮮な肉に舌鼓を打つのだった。
✳︎
「それにしても、さっきは死ぬかと思ったよ~! でも何とかなって良かった! ありがとね、のばら。それにモモタローも。後、フゥちゃんも⋯⋯?」
みゆ莉の声に皿から顔を上げたモモタローが「ワンッ!」と一鳴きして応える。
「元はと言えば、貴女が無理矢理連れて行ったせいなのですけどね」
「あはは、ごめんごめん。でもさ、楽しかったでしょ? あたしは生きてるーって感じがした」
「⋯⋯もう暫くは、こんな事懲り懲りですわ」
のばらは否定の言葉を口にしなかった。そして、態とらしく怒った顔を作って気持ちよさそうに目を細めるフゥちゃんを撫でる。
「⋯⋯ね、次は何狩ろっか?」
「あんなに大きな熊を狩れたんですもの。貴女となら何だって出来る気がしますわ」
「うわーっ! のばらがデレたー!!」
「う、煩いですわ! そんな事言うなら前言撤回しますっ」
「え~! それはやめて~!」
みゆ莉は顔を赤くしてそっぽを向くのばらに縋るようにして纏わりつく。
「もうっ! 離れて下さいっ」
「のばらちゃん冷たぁ~。でもさ」
みゆ莉はそこで一度口を閉じ、真っ直ぐにのばらを見詰める。
「——あたしも同じ気持ちだよ、のばら」
「!」
「ま、取り敢えずこの世界にはあたし達しか居ないんだし、明日からも生きる為に足掻きますか。⋯⋯のばら、一緒に来てくれる?」
「⋯⋯」
のばらは返事をする代わりにふわりと微笑み、差し出されたみゆ莉の手を取った。
蝦夷ヶ島少女終末紀行〜能天気どさんこガールは世間知らずのクーデレお嬢様と共に、のんびりもふもふな終末狩猟ライフを楽しむ〜 みやこ。@コンテスト3作通過🙇♀️ @miya_koo
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