第4話
「なんで前回の体育委員来なかったんだ?」
そう聞こえた気がした。
「すまん、もう一度言ってくれ」
「なんで体育委員の集まりに来なかったんだって聞いてんの。」
???
「あえて話を変えてくれたのは理解出来るし、気遣いには感謝する。だからって、こんな生産性のない嘘はどうかと思うぞ」
「いや〜俺と利一が体育委員なんてなぁ人生何が起こるか分からないなぁ~」
成世は俺を完全に無視しながら感慨深げに虚空を見ている。
「お前の発言はおかしいとこだらけだ。1つは俺が体育委員とかいう陽キャ専用委員会に入っていること。2つ目はお前みたいな省エネ家が体育委員なんて燃費の悪い委員会に入るはずがないこと。」
「はい、これ」
俺の言葉を軽くあしらいながら、すっと1枚の
手に取って、最初に目に入ってきたのは''学級通信''と書かれた大きな文字だった。
「1番下の表見てみて」
指示通りにプリントの下の方を眺めると、委員会役員決定!責任をもって頑張りましょう!みたいな文章と共に誰がどの委員会に所属しているかを表にしたものが掲載されていた。
図書委員会......風紀委員会......文化委員会......
軽く見た感じ、知らない名前ばかりだったのでおそらくは成世のクラスだろう。
まぁ、もともと知ってる名前の方が少ないんですが..................
ってマジか
一人で自虐しながら、学級通信を眺めていると既視感のある苗字が目に入る。
体育委員会の欄に文字があったのだ。
「成世...いやかつて成世だった奴!成世の体を使って好き放題しようなんて俺が許さねぇ!」
「そういう反応か......」
俺が冗談交じりで言うと、成世は少し驚いた顔をしたのち苦笑した。
いつもなら平坦なトーンのまま「何バカなこと言ってんだ」って足蹴にされるとこだが、今日は違うらしい。
俺は馬鹿な冗談をやめて、率直な感想を述べる。
「いや、お前まじか.......」
「マジだ。」
「どんな風の吹き回しか知らないけど、まぁ、いいんじゃね。頑張れよ」
俺はただ思っていることをそのまま言葉にする。
またも目を大きく見開き驚いた様子の成世だったが、すぐにいつもの何を考えているのか分からない顔に戻り、「はいはい、ありがと」と雑にあしらわれ、
「そんなことよりもっと仰天なニュースがある。」
と上手く話をそらされてしまった。
せっかく応援してやったのに......
軽々しく受け流されるとこっちのほうが恥ずかしくなってくる。
「はい、これ」
「は、なんだこれ」
またしても、与えられたのは、一枚の更紙。
「体育委員会、活動報告書。」
「そんなの見たら分かる。こんなくそデカ文字で書かれてんだから。視力検査の一番上にあるひらがなの『い』ぐらいでけぇよ」
「そのプリント作ったの俺なんだけど。」
「またまたぁ、つまらんご冗談を~」
「利一の冗談より、十倍は面白いけど。」
「…………」
「俺、書記になったから。来週配布するからそれまでに完成させろって、言って早々にこき使われてるんだよ」
「……………………」
「あ、利一は副委員長になったよ。ここ、ほら」
「……………………………ん?」
成世の指さす所を見ると、『役員決定!柊利一くん、副委員長おめでとう!」と視力検査の上から四番目くらいの大きさで書かれていた。
「どこから突っ込めばいいんだよ!」
思わず、声を荒げる。
この短時間で抱えきれないほどの莫大な情報量に耐え切るわけもなく、憤りが爆発する。
「無駄なことは意地でもしない成世が体育委員会に入ったと思えば、なんか役員になってるし、文字のサイズでけぇプリント作ってくるし。勝手に俺が体育委員になって、挙句の果て副委員長にされるってなんだよ!しかも、『柊利一くん、副委員長おめでとう!』って私情が混ざりまくりのプリントを来週配るってふざけてんのか!......はぁ......はぁ」
「要約助かる」
長々と垂れた文句をたったの一秒、しかも真顔で跳ねのけられた。
俺の労力は何だったんだと拍子抜けしてしまい、急に疲労感が押し寄せる。
「……お前なぁ、わざわざこんなプリント作ってくるなんて、ドッキリに手間かけすぎだろ」
「まぁね、利一なら面白いリアクションをかましてくれるかなと」
誇らしげに親指を立てているが、表情筋がコンクリート並みに固まっている成世。
圧倒的な真顔にこちらもたまらず苦笑い。
「……完全に騙されたわ。にしてもプリント作るの上手いな。」
手元にある更紙をペラペラと揺蕩わせながらも、再びその完成度の高さに驚かされる。
「流石に、名指しはやりすぎたな」
「でも、いいネタバラシだった!面白かったぞ。」
率直な感想を述べる。
本来なら、寝るだけの休み時間だったし、まぁ悪くない。
突発的なドッキリの終わりを見計らっていたのか、ここで授業開始のチャイムが一体に響いた。
「やば、つぎ学年主任の授業だ」
窓に乗りかかっていた体を跳ね起こす成世。
「あの先生うるさいもんな。またな」
「じゃあ.........」
背を向け走り出した……と思ったが急に踵を返し、こちらに駆け戻ってきた。
「言い忘れてた。今日の放課後、急だけど委員会あるから」
これだけを言い残して、また廊下を駆け始める。
「は?」
「詳細は天霧さんに聞いといて!」
「おい!ちょっと待っ......」
窓から廊下を覗き込んだが、そこに成世の姿はなかった。
「私がどうかしたの?」
え?
降りかかるイレギュラーな出来事の数々に今度こそ、頭がパンクしそうになると同時に、その人の声を聴くだけで先までの疲労が一気に回復していくようだった。
月のような静けさを感じさせる、そんな穏やかで幽かな響きに振り返ると、いつの間にか教室に戻ってきていた天霧さんが隣に座っていた。
自習室では積極的な天霧さん 下冬ゆ〜だい @Yudai1212
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