外伝「單 一希」
逞しい腕。
冷静かつ熱血な声。
確かな優しさを秘めた強面。
「
変な
安心しろ。あんたはもう、大丈夫だ」
そんな言葉と共に向けられる、眩しい笑顔。
こんな出会い方をしたら、自分じゃなくても、一目惚れするに違いないと。
※
「
ふてぶてしい野郎共だぜ。
神聖なる本屋でナンパたぁなぁ。
そんでもって、こっちが警察に電話する振りぃしてみせたら、みっともねぇ奇声発しながら、そそくさ逃げやがってよぉ。
最近のぁ根性が足りねんだよ」
「あ、あはは……」
あなたが、古風というか、
基準からして、間違ってる
事情聴取も兼ねてバックヤードに案内された
「ほんで、本題なんだが。
そのぉ、
……えっとぉ……」
それまでハキハキ、ワイルドにしていた彼が、
意外に
「無事です。
店員さんが、助けてくれましたから。
えと……」
「
その名前は、彼の熱い人柄に、実に合っていた。
それが
真相は定かではないが、
「
素敵なお名前ですね」
「そかぁ?
読み辛いって言われて困ってるんだがなぁ」
それに関しては同意する他
「私は、
大学四年です」
「て
大変だろぉ? 今。氷河期なんて言われてるもんなぁ。
頑張ってんなぁ、あんた」
「あ、いえ、そこまでは……。
昔から手伝っていた縁で、母の務める会社に、
っても、コネとか社長とかじゃないし、ちゃんと実力だし働いてるし働くし、社員の皆様も
それはそれとして、やっぱりお仕事なので、それなりに大変ではありますが……」
まさか労われるとは思っておらず、ペースを崩される
このまま中途半端にならない
「この度は助けて頂き、
「ま、まぁまぁ、落ち着けって。
そう固くならんくて
ほら。座んなって。な?
ジュース飲むか? てか、飲めるか?」
近くの台に置いてあったドリンクを、
「……レモン・ティー?」
またしても意外な好みに、
いや……ニアミスというか、お茶では
「あ、わ、悪ぃ!
苦手だったか!?」
「……大好きです」
たった今から。
飲んだ
あなたが、くれたから。
そんな言葉を、
びっくりする
この人が、
「そか。
なら、良かった」
「すみません。
「
元々、後で飲もうとして買っといただけだ」
「え」
と、言う
……間接キス?
「……あっ!
ても、あれだぞ!? まだ口付けて
そんなにベタベタ触ってもねぇし!
ただ今、財布ロッカーだから、
あー!」
別に
かと思えば急に冷静になり。
「……
飲んでくれて構わない。
な?」
「じゃあ……頂きます」
「おう」
子供っぽい
そもそも、蓋の下を見れば、一目瞭然じゃない……。
てか私、こんなにガツガツしてたっけ……?
「さて、と。
とりま
これから、どうする? 本当に、警察に行くか?」
「いえ……。
確かにドギマギしましたが、腕を触られただけなので……」
「俺から言わせりゃ、それも立派な犯罪なんだが……。
あんたが言うなら、まぁ……情状酌量としといてやるか。
んじゃ、この件は終わりっと。
話してて楽しい内容でもねぇしな」
「あ……」
しまった。
もう、話題が
彼と、もっと話したいのに。
好きな人とか、タイプとか、彼女の有無とか、もっと聞きたいのに。
もっと彼の
「あ、あのっ!
いいお店ですよね、ここ!
品揃えもサービスも
「お、俺?」
「じゃなくてっ!
えと、えと……!
通い詰めたいです!」
「そりゃあ、どうも……。
これからも是非、ご贔屓に……」
「はいっ!
でも、
……ですから!」
再び立ち上がり、
「私を……ここで、働かせてください!」
突飛だなぁと、我ながら思う。
臨床心理学とか、ディベートとか学んでるのに、メンタルの
でも、しょうがないじゃない。
好きなんだもん。
そう自分を納得させる
開き直りではあるが、変に
「ほ、ほら!
同僚さん達が目を光らせてくれてるし、電話なり通報ボタンなり押せば一発だし!」
「まぁ……そう、かな?」
「それに私、自分で言うのも
必要単位だって三年の時点でほぼ満たしてるし、卒論だってパス直前ですし、後は週一で通学して、前期と後期で必修一コマずつ取れば、卒業なんです!
就職の方も、上述の通りですし!
要するに! 割と暇なんです!」
「ああ……そうなの?」
の割には
などと
「で、ですから……!
ですからぁ……!!」
気付けば
いけない。
ハッとし、
失態だ。
また、元来の悪い
こんなだから、『あざとい』とか『うざい』とか言われ続けてるのに。
こんな自分、
そんな
そ、っと。目の前に、ハンカチが見えた。
差し出してくれたのは、言うまでも
「……ほら」
数分前から恋い焦がれて仕方の
「……ありがとう、ございます……」
こっそり、
惚れているのだから、これ
そう。
言うなれば、天然カマトトである。
「
あんたの気持ちは、
ただなぁ……俺、店長じゃないんだわ。
俺の一存で、合否を決める訳にゃあいかんのよ」
「あ……。
ですよ、ね……」
と同時に、ネガティブな気持ちになる。
今の一言さえ、体よく自分をフる
「だからさ」
厳つい顔を崩し、ニカッと笑い、少し恥ずかしそうに、
「今度、面接来てくれよ。
店長に話して、アポ取っとくからよ。
あんた、好感持てるから、きっと採用されるよ」
本音を言っても誤解、曲解されるだけの人生を送り続けて来た
どれだけ、心持ちにしていたか。
どれだけ
「私……疎まれてばっかですよ?」
「単に相手に恵まれなかっただけだ。
あんた、家族とは別に仲悪くないだろ?
