最終話 100回目の告白の行方
義妹は俺の身体から下りると、そのまま横に寝転んだ。そしてなぜか黙ったまま俺の顔をじっと見つめている。
「……リナ、一体なにしてんの?」
「今日のあの子、たっくんのこと好きだよね?」
「いや、それはないと思うけど……」
「たっくんを見るあの目! 絶対にたっくんのこと好きだよ!」
「そっかなぁ? で、なんでリナは怒ってんの?」
「えっ……?」
「いや、あの子に会ってからずっと不機嫌じゃん。それに、さっきみたいなことして……。あっ! もしかしてヤキモチ? ハハッ、そんなはず――」
「と、とにかく! たっくんは今後告白なんかしちゃダメだからね!」
えぇ〜……そんな理不尽な……。
勢いよく部屋を出ていく義妹の後ろ姿を、俺は圧倒されたまま見送った。
でもまぁ、後輩が俺を好きだなんて、義妹に言われるまで全く気づかなかったな。さっき『告白するな』とは言われたけど、どうせ義妹は俺をからかって楽しんでるだけだし。勝算があるなら、後輩に100回目記念で勝負してみるか? でももし、義妹のこの奇行がヤキモチからくるものだとしたら? 同居ラブの可能性もまだ残ってる?
後輩と義妹。この二人を天秤にかけるとは、なんて贅沢な悩みなんだ!
そんな身の程知らずな妄想をした罰か、再び眠りについた俺は、二人の女に腕を引っ張られ、身体が真っ二つに裂けるという恐ろしい夢を見た。
◇ ◇ ◇
翌日、私は大笑いをする友人を前に、昨日の出来事をすべて話したことを後悔していた。
「義兄に馬乗りって、マジでウケる! リナさぁ、もう認めなって〜。後輩女がおにいちゃんのことを好きって気づいて嫉妬したんでしょ? それってもう好きじゃん!」
「イヤッ! 負けたくない!」
「『負けたくない』って言ってる時点で “好き” って認めてると思うんだけど……。それに、リナにとっては今まで恋愛なんてゲームでしかなかったかもしれないけど、今回は違うって自分でも気づいてるんでしょ?」
「そ、それは……」
確かに義兄に対して、これまで遊んできた男たちには芽生えなかった感情がある。でもそれは “吊り橋効果” っていうのだと思う。襲われかけたあの日、目の前に現れたスーツ姿の義兄がカッコよく見えただけ……。
「そうやって意地張ってる間に、その後輩女に横から取られてもいいの?」
「まさか! そんなことはない……はず」
「わっかんないよ〜? 義理とはいえ、妹よりも普通の、それも自分のことを好きかもしれない女を選ぶ方がリスク少ないじゃん?」
義兄のいつもの優しい笑顔が、私でなくあの後輩女に向けられる姿を想像するだけで気分が落ち込んだ。
ヤバい。何としてでも100回目の告白を阻止しなきゃ……。
その数日後、義兄から「後輩と食事してから帰る」とメールが入った。
◇ ◇ ◇
今夜俺は100回目の告白を決行することにした。
この日は、以前より例の後輩から食事に誘われていた。義妹にメールしたところ、『ダメッ!』と即レスが来た。しかし、俺の中で答えはもう出ている。
「先輩……、実は前から好きでした! 付き合ってください!」
好きな人を前にして真っ直ぐに気持ちを伝える緊張感。俺だって99回も同じ経験をしているから分かる。……そしてこの答えを言われた後の絶望感も……。
「……ごめん。好きな人がいる」
後輩は涙こそ流さなかったが、今にも泣き出しそうな作り笑顔で店を出ていった。
俺はこの時、初めてフる側の辛さを知った。
家に帰り着くと、義妹が玄関で俺の帰りを待っていた。
「たっくん……」
「リナ、後で話があるからオレの部屋に来て」
しばらくして義妹が部屋に来た。なんだか顔色が良くない。
「リナ、体調悪いの?」
「ううん、大丈夫。で、話って……何?」
「あのさ、世間体とか親のこととかあるけど、そんなことどうでもいいくらい、リナ、お前のことが好きなんだ」
一瞬で部屋が痛いほどの沈黙に包まれた。この空気……。あぁ、嫌な予感がする。
「…………ごめん」
やっぱりフラレた……。俺の100回目の告白は失恋という結果となってしまった。
しかし義妹は、天使のような穏やかな笑顔で話を続けた。
「ごめん。たっくんの失恋記録を99回で止めることになっちゃう」
「……ってことは?」
「あ〜あ、私の人生初告白だったのに、先に言われちゃった。……あのね、私もたっくんのこと大好きだよ。彼女にしてください」
これからは、この天使で小悪魔な女のコに振り回される日々が待っているのだろう。だが、それはそれでアリだと思う。
完
失恋回数通算99回目の俺のところに天使が舞い降りた 元 蜜 @motomitsu
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