ifルート:ハジダリ「一途な希望」
バイトの帰り道。
いつもの
「うら若い女性が、夜に独り歩きするのは危険」
「自転車や車といった移動手段も
「ピンチを未然に防げなかったし、(本人が了承済みとはいえ)就活中に誑し込んだ、抱き込んだ罪悪感、責任が
「何か
「厳密には社会人ではない以上、大人としての責任を果たす義務が伴う」
「仮ではあるものの、恋人だから」
などというのが、本人の談。
そんな
改めて思うのだが。
やはり、恋人役に大抜擢したのは、正解だった。
別に、本当に付き合っている
ラブコメにありがちな、「ストーカーとかのお邪魔虫向けの魔除け」。
そういう体で、数日前から始まった、契約彼氏である。
といっても、
しかも、そんなストーカーなんて、
きっと、彼は気付いていないだろう。
彼の古風なスタイルに、初対面の時点で気を良くした
つまり
しかも、「早く、くっ付いちゃいなさい!」という、母のメタ・メッセージが、ふんだんに溶かされているのと。
そんなに離れてないし、こっちからすれば、余裕で恋愛対象なのに。
女性による、名字被り以外での『名前呼び』は、特別な意味、好意の証左、アピールに他ならないというのに。
そもそも、「好きになるな」という方が無理なんですよ。
だって、この人、自分が非番の時でさえ、その
しかも、仕事以外の用事の時だって、出向いてくれてるんですよ?
そうやって可能な限り、ボディーガードをしてくれてるんですよ?
そんな
両親や、既婚者の同僚はともかく。
同世代の子にチヤホヤされて、私が心中穏やかではないとも知らずに。
今日だって、あの、
私だって、まだなのに。
「
どうかしたか?」
悶々、ムッとしていると、不意に
我に帰った
「いえ。
今日はちょっと、疲れたなぁって」
「そらそーだ。
「来週ですからね、
「その
それに
俺も最近、振り回されっ放しで大変だよ」
「そういう割に、どこか楽し
「ん?」
「
気にしないでください」
「おぉ?
そかぁ?
なら、
ボソッと
こういう時、彼のシンプルさが、
一方で、
少し
「ん?」
などと思っていると。
不意に
「おー、お疲れ、
……今?
……あれ? 言ってなかったっけか?
……ばっ……! そんなんじゃねぇよ!
……分かった、悪かったって!
今度からは、ちゃんと欠かさねぇから!
は!? 高級クルトン、今から!?
クルトンなら、普段から食べ
てか、クルトン専門店とか、
作らせた!? あんたが!? 相変わらず、規格外だなぁ、おい!
分かったよ! 帰りに買ってくって!
今回は大目に見てくれ、な!
……おー、お疲れ!」
……なんて情報量、ツッコミ所の多い会話だろうか。
やや引きつつ、通話を終えた
「どういう
今の会話……。
まるで、同棲中のカップルみたいでしたけど……」
「ひ、
ど、どした?
顔、怖ぇぞ?」
「お気になさらず……。
それより、答えてください……。
お二人は、同棲中なんですか……?」
「ち、違うって!
一緒に暮らしてるだけ!
使用人として、雇われただけだから!
「提案し、願い出たのは、
「
第一、もしもの
「ふーん……」
つまり今、
にしては
まさか、そんな裏ルートが
家事ベタが
彼に気に入られる
「ひ、
どした?
