第2話

ツッコミどころはあるが、少年が覚悟をした事で及第点に達したので契約確定です。自分から名乗り出てくるところとかポイント高いですね。先生花丸あげちゃいますよ。


都合の良い展開に気を訳した僕は『見上げた気概ではないか、小僧』と言おうとしたところで老人がなりませぬと大きな声を張る。


御身は最後の貴きお方、玉座を取り戻したとて血を絶やしては本末転倒ですぞ。せめて敵の魂か国民にするべきではないかと少年の覚悟を撤回させようとする。


それに対して子供は、臣下だけに犠牲を払わせる王に大事は成せないと反論する。契約履行前に子を成せば良いとかなんとかいって忠言を退ける。うんうん、いいねいいね。


ふざけた条件を出された時から察して老人は悪魔の対価として己の主君を勘定に乗せたくないようだ。その感情の出どころはは忠信というよりも可愛がっていた孫に対する親愛だろう。


そこまで思考してゾクゾクしてきた。老人の魂は悪魔的には大した足しにはならないが僕的にはウェルカムである。


ともあれ未だ続く議論が終わるのを待つのは不毛なので援護射撃をしようと思う。


『何を自惚れている』


僕はそう言うと共に再び威圧を放つ。それも先ほどより少し強めにだ。私機嫌が悪いですの意を表明したつもりだったが、議論をしていた2人は威圧に当てられて少しの間気絶した。

老人と子供と言うのもあったがそもそも衰弱している為、繊細である事を失念してしまった。


なかなか締まらないなぁ。



ーー

2人が目を覚ますまでそれほど時間は掛からなかった。両人が目を覚ますと先ほど提示された対価では話にならない事を伝える。


悪魔契約は即物が基本。未来に手に入る対価は余程確証があるか大きなリターンがなければ成り立たない事を説明する。老人の言うここにない報酬とて価値が測れないので交渉材料足り得ない。契約の目がない事を理解したのか絶望に染る2人。


だからこそ僕は代替案を出した。


『王になる為の力になる条件では対価が足りない。ならば今支払える対価で我を使役し、更なる対価を手に入れろ』


僕のプレゼンはこうだ。

いきなりでかい契約をするのではなく少年が自力で力を身につけるサポートをするよう僕と契約する。そして僕に支払える対価を確保出来たら追加契約をすると言うものだ。


これなら元の願いからは大きく遠回りになるが彼らの本懐に近づけるだろう。当然悪魔との頻繁に契約することは契約の穴を作られて裏切られる危険がある。僕はそんなつもりがないが言っても信じてもらえないから言わないが。


説明を終えたところで2人の反応を待つ。悪魔としてはこれ以上ないくらいに優しい条件を提示したつもりだが、これに好感触を示したのは老人だった。


2人で会話させて欲しいと僕に断ると小声で話し合う。無粋な事に悪魔の耳は地獄耳なので当然聞こえているのて丸分かりだが聞こえないふりをする。そもそも悪魔の前で作戦会議は悠長すぎやしないか。まあ、話し合いの内容は問題はなかったとだけ言っておこう。


ヒソヒソ話が終わり、再び交渉を再開した2人は僕の提案した内容で契約すると言った。言質がとれた以上何も遠慮する必要がない僕は契約の手続きを始める事にした。


パチリと指を鳴らして空間魔法を発動し2人を攫う。折角束縛されていないのでドラマティックに契約しよう。悪魔と契約する際は場所を考える必要はないが、文字通り2人は永遠の別れになる。ならばこんな薄汚いところは相応しくないので場所を変えるのは当然だ。


攫った先は人界にある僕の拠点、神と天使から身を隠すために拵えたこの場所には悪魔崇拝するための冒涜的な礼拝堂があり、そこで正式に契約を交わすつもりだ。


久しぶりに来たので憶えていなかったが魔法で保管した食糧が残っていた。多少は魂の価値が上がる事を期待して少年と老人に振る舞うことにした僕は食べ物を渡すと契約の準備をすると言ってあえて離れる。老人に最後の晩餐と別れを交わす時間を与えたのだ。


ーー

半刻過ぎてから儀式は開始した。

戻った時には2人は覚悟が出来たようだ。思惑通り少年は老人と別れは済ませたようで、少年の目には真新しい涙の後が残っているが悲壮感は無かった。老人のほうはというと出会った時の憎悪が影を潜めて強い意思が瞳に宿っている。


『時が来た。これより契約を交わさん』


地下牢の一件から悪魔契約の技能に不安を覚えた僕は魔術的な手続きをリードしながら僕は契約内容を読み上げる。


『契約者は少年、対価は老人、第一の契約内容は対価の分だけ契約者を鍛える。この内容で契約するなら契約者の名の下で我が名前を呼び契約に是の意思を示せ』


「我が名はアストリア・オーディル。堕落の悪魔ヴィタと今ここに契約を交わさん」


そうして契約は成った。アストリアと名乗る少年との間に魔力的なつながりを感じると共に、対価となった老人の魂が徐々に僕へ取り込まれるのを感じる。まだ人の姿をしているその身は間も無くチリと化すだろう。


残りわずかもない時間の中、老人は何をするかと思えば僕に御礼を言う。


「悪魔殿、最後に人に戻る機会を下さり感謝する。我が君主をお頼み申す」


そうして老人はチリとなった。

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