第3話

契約は成立し老人の魂は僕の糧になった。僅かばかりの魔力が充填され、しばらくはこの世界に留まりながら活動できる事だろう。


契約者であるアストリアを見ると、目に涙を溜めて老人が居た空間をじっと見ていた。健気に振る舞っていてもやはり子供なのだ。心細いのだろう。


もしかしたら最後の味方だったのかも知れない老人が居なくなり、今は1人だ。僕と言う悪魔がいるが契約上の関係だし味方としての信用はないはずだ。


心情はある程度理解出来るが時間は有限だ。

悪魔がこの世界で活動するには常に魔力を消費し続ける必要がある。悪魔は対価によって魔力を手に入れ、その一部を滞在費に当てて契約を履行する。契約が終わった時に残った魔力が自分への報酬となるのだ。


先の契約の対価だけでは次の契約まで繋ぐことは難しく、色々手を打たなければならない。


まずは魔力の消費を抑えるために人化の魔法を無詠唱で唱えて人間の男へと姿を変える。身体中に光が満ちるとたちまち強靭な悪魔から貧弱な人間の身体に作り変わる。


アストリアは目の前で人間になった僕に驚いていた。毎回驚かれるので僕としては感動はない。食事が必要になったり病気になってしまうリスクがあるが普段の魔力消費を減らせるので都合が良く使っている。


「これから君をサポートするが、僕の事はマグヌスと呼んでくれ。そして悪魔の名前の方はくれぐれも呼ばないように注意してくれ」


わかったと頷く少年。


そうして本格的に2人での生活が始まった。



ーー

まず行ったのは契約者のケアだ。

傷だらけでガリガリに痩せ細っている体、漂う悪臭は人間が生きていく上で良い状態ではない。


身体を洗ってやり、適当な衣服に着替えさせたら健康診断を行う。結果は栄養不足と過度な疲労だけで幸いにも病気はなかった。


現在アストリアには十分な食事を与えて、今は寝てもらっている。本格的な修行は英気を養ってからだ。


今のうちに未回収の対価とそれ以外の魔力を確保する必要もある。やる事は山積みだが僕のモチベーションは高く苦に感じてはいない。


あと体の洗浄する際に分かった事だがアストリアは少年ではなく少女だった。弱った身体ではむずかしいだろうと手伝おうとしたらかなり抵抗されたので無理矢理洗ったら判明した。非難めいた視線を向けられるが無視をする。あいにく僕は性愛への興味がない。


そんな事よりも今後追加契約する時に気を付けようと反省する。契約をする際は契約者の情報は細かく指定する。契約には強制力があり、契約履行またはペナルティが発生すると対象者はその対価を支払う事になる。なので実際の性別が契約内容と違うと契約の強制力が働かなくなる恐れがある。


初回は貰った対価分だけ働くと言うシンプルな契約内容なので今回は悪さしないが、これが契約者が諦めない限り力を貸すとか、破った場合は追加で対価を払う、といった契約内容で契約者の情報が誤っていると効力を発揮しないのだ。


過去に僕は契約を破られたことがあるがその時のペナルティとして本懐を遂げてもらったことがある。


あれは確か…身分違いの駆け落ちを手伝って欲しいという契約だった。その時も割に合わない対価だったがあの時の僕はラブロマンスに飢えており食い付いた。そして2人の愛が本物であることを条件に駆け落ちを手伝うと契約したのだ。その時のペナルティは逃避行の完遂。しかし現実は厳しく、2人に立ちはだかる数々の困難を前にとうとう両者の愛が冷めた事でペナルティが発動。ペナルティの強制力を以てこの世から旅立ってもらった。


僕は可能な限り2人の逃避行を支援したつもりだが2人の愛がなくなるのを止められなかった。序盤中盤は最高だったのに残念な最後だったよ。


僕は簡易ベッドで眠るアストリアを見て思案する。とある王国の王族の一員だったが丞相と将軍の反乱により簡単に城は陥落、一族根絶やしになりそうな所を忠臣たちが決死の覚悟で救出、日々迫る追手にとうとう捕まり処刑の時を待つ少女は悪魔の手を取った。


王座を望むのは復讐のためか、臣下の忠信に報いるためかはまだ分からない。すぅと寝息を立てる幼い子供がこれからどんな物語を織りなすのか楽しみだ。





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あくまで人間讃歌 気分屋 @akiraf22

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