「
私は今、あなたに対して怒っています。
歩きながらでも可なので、考えてください」
「え?」
言われた通り、歩を進めつつ、頭を回転させる
そこら辺を読み取って
先程は、『歩きながらで』ではなく、『歩きながらでも』と言った。
……我ながら面倒だな、私。
と、少し凹んだが。
熟考の末に、
「……まさかとは。
まさかとは、思うけどよ。
自意識過剰、
「そういう、焦れったいだけなの、
答えだけ、お聞かせください」
「うっ」
釘を刺され、言葉を詰まらせる
続けて、彼から出た言葉は。
「……『
……だったり、します?」
突然の、謎の敬語。
いつもなら、吹き出していたに違いない。
今の
別に、それ
彼が
「及第点ではありますが。
それじゃあ、三角ですね。
どうして私が、それで怒ると思いますか?」
「『
……とか?」
……期待した自分が、
彼に、そこまでのアクションを求めるなんて。
そんな甲斐性が
「……言いたい
次に2つ目。気を遣われた
最後に、3つ目。ちょっとそれっぽい
「最後、
「
バーカ、バーカ、女の敵、へっぽこ彼氏」
「
……嘘
やっぱり、意識してるんじゃん。
私には、してくれないのに。
帰り道は基本的にセットなのに全然、ナビしてくれない、靡いてくれない
ここまで付き添ってくれてる時点で充分、特別扱いだって、分かってる。
でも、それじゃ足りない。
だって今、
課金ありきとはいえ、不平等だ。
あー……
どうにかして、
けど、「私を褒めて」「私にも構え」とか、ストレートには頼めない。
そんなの、ただの告白だ。
……あ。
そうだ。
「
「だから、
……
「プ・リ・キュ・◯。
分かりますか?」
「まぁ……多少?」
分かるんだ。
テリトリーなんだ。
まさか、2次コンかロリコンだったり、しないよね?
……後者だったら、もう私にオチて(以下略)。
「じゃあ、ハート◯ャッチは、ご存知ですか?」
「知ってるけど……」
「でしたら。
4人の中で、誰が好きですか?
コード・ネームや中の人ではなく、キャラ名でお答えください」
「……その質問、必要?」
「選択肢によっては」
「はぁ……。
まぁ、月影ゆ」
「
「……じゃなくて、つぼ」
「安牌通り越して安直ですねー」
「……でもなくて、えり」
「変顔好きなんて、マニアックですねー」
「いつ◯ですっ!!
い◯き、めっちゃ好きです!!」
作戦成功。
これで
思いっ切り誘導尋問だし、
しかも、そこまで誘導したのも、自分。
これは、大手柄だ。
といっても、今は有頂天だからセーフではあるものの。
自宅のベッドに辿り着いた頃には、色んな後ろめたさで転げ回ってそうだが。
それも、ともすれば部屋着ではなく、私服のまま。
手を合わせ、目を閉じ、多幸感に包まれ、噛み締め、涙すら流す
一方、
「な、なぁ。
一体、
「……」
ここまであからさまにアプローチしても、通じないのか。
もしくは、その両方か。
未だに『
恥を忍んで、もう少し攻めてみるか。
「えいっ」
あざとさの極みみたいな声で奮い立たせ。
それも、ヘラってるでも、電車内でもないのに。
「……ひ、
「疲れてるんで、
そんな所に、丁度
「ご無体な……。
てか、その割には、今まで結構、喋ってたよーな……」
「気の
「
「役得です」
「どっちが?
しかも、
これ、俗に言わなくても、
あまつさえ、
……当たってん、だけど……」
「当ててんのよです。
まさか、ご不満だとでも?
私これでも、
「なぁ俺これ次、
「罪深いですよねぇ、
年端も行かない女子大生に、ここまでサービスさせるなんて」
「ち、ちちちちが、違うかんなっ!?
送り狼とか、そんなんじゃないかんなっ!?」
「だからこそ、間違ってるのになぁ」
「どゆ
「
早く、ゆっくり帰りましょう」
「矛盾!!」
「ところで。
これからは、なるべく隠し
確かに、ちょっとは傷付いたんですから」
「ぜっ、善処します!!」
「さほど期待しませんし、してませんし、
「しろよっ!!
してくれよ、
腕を組みつつ、
どうせなら、もう少し利用させて
今夜は徹頭徹尾、悪女であり続けよう。
「
ゴトハナは分かります?」
「お?
おぉ」
「じゃあ、五つ子の中で、誰が好きですか?
役名で、お教えください」
「……その質問、ひ」
「
選択肢によっては。
私にとっては」
「……まぁ、み」
「私、歴史って苦手なんですよねー。
いっつも赤点な
あと、抹茶ソーダもー」
「……に」
「今、ダイエット中でー。
お菓子の話とか、したくも聞きたくないなー。
あと、ツンデレって正直、オワコン染みてますよねー」
「……いち」
「もしかして
だとしたら、ちょっと幻滅かもですねー」
「……よつ」
「
それはそれで、個人的には
「五◯です、天下無敵の◯月派ですぅ!!」
「むっふっふー。
そう来なくっちゃー」
「
それ以外は、解釈違いだと!?」
「解釈違い起こしてるのは、
「だ〜か〜らぁ!!」
そんな会話もしつつ、帰路に就く二人。
泡沫の恋人ごっこを、月だけが見守っていた。
※
結局の所、ごっこ遊びだった。
だからこそ、本気にさせようとした。
自分が本気を、恋心を伝える
その
にも
苦楽を共にしたメンバーは当日、全員、ボイコットした。
自分がしていたのは、恋人ごっこだけじゃない。
どうやら、バンドや仲間も、ごっこだったらしい。
薄々、感じていた。
またしても、嫌われていると。
インターンもしていたとはいえ、親の働く大手に内定していた自分は、やっかまれていたと。
そうじゃなくても、こんな性格だし。
でも、ハブにされるのは、ライブ後で。
それまでは、どうにか保ってくれるものと、信じて疑わなかった。
その結果が、これだ。
本番数分前だというのに、ギターも、ベースも、ドラムも不在。
こんなんで、どう「歌え」というのか。
一月前から予定を開けて、
まさか、こんな、『おじさま◯猫』みたいな
「誰でも
選り好みなんて、しないからぁ……。
誰か……。
誰か、助けてよぉ……」
舞台袖で体育座りをして、涙ながらに訴える
当然、こんな自分に手を差し伸べてくれる人なんて、誰も……。
「
ーーううん。
というより、知ってた。
こういう時、彼は。
私からは、
「なん、で……」
「
んで、文実に確認して、ここに!!
てか、
二度も俺に、あんたを見捨てさせないでくれよ!!
そりゃ、一緒に練習してねぇし、歳も違ぇし、我ながらナルってるけどよぉ!!
俺かて、
確かに、偽りだらけかもしれんけど!!
別に、
あんたと、俺は!!
正真正銘の、『仲間』だろ!?」
「なか……ま……?
「そうだよっ!!
少なくとも、俺の認識ではな!!
それに、安心しろ!!
ピンチ・ヒッターなら、もう用意したっ!!」
「……ぇ……?」
そのまま、ピンヒールでグリグリと攻撃した。
「『用意した』、ですってぇ……?
こんな緊クエ、問答無用で押し付けて来た
「し、
仲間の一大事だぞ!?
それに
「そうよ、オフよ!!
だってのに、
しかも、ボーカル以外、全パートを、5曲分もっ!!
ブラックに
「他に頼める人、
シンセの経験者とか、身近には、あんたしかっ!!
大体、前払いなら、高級クルトンで手ぇ打っただろ!!」
そういえば、履歴書に『シンセサイザー』とか書いてた気が……。
もしかして、それだけで、助けてくれたっていうの……?
あれだけの仕事量を、あんな代償で……?
あの
これ
「もう
「ぐぇっ!?」
お
対する
「この
それより、
「は、はいっ!」
「ビビらなくて
非効率。
あんたには、
前述の通り、そこのドアホに命令されたので、
セトリは網羅してるし、
「そ、そこまでぇ!?」
「当然よ。
カラオケじゃないんだもの。
人様の前でお披露目するなら、最低限のプロ意識は持たないと。
それに、やるからには、勝ちに行くわよ。
てな
もう運営とも、そう話を付けてあるし。
昔、ドラム齧ってたらしいし。
っても、私は演奏は初心者だし、あっちもブランク
あんた以外は、エアーだけど。
どうする?