あんたを見てれば分かる。あんたのご両親、ご家族は、あんたの
「私……ここに
「ここだけの話、少なくとも俺は、あんたに是が非でも来て
あんた、面白いからな。
それに、
俺は、あんたが好きだ」
……分かってる。
リップサービスではないにせよ、その『好き』に、特別な意味は
自分は
異性としてでも、ましてや恋人候補としてでもないのだと。
自分は、
彼ならきっと、自分がどれだけアプローチしても、優しくして
それは、想像するだに、恐ろしい。
悔しいし、悲しいし、苦しいし、狂おしい。
けど……それでも、構わない。
もう少しだけ、彼の
あと
私はもう、他に
「……また来ます。
絶対、戻って来ます。
今度は、同僚として」
「おう。
待ってるぜ、
あんたを、応援してる」
ほら。やっぱり、思った通りだ。
私は『
私は『あんた』であって、『お前』じゃない。
私は……選考外なんだ。
だったら。
面接と同じだ。
何度も何度も、自分を、彼の
いつかきっと、合格してみせる。
「
これから、
「気ぃ早ぇって。
でも、まぁ……
「はい!
何卒、
「
ガチにならない
本気だから。本気で、心から、彼が好きだから。
※
「そう、思ってたんだけど、なぁ……。
その
あれから時が経ち。
入社したての
憧れて、羨んで、喧嘩して、打ち明け合って、やっと
その果てに、今。
クールで、大人で、仕事が出来て、スタイリッシュで、
なのに、仕事以外はダメダメで、お
悔しいけど、
「……っ!!」
ああ、まただ。
あざとく、みっともなく、泣いてしまった。
今は……この人の前では、特に……。
ポンッと、ベッドの上に
丁度、出会ったばかりの
何よ。何よ、何よ。
あなたなんて、金メッキならぬ銀メッキの
身長はともかく、私より小さい
出来る
珈琲ブラックで飲めない
いきなり、知識も
……心の底から、恨めしいのに。
なのに……なのに。
「
そんなに……優しく、するんですかぁ……。
私……最低、なのに……」
卑怯者。
裏切り者。
お邪魔虫。
割り込み厨。
ポンコツ。
ツンデレ。
高飛車女。
男勝り。
勝ち気。
メシマズ。
コミュ音痴。
冷徹人間。
ロジハラ。
偏屈家。
喧嘩好き。
サークラ未満。
恋愛アマチュア。
ロボット
ワーカホリック。
元スマイル0点。
名前そっくりさん。
スタイル
眼鏡。
負けヒロイン属性。
属性盛り
孤独気取り。
構ってちゃん。
mktnのパチモン。
ミサンドリスト。
残念美人。
西洋人形。
猫型女。
お子ちゃま。
妖怪テント張り。
見栄っ張り。
守銭奴。
ドケチ。
RTAガチ勢。
ラスボス。
バカネモチ。
裏ボス。
UR持ち腐れ。
DLC女。
後付け型ヒロイン。
引換券。
出会って二ヶ月足らずの、ぽっと
こっちになんか帰って来ないで、都会でだけバリバリしてれば
前に聞いた、喫茶店のマスターの幼馴染と、
次から次へと溢れる、罵詈雑言の数々。
そうだ。
私なんて、ただの良い子しいなのに。
同性からも、異性からも、嫌われてばっかりだったのに。
なのに、
……
「……
……
あなたなら
「私はっ!!」
思っていた以上に大きな声が出た。
きっと、感情に比例したのだ。
「私はぁ……」
好きだった。
……あなたの、
「……あなたが、羨ましいし、恨めしい。
あなたなんか、嫌いだけど……もっと、好き……」
「……
「そういう気分になったんだもの。
許して
「……猫型女」
「
……よく吠えるワンチャン……」
彼女も、涙を流していた。
「……やっぱり私、あなたが嫌い。
……あなたみたいな、卑怯者……」
「……そうね」
「……勝手に、感情移入しないで。
……私の心を、読み取らないで……」
「……そうね」
「嫌いなのに。嫌いな、
……なんで……
「……ありがとう」
「だから……そういう所が……」
健闘を讃える
私も好きよ、と囁く
もう
こうして
※
「
また、あいつと一緒に働けるチャンスなのに」
それから数カ月後。
見事に、袖にされた。
「……もう、就職先が決まってしまいましたから」
「もう少し早かったらOKしてた。
ってメタメッセージが受け取れるけど?」
「そこは流しておきましょうよ。
それに……あなたに気を遣われてまで、
そういうのは、ちゃんと、自分の力で、意思でしないと」
「……バレた?」
「
本当に、変な人だ。
仮にも恋敵を、
公私混同極まれりではないか。
「……分かったわ。
だったら、定期的に顔を出しなさい。
歓迎するわ」
「……
「
「万年新婚夫婦」
「あなたの憎まれ口、好きよ?」
「ドM」
「残念、真逆、不正解。
もっとお勉強なさい」
「……またね、
……そろそろかな。
そう、
もうそろそろ、許されるかな。認めようかな、と。
「……またね、
明らかに、意味深に、
「次会う時まで、もっと身長、伸びると
「あと半年は、バイトでしょぉ!?
「そうね。
「
そんな喧嘩を最後に背中を向け、キザに手を振り、
そして、誓うのだ。
いつか絶対、
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