それなら、一人じゃないわよね?」
……
こんな好条件を、即席で押し付けて来るなんて。
こんなの。
心を開かない、
「……お願いします!!
……『
大きく息を吸って、頼み込む
腕組みをしていた
「……
この私に、バック・ログさせないで
あんたは、歌う側なのよ。
ステージに立つ前から、喉を酷使するんじゃないわよ」
尊大かつ、寛大。
そんな、相反しそうな態度を両立させつつ。
「……
ここまで、
一人だけでも、やり通そうとした。
負けなかった、曲げなかった。
大した女よ、あんた。
特別に、ね」
「……
「でも、覚えておきなさい。
あんた、もう少しで、
一部の知ったか共に、七光扱いされちゃうじゃない」
「……はいっ!!」
「だから、大声出すな」
「は、はいっ……」
「あと、妙な勘違いしてる
「えぇ〜!?」
「ほら、
いつまでもサボってるんじゃないわよ」
「あ……あんたが、そうしたんだろがぁっ!!」
「違うわ。
つまり、自業自得ね」
「
「それより、
どうせだったら、ど派手に暴れるわよ。
何曲か、ツイン・ボーカルで行きましょう」
「ただ単に目立って優越感に浸りたいだけだろ、あんた!」
「
誰も迷惑しないわ」
「困惑はするがな!」
「お黙り。
それに、
最後の曲、あんたの
「……え?
うわ、マジだ!?
すげー偶然っ!!」
「……そうね。
大層、幸せね、あんた。
色んな意味で」
確かにトリは、
正確には、
彼に、想いを伝える
それはそうと。
「……
まさか、お二人でカラオケ行ったんですか……?
それって、
仮とはいえ、彼女の私には、声掛けてくれなかったのに……。
この前、『隠し
実家に帰った
またしても、闇オーラを放出する
堪らず、
数秒後。
「罰として。
引き上げてください。
拒否権は
「……はい……」
そのまま、三人でステージを見る。
「
それと……
「おうっ!!」
「承知したわ」
円陣を作り、拳を突き合わせる二人。
そうして三人は、数分後。
後世にまで語られる、伝説のライブを披露するのだった。
※
「なぁ……?
ステージの前で、ビクビクする
情けない姿を見て、
こういう所、何年経っても、変わらない。
結婚しても、提携しても、子供が出来ても、『オタカラ』がグローバルになっても。
「
ゲストに来てくれって、頼まれたんだから」
「そりゃそうだけどよぉ、
にしたってだなぁ。
俺達、別にプロじゃないぜ?
ただ、『オタカラ』を広めた、ってだけだぜ?」
「
あれだけ、ハチャメチャなライブをした、幻のバンドなのに」
「
主に、
その呼び方、まだ変わってないんだ。
もう、『
だからといって、名前呼びされたら、それはそれで腹が立つんだが。
「パパッ!!
文句言わないっ!!」
日和ってる
父を踏んづけつつ、
「いつまでグダグダしてるのよっ!
もう、ライブ直前なのよ!?
それとも、
「
てか、いっつも言ってっけど!
どうせだったら、
「パパがしっかりすれば済む話っ!!
「いててててっ、首っ!!
首は、
首根っこを掴まれ、強制連行される父。
それを
そのまま、彼にキスをした。
「なぁっ……!?」
不意打ちを食らい、真っ赤になる
面白い反面、不服である。
「まだ慣れないの?
もっと恥ずかしい
それでいて、始まりの男。
彼は、そんなダーリン。
名付けるならば、『ハジダリ』である。
「今よ、
「ママ、ナーイス!!
容疑者、確保ぉ!!
さぁ!! 行くよ、パパッ!!」
「い、
図ったなぁ!?」
「
べーだ」
愛する娘、仲間と共に。
笑って、笑って、生きて行く。
一途な希望を、常に宿して。
タジダリ ータスクイーンとネッシンシー 七熊レン @apwdpwamtg